月
「ほら、行くわよ。」
「はーい。」
休みって聞いてたのに。
ナギ達Aがナギ達Bの特訓に付き合うことになった。
もちろん顔は隠す。何か面倒だしな。
「エルに頼んだよ?」
「一応…希望はある?」
「可もなく不可もなくな質なら何でも良さそうだけどなぁ…人よりは動物?」
「分かったわ。」
お面を用意することにした。
前はジミーと買い物に行って不審な魔物に出会ったからな。
不審じゃない魔物ってなんだよ。
…………………………。
「おっす。」
「エルー。お疲れ。」
「いやいや、ナギこそだろ。俺は結局もう1人のお前の家で夕飯までご馳走になっただけだし。」
「うわ。クソのんびりしてたのか。」
「なのにお前は死にかけたとか死んだけど生き返ったとか。」
「両方正解だな。で、例のブツは?」
「おう。これ。」
紙袋を手渡された。
「秘密任務だってこなしちゃうスーパー盗賊ことエルが用意したお面だからな。さすがに判定は厳しめだぞ?」
「大丈夫気に入るって。いくつか買ったし。」
「…1個目。おい。」
「流行り物はダメか?」
「流行りなの?これ?だとしてもピックアップ下手くそだろ!なんだよこれ完全にプリティガールズ〜あなたと私はフォーリンラブ〜のお面じゃねえか!これアレだぞ!女の子の中でもどの年齢層に刺さるか微妙な作品だぞ!?」
「昨日はミカとリカの双子が大活躍だったんだよな。」
「知らねえよっ!見てねえし今後も見ねえし!次!」
「……2個目。ヒカリさん。お仕置き用の魔法お願いします。」
「ええ。」
「なんで!ロードオブザミサンガは嫌い?名作だろ?」
「迷作だよ!文字違う!誰がミサンガの効果検証ドキュメンタリーをそこまで崇めるんだ!しかもこれ…出演者だよな?作品関係ないよな?」
「はいはい。次。」
「…3個目。はぁ…ヒカリさん。」
「えいっ。」
「あっち!やべえっ!俺の尻…」
「あのな。どうしてバターウォーズ?これはまぁある意味名作なんだけども。」
バターとマーガリンの戦争。ただそれだけの作品。
パンと合体したり色んな食べ物と合体して、どれだけ人間を満足させられるかってお話。
意地悪なマーガリンが悪ガキにバターと間違われて捨てられ、豚に舐め尽くされるシーンがスカッとする。
「…ってクソどうでもいい!」
「分かった。じゃあ次!ラスト!これは自信ある。」
「……………エルって勇者じゃないし回復魔法効くもんな?」
「どうしてそれを確認するのか教えてくれる?」
「ヒカリさん。ジャッジメント!」
「えいっ。」
「うおおおおおおああああああっつい!え?え?え?」
「お前はまだ若い。それぐらいの10円ハゲ、問題無いさ。」
「なんてことを…わざわざ頂点を狙いやがって…」
「ならどうして最後に捻りのないゾンビのお面なの?」
「それはナギが取り出した順番の問題だろ!」
「どっちにしてもアウト。エルも買い物付き合え。夕方からだろ?特訓。」
「え、え、…毛根の回復魔法って無い?」
「残念だけど…」
「俺…絶望しそう。」
………………………………。
もはや準レギュラー、河川敷にやってきた。
「はーい。というわけで、今日の特訓に付き合うことになった、ワンワンお兄さんとー?」
「ニャンニャンお姉さん…よ。よろしくね。」
「中身…分かる気がする。」
「言っちゃダメよ。」
ナギ達Bにお察し状態。
たまたま見つけた可愛い犬と猫のお面で妥協した。
どうせならってことでワンワンお兄さんとニャンニャンお姉さんのキャラ設定をしたけどヒカリさんは恥ずかしいみたい。
「ゴホン。それじゃあまず、エル先生が2人の実力をテストしまーす。」
「は?ナ…ワンワンお兄さん!聞いてないぞ!」
「ワンワンお兄さん!エルじゃ強すぎます!」
「大丈夫だ男子、落ち着け。ヒカリさんを見てみなさい、準備万端だぞ?」
「え?」
「ニャンニャンお姉さん反応しないで。向こう。ね。」
……。
「参った宣言か、行動不能で10秒経過したら決着な!それじゃあエキシビションマッチ、エルvsナギ&ヒカリ…レディー…ファイッ!」
「自他ともに認める…」
ヒュン!
「ナギ君の見てるとエルさんが遅く感じるわ。」
「だな。肉眼で捉えられるとはいえこれでも相当速いんだけどさ。」
「ヒカリさん!」
((フレイム・
「影斬り!」
「このっ!」
エルの行動を読んでヒカリに魔法を促すナギ。
しかしエルの方が速く詠唱より先にヒカリに攻撃。
そこにナギがワンテンポ遅れて…
「はーずれ。」
ヒュッ!
「あぶなっ!」
「あちゃー…もう1人の俺はちょっとドジだな。」
「大丈夫かしら…」
「ほら、次来いよ。また俺から攻めようか?」
「ヒカリさん大丈夫?」
「平気よ。ナギ君はエルさんに攻撃して、私は援護するわ。」
「うん!」
初期の俺…えっと…あ。
マリオに魔法剣借りてたんだ。
だから何も出来ずとも結構張り合えたんだ…
でも今ナギBはよく分かんないけど多分量産された剣を使ってるから…ステ補正は無し。
しかもこの世界の輝石は俺が持ってるし…ナギBが強くなる方法あるのか?
「もう1人のナギ君、エルさんに攻撃が…」
「見てられないってやつだな。」
((フレイム・アロー))
「それはめんどい!だーかーら!」
ドンッ!
「うお!?」
「ナギ君!避けて!」
ザクザク!
「ああああああああああああっ!!」
「これはギブしたい。タオル投げたい。」
「ダメよ…痛々しいけど。」
「くっそおお!当たれ当たれ当たれえええ!」
「ワンワンお兄さん!本当に続けんの!?」
「エル!ルール通りに!参ったか行動不能!」
「ったくしょうがねえ。ヒカリさんは分かんないけど、ナギ。悪いな。」
「え?」
「行動不能ったらこれしかない。暗躍奥義…」
「ちょまっ!」
((フレイム・ソード))
「熱っ!いける!」
ガキイイイイイイン!
「お。」
「私達もアレやりたい。」
「一回やってるけどな。うん。またやろ。」
ヒカリさんBがナギBに炎魔法の剣を与えてエルの攻撃を防いだ。
剣の重さやら何やらが変わってタイミングが合ったんだろうけど…でも今の結構偶然だよな。
「やるじゃん…なら…ふぅぅぅ…」
スッ。
「消えた!?ヒカリさん!」
「気をつけて!背後を特に!」
「残念、正面かもよ?」
ドッ。
「うっ…」
「ヒカリさん!」
「俺はいいけどヒカリさんがやられるとBとはいえ嫌だな…」
「守ってくれるの?」
「今?ルール違反どころの騒ぎじゃないよ?気持ちとしては守りたいけど…でも俺はBじゃなくてAのヒカリさんとアレだから…」
「うふふ。アレって?」
「ほら、その…ワンワン!」
「ニャンニャン。」
「お前ら調子狂うんだよ!イチャついてんじゃねえ!」
((フレイム・ショット))
ヒュン!
「ヒカリさん!俺とヒカリさんを避けてこの辺全部焼いて!燃やして!キャンプファイア!」
「わ、分かったわ!」
消えた敵を炙り出す作戦か。
俺らしいっちゃ俺らしいけど。
「それ俺達も被害及ぶんだけど。」
「それは大丈夫よ。」
((ウォーター・ショット))
「地面抉ってるよ?消火するのかと思ってたのに。」
「思ったより魔法が強くなってたみたい。」
「…息苦しいっ!」
「出てきたなエル!観念しろ!…ゲホゲホ!」
「ナギ君は下がって!私が!」
「…や、やられる…わけねえだろ!盗賊舐めんな!」
ボフン!
「煙!?」
いや、それもう忍者じゃん。
と思ったのは内緒にしておこう。
「ナギ君、あれだともう忍者…」
「やめたげて。」
煙玉で誤魔化してあくまでもヒカリさん狙いか。
ナギBはまあ…肉体的にもジミーより弱いだろうしな。
「結果見えたし止めるか。」
「本当に?私のためにそこまで…」
「もうそれでいいよ。はいストーップ!ドクターストップ!カンカンカン!」
……………………………………………。
それから、夜遅くまで特訓が行われた。
ナギBには俺から剣の振り方とか、戦闘中の考え方を。
ヒカリさんBにはニャンニャンお姉さんが魔力のコントロールの仕方を。
エルにはとりあえず体力作りとして川で泳いでもらった。
「あ"あ"…ナギ…川の水…汚い…」
「それを泳いだんだからエルはもっと汚いな。ニャンニャンお姉さん、水魔法いい?」
「ええ。ワンワンお兄さんの頼みなら。えいっ。」
ブシャアアアアアアアアアア!
「ごぼぼぼぼぼ…」
水魔法で雑に人を洗うって結構ありがちなネタになったよな。
そのままキャンプ気分で食事をすることに。
「うおおおお!シーチキントッピングのカレー!」
ナギBも当たり前に好物が同じ。
"シーチキンさえあればそれだけで党"のエースを自称するレベルでシーチキンに目がない。
「ゴマだれのサラダ…ん!このドレッシング…深いわ…」
ヒカリさんBも。
買い物で2人の好物を買っといて良かった。
「ニャンニャンお姉さん料理上手すぎ!」
「うふふ。でも本気の料理はワンワンお兄さんにしか作らないの。」
「…2人はその…」
「わ、ワオーーーーン。」
「下手くそだな誤魔化すの…ねえ俺の好みのやつは?」
「お前アレだろ、雑食。」
「ばかやろう!あんこ!あんこ!」
「お前!…何でもない。あんこな!今度な!おはぎ大量に送り付けてやるから。」
「要らねえよ!あ、やっぱ要る。」
「見て。なんか今日…月が大きくない?」
ナギBの言葉に全員が空を見上げる。
「今日ってなんかそういう日?」
「いや…特にそんなニュースは無かったな。」
「エルってニュース見るんだ?」
「うっせ。…でも本当に大きいな。…スーパームーン。」
「スーパームーンってなかなか見れないわよ?」
「まあまあ…ニャンニャンお姉さん、ガッツリ指摘するのは…」
「そうだよ。スーパームーンでいいじゃん。最高に綺麗だ…月って盗めるかな?」
「バカが。どうしてやろうか。まずな!月盗むのは」
「ワンワンお兄さん。しー。」
「はーい。」
ムード優先。
でも、今夜の月は本当に綺麗だった。
勇気をもらえた。
………………………………………………………。
「それで?」
「私を…強くしていただきたいのです。」
「っは!っは!っは!確かに俺は今勇者で一番強いだろうな。…俺と戦え。見所があれば付き合ってやる。」
「分かりました。シラユキ、全力で挑みます。」
「おう。俺は手加減してやる。来い。」
月に照らされる中、美女が野獣に挑戦していた。
「っは!俺を"オオカミ男"に出来たらお前の勝ちだ!」
「随分と失礼な!万扇!」
ブワアッ!
「っおお!?」
風に体が浮く。
「…もう1度。」
ブワァァッ!
「ま、待て待てえっ!」
バガは高く飛ばされた。
「着地は出来ますか?」
「っは!んなもん!」
((ビッグ・インパクト))
ドオオオオオオオオン!
「ん…」
「こんぐらいの揺れでビビってたらまだまだだな!」
ドゴッ!
「うっ…」
「抵抗しろ!足りねえぞ!」
バキッ。
「ぐあっ!」
「おらおら!」
「万扇!」
ブオオオ!
「っととと。」
「次は…これを。」
「あ?扇が増えただけじゃねえか。」
「増えただけならいいのですが。」
「神扇。切り刻め。」