ビッグマッチ
「エンドラの襲撃くらいヤバいな…」
魔物の気配がする方へなるべく死体を避けながら歩く。
この中に生きてる人がいても見分けつかないな…
大規模なフラッシュモブでしたとかなら面白いのに。
「この中…?」
大きな建物。
アーティストやアイドルなんかがライブをやったり、お笑い芸人がワーッと集まってイベントやったり…一年中何かしら開催してるイメージがあるな。
「今は…あー。狸のへそくりvs狐のロマンか。」
何それ感あるだろうけど、これでもお菓子の名前だ。
狸のへそくりには、ごく稀にへそくりチケットが入ってる。
それをメーカーに送るとスマホでよく使うような電子マネーで5万円も貰える。
狐のロマンには、ごく稀にロマンチケット。
同じくメーカーに送ると、お好きな海外旅行ご招待(交通費宿泊費トータル200万円分)だそうだ。
で、そんな当たれば爆アドなお菓子達は同時に発売開始されて現在まで敵対してきたってわけだ。
どちらのお菓子の方が上か。それの決着をこのイベントで決めようぜ…ということらしい。
「今は中で魔物がイベント開催してるわけだな。」
人間血祭りパーティーとか?
「開けーゴマフアザラシの心。」
はっ。誰がゴマで終わらせるかよ!
ガチャ。
建物に入ると早速通路。
正面の大きなドアを開ければ会場だ。
「人も死体も無い。電気はついてる。」
ゾンビゲームを思い出した。有名なだけで遊んだことないけど。
「で…通路から?いきなり会場?」
ダンジョンに入ったら寄り道する?さっさとゴールする?
みたいな?
「装備は落ちてないだろうし薬草とか現実じゃ速効性は期待出来ないから寄り道しなくてもいいんだよな。」
でも寄り道する。
寄り道しないとイベントを発生させるフラグが立たなかったりするしな。
「…………………………右、異常なし。」
次は左に通路を進む。
会場へ入るドアは3つ。
通路は正面から左右にUの字になってる。
「…………………………左、異常な…トイレか。」
男子トイレ、異常なし。
女子トイレは…
「今は緊急事態だしな。漏れそうでどっちとか気にしてられませんでしたで最悪通そう。」
ギイイイイ…
女子トイレだけドア軋むううう!
ピチャ、ピチャ。
「水浸しかよ。誰かいるー?いないよな。はは。」
一応個室のドアを一つずつ…
「こういうのは手前から開けてくから最後にバァってなるとうわーってなるんだよ。だから」
一番奥から開けていけば何か出てもそのまま逃げれる。
ふぅ…
ギィィ…
「…………………。」
「…………………。」
「あっ。すいませーん。」
バタン。
「ぎゃあああ何かいたあああああ!!」
ピチャピチャピチャ…
数歩急いで離れる。
…………ん?
ギィィィ…
「……………………。」
「………あの、ここで何してるんですか?」
「………ば、化け物が…皆…殺され」
「おけ。で、ここで隠れてたんですね?」
「は、はい。」
よく見たら普通に女性。人間だよ、しかも生きてる!
「良かった。もう生存者なんていないかと…」
「私もです…あの…た、助けてくれますか?」
「そりゃそうしたいけど…」
ここから離れて神社を探す?
でもまだ魔物の気配はあるよ?主張強いよ?
「俺は今探し物してるんだ…ここが安全ならもう少し隠れててくれる?すぐ終わらせるから。」
「で、でも…」
一緒に行動するにしても、出てくる魔物は明らかに強いやつだろ…それに魔王の仕業なのかもしれないし。
スイならともかくチャデスなら絶対一般人を殺す。
「すぐそこのイベント会場。そこだけ見たいんだ。そしたら安全な場所に連れてくから。」
「…分かりました。」
「よし。行ってくる。何かあったら必死に外に逃げて、死体に紛れ込むんだ。いい?」
バタン。
洋式トイレの便座の蓋を下ろしてその上に体育座り。
早く魔物を討伐しよう。
…大きいドアだな…。
「せー…のっ…」
グググググ…
「重っ!開かねえ!!」
何度押しても動かない。
「あ。引くの?」
ギィィ…
「あははは…」
中に入ると…座席がいっぱい。そりゃそうだけど。
「こういうとこ初めて来たな…ちゃんとイベントで来たかった。狸と狐以外で。」
座席には座ったまま頭が無い死体。
コートのようにかけられた死体。
「ステージには…」
大きな看板。
狸と狐の大決戦!美味しいのはどっち!?
「俺としては普通にチョコモナカアイスが好きです。」
魔物の気配はするけど見当たらない。
「………2階席?」
どうやって行くのかしらないけど2階席を発見した。
どうやって行くのかしらないけど。
「どうやって行くの…」
ステージに上がって会場を見渡す。
死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体………
これなら緊張しないね!っておいとか思ったら
「動いた…2階席にいるのか。」
通路に階段は無かった。なんて不便な建物なんだ!
「ならこれしかないよな。」
足に魔力を溜めて駆け出す。
ステージの端でジャンプ、壁キック……
ガタガタッ…!
「いってぇ…着地したい場所に椅子があるとかイジメだよな…。」
どこぞの赤帽子のヒゲのスーパースターみたいな動作で2階席にたどり着いた。
「確かこっちの方に………」
ぬいぐるみを殺しにかかってる犬って言えば分かる?
首根っこを強く噛んでブルンブルン振り回してさ。
人間の死体相手に同じことしてる魔物が目の前に。
《ブララララララ…》
「ラララてお前。…三つ首かよ…」
センター、ライト、レフト、うん。
犬というより熊な右の首、これが犬なら俺はホオジロザメ飼います…ぐらい強面な犬…な左の首
俺を睨みつけたまま歯を剥き出しにしてるチンパンジーみたいな顔の真ん中の首。
犬っぽい胴体。
尻尾は無い。
色は全体的にぐちょぐちょ。
もう…ぐちょぐちょ。
「会場内が暗かったらそのまま殺られてたかもな…」
《ブラララララ…》
キキキキキキ…
「ん…ん?!」
すぐに後ろに飛び退く。
バキキキキン!
「氷魔法!魔物が使うのか…!」
パキパキ…ドシュシュシュ!!
氷の塊が弾けて断片が飛んでくる。
「伏せえええ!」
床に伏せて回避。
すぐ近くにドアを見つけた。
もしかしたら下の階に降りる階段とかあるかも?
「明るいけど戦い難い。場を変えるか!」
立ち上がって三つ首の魔物にアピール。
「おーい!俺はここでピンッピンしてるぞぉぉ!?おかしいなあ!?おかしいよなあ!?」
挑発してる態度ってのは言葉の壁を簡単に超える。
《ブラララララッ!》
走ってきた。
ギィィ…
「通路か…右。」
迷った時は右。
「上に上がる階段!?下は!?下は無いの!?」
《ブララララ…》
「階段か戦闘か…」
魔物を殺せば安心して探索出来る。よし。
「ダークナイト…んあ?」
握ってる感覚はあるのに刀身が見えない。
《ブララッ!》
「ダークスラッシュ。」
シュイッ…ドッパァァァァァァァン!
「う"う"……」
返り血が顔面に…
魔物は…ワンパンで爆ぜた。
コイツが弱かったのか?
「にしてもダークナイト…なんで透けてんの?」
触れる。実体は確かにある。
床に当てれば傷が作れる。
でも透けたまま。
「でも扱いにくくなったとかは無いんだよな…見えないけど存在は分かるから…まあいいか。」
下に降りて女性を…でも上に続く階段も…
「魔物は殺したし、すぐ上を見てすぐ戻ろう。それでいい。」
3階……照明がパチパチ…点滅してる。
「ちょっと視界悪いかも。」
映写室…関係者以外立ち入り禁止。
「入るけどね?」
ガチャ…
「………………………っ。」
部屋は薄暗い。
あらゆる機材が置いてある…けど部屋の中央にいかにもな大問題。
「黒い渦。」
青と黒の縞模様…
「これがワープ用のそれなら、敵の本拠地に行ける可能性があるよな。」
少なくとも魔王が2人。
「チャデスは本気ならすぐ勝てそう。スイは分かんないけど多分勝てそう。」
ダークナイトの追加効果を勘定に入れればさらに余裕のはず。
「ふぅぅ………この世を救う…英雄に…」
ジュウウウウウ…
「うぐっ…こんなだったっけ?」
少し心臓の辺りが熱くなった。
渦に手を伸ばす…
アニメの世界みたいだ。
渦に手が入っていく…
《ヴァヂデノリヤキサデェッ!!》
ニュッ…
「えっ!」
ピエロ"みたいな"顔の魔物が渦から顔を出した。
それに驚いて出来た隙。
《ヴァッセノォ!》
「やめ!うわ!」
渦に引き込まれた。
…………………………………。
「さっきの男の人…まだかな………」
ギィィィ…
ピチャピチャ…
「………………………。」
ピチャ。
ッダァン!!
トイレに入ってきた何か。
それはようやく出会えた生存者なのか?
別の何かか?
勢いよくドアを開けたようだった。
ピチャピチャ…
バキイイイ!!
今度はドアを蹴破ったのだろうか。
ドク…ドク…
望まない心音。緊張が相手に居場所を知らせているようで。
どうしても知られたくない…本能が訴えてきた。
ダァァン!!
すぐ隣のドアが勢いよく破壊されたようだった。
次はここだ。
次はここだ。
次はここだ。
次は…
「………ぅ………。」
シーーーーン………。
静かなまま。
ドアは壊されることも無理やり開けられることもなかった。
首を動かして下を、上を見る。
怪談話のように覗かれてもいない。
《………シード。》
ピチュン。
すぐ隣の個室から何か聞こえた。
上を見上げると、白い何かがすぐ目の前に迫っていた。
「いやぁああああああああああああ!!」
《これで何人殺したんジャネ?人間は多すぎて殺すのも手間ジャネ?》
カチ…キィィィ…
女性の隠れていたドアを開ける。
体育座りのまま、顔全体が白い液体に汚されている。
《これは食べる用とは違う、殺す用ジャネ?》
女性の頭が溶け、皮膚の下…骨まであっという間に露出していた。
………………………………………。
「があああっ!」
「嘘つきめ!何を隠している!」
「…………………。」
目の前にはマリオ。
魔物の姿じゃなくて人間の姿。
ここは…暗い。とにかく暗い。
蝋燭が唯一の明かり。
「簡単に死ねると思うなよ人間!話せええ!」
「……まだチキン大好きなのか?チキチキオッサン。」
「オソロ。」
《ヴォッテリネァ!!》
ヒュイッ…パチイイイイイイン!
「ぬあああああああああ!!」
渦に引き込まれ、気づいたら十字架に両手を結ばれたような感じで吊るされてた。
そしてオソロとかいう姿を確認出来ない存在からの鞭打ち攻撃。
棘付きなのか…体を削り取られていく感覚。
「…相手のこと知りたかったら自分のこと話せよ…それが礼儀ってもんだ。」
「生意気な…!!」
「そんなブチ切れられるようなことしたか?お前らのが悪だぞ?」
「人間という邪悪な存在を消し去ろうとする我々のどこが悪だと?」
「その見た目でその口調は痛いぞ?あれか、指輪取られて力が発揮出来ないってか?」
「どこにある!私の!」
「さーぁね?知らなーい。」
「オソロ。」
パッチイイイイイン!
「……………で、これもお前らがやったんだよな?あれだけ大人数を…」
「簡単だ。水を撒いてゴミを洗い流す動作と大して変わらない。」
「…部屋、明るくならない?」
「お前が死んだ時は明るくしてやろう。」
「そんなに見られたくないの?そのハゲ頭。」
「オソロ。」
パチイイイイン!
「魔王達は?どうした?」
「我々が聞く立場だ。分かっていないのか?」
「あはは…あはははははははははは!!」
「………っ。」
「お前らこそぉっ!俺がわざわざこっちに来たんだぞ!?何も無いわけねえだろバーーーカッ!!」
「なっ…」
「いいよぉ…話してくれないなら。全員ぶっ殺して帰るから。」
「今の状況でよくも」
「何も知らないんだろ?教えてやるサ。」
「………ノネム!」
《ヴァッテリハャ!》
マリオの慌てる声に喜びが溢れ出てくる。
「来いっ…」
「Pg3l65lh6t68r5k…」
「早く!ここから逃げねば!」
スッ…
両手両足を縛っていた物が解かれ、ゆっくり浮いたように着地。
カチッ。
「なっ…」
「アオトクロ…アカトシロ…オマエタチガ…」
発生した黒い渦に左手を向ける。
((トマレ))
ピタッ…
その場が固まる。
マリオに歩み寄って…
((シネ))
マリオの顔を指差してそう命じるとすぐにマリオが弾けた。
ボトボトと崩れた肉片が落ちて転がる音がする。
そして縞模様の魔物…
((シネ))
「ナギ君。」
((シネ))
「ナギ君。」
気持ちよく死を振り撒いているというのに。
耳障り。
ブチッ。
自分の耳をちぎった。
「ナギ君!ナギ君!!」
鳴り止まない。
「ナギ君!!」