Xデー、再び。 part2
最初の日。
俺の現実が壊れた日。
俺の人生が変わった日。
《ヴ!ヴ!テュンヴテュン!!》
「まだ生きてる…」
「余裕無いわ、早く行って。」
「はい!」
余裕…?
楽勝なはず。
どうしてそんな魔物相手に…
ヒカリと目が合った。
「大人しくなったわね、なら御褒美よ、死になさい。」
「我が名において命ずる、灰となれ((フレイム・エンド))」
《ヴァァァァァァァァッ!!》
その後、何も知らない俺がヒカリと話す。
名前を聞けて喜ぶ…。
そして後日会う約束をして解散…。
ヒカリが後処理を始める…今だ。
「…ヒカリ。」
「……あなた…今帰ったはず…それに服装も…。」
「……。」
何から話せばいい?
相手は俺を知ったばかり、下手に距離を詰めすぎれば怪しまれてしまいそうで。
「大丈夫?」
「…大丈夫じゃない。ごめんなさい。」
何も言えなくてその場を離れた。
「…何だったのかしら。」
……………………。
「どこに行けばいい…」
もう1人自分がいる。
何ヶ月も前の自分。
きっと顔を合わせてはいけない。
ここまで、自然とそうしてきたように。
「…ギルド。そうだ。」
中央エリアのギルドへ。
「この頃は……」
待機村レトルト。
地下駐車場に村があることに笑っていた。
"今"よりも村らしい見た目。
あの時と違って落ち着いて観察すると、空間を弄るような魔法が使われている気がする。
そして目的のギルドに着いた。
「…ギルドマスター。」
「私に何かご用かな?」
「………え?」
マリオ。
人間に化けた魔物。
ジミーが使いこなしていたあの指輪。
マリオの右手に輝いている。
「君は…」
「……書庫と食堂を利用させてください。私は東エリア所属の戦士です。」
「東エリア…そうなんだねぇ…。よく来てくれましたねぇ。良いでしょう。では、食堂へご案内しましょう…顔色も良くなるはず。」
武器は無いからマリオを殺すことは出来ない。
それに、今の自分の力量が分からない。
「私が持ちますから、お好きに食べていってください。書庫にご用の時は、書庫の前に執事を待たせておきますからその人に声をかけてくださいねぇ。ごゆっくり。」
「ありがとうございます。」
どうやっても明るい気分になんてなれない。
でもお陰で、食事にありつけた。
「はいお待ちー!まぐろ丼、カツカレー、スーパーシーザーサラダ、俺様プリン!」
「…いただきます。」
味は変わらない。
食事はあっという間だった。
そして、これからが一番大事。
この状況は…
リセットされたのか、巻き戻されたのか。
それとも全く同じ作りの別世界?
全てが"最初から"になっている今、もう1人の自分を邪魔しないように誰かを頼らなければ。
俺が生きていけなくなる。
それとも死後の世界?
「デュークさん。」
「…ゲストの方ですね。マリオ様から聞いております。」
「……書庫、入ってもいいですか?」
「どうぞ。」
まず1人で入る。
中には誰もいない。
もし、この予想が正しければ。
ゴソゴソ……
「あった。」
ひみつのてちょう
きょうは、けっかいをみてまわった。
もんだいなし。
あしたはせんとうくんれん。
おやじをこえる。
漢字を学ぶ気は無さそうだ。
…マリオが魔物なら、エルの本物の父親って?
ひみつのてちょうに書き加えた。
エル、これを見たら会いに来てくれ。
毎日、中央エリアを流れる川の近くにいる。
Yのロゴの入った帽子が目印だ。
お前の助けが必要だ。
ナギ。
目的の一つはこれでいい。
「デュークさん。」
「はい。なんでしょうか。」
声をかけるとすぐに入ってきた。
「魔法とか…色々詳しいと聞いています。お聞きしたい事があるのですが。」
「分かる範囲でしたら…」
「時を巻き戻す、またはやり直す魔法に心当たりは?」
「………それは噂話でしょうか?」
「真面目な話です。」
「かつて、そのような魔法を実現させようとした人間は居ました。ですが…現在でも使える"時"に関する魔法は禁止されている静止魔法のみです。」
「…無いのか…。」
「あなたはまだ若い。後悔があるとしても、これから」
「全てを失った俺にチャンスは無い。」
「………。」
…そうだ。
「デュークさん。」
「はい。」
「力の証明なら何でもするから、俺をギルド本部に…タクミさんと話をさせてくれ。」
「………どこでそれを。」
「俺が世紀の大嘘つきなら殺していいから。5分、話がしたい。…助けてください。」
「本部の存在、オールマスターの名前…そして知るために力を必要とされている事を知っている。…では、あなたの力を見せていただきます。こちらへ。」
移動した先は神社。
人の気配は無い。
ギルド本部が管理してるのかもしれない。
「武器はお持ちでないのですか?武装魔法使いでしょうか?」
「…素手で戦います。」
「では…私は遠慮なく。」
あの槍は魔力吸収が出来る槍。
そうでなくとも武器無しでどう戦う?
「…信じる…。」
ガッ!
「ぐうっ!」
ドッ!ドカッ!
「があっ!じいっ!!」
ブオオオン!
「遅い。」
「…高速戦闘ですか…にしては速い…なるほど…レベルを聞いても?」
「それも本部で鑑定してほしい。」
「東エリアの戦士というのは嘘だと思っていいのでしょうか。」
「うん。」
「…分かりました。お連れします。」
「この神社も本部が管理してたり…」
「あなたはどこまで知って…」
「さあね。」
本部にワープ。
受付も綺麗だ。
デュークさんはよく分からない存在である俺を信用してくれたのか、ちゃんとタクミさんに会わせてくれた。
「…私に話がある。そうだな?」
「はい。名前は…」
「……夏野 凪。」
「ナギ。聞こう。」
「全部話す。突然現れた人間がここまで来たんだから、信じる前提で聞いてほしい。」
「…………………………。」
「俺は自分の今の状況を知りたくて会いに来た。デュークさんにも聞いたこと、それが思いつく手がかりなんだ。」
「デューク。」
「…時を巻き戻す、またはやり直す魔法は無いか、と。」
「………。」
「例えば…タクミさんは速度を極めた人、回復を極めたセイラさん、なら魔法を極めた人なら…!」
「ナギ、お前は何者だ。」
「言っていいのか分からない。こんな事してていいのかも分からない。」
「何を警戒している。」
「もう1人の自分。」
「……。」
「俺は、死んだはずだった。首に…剣が突き刺さって…でも、起きたら…知らない部屋で…」
「整理しろ。時間はある。」
タクミさんに全てを話した。
勇者であること、これまでの戦い。
誰と出会ったか…魔王を4人殺したこと。
魔王エンドラに敗北して殺されたこと。
「俺は…俺のやり方で生きてきた未来を知ってる。それを話して、この世界?での未来が変わるかもしれない。もう1人の俺が…どうなるのか…不安なんだ。もしかしたら、何らかの矛盾が生じてどちらかの俺が消えるかもしれない。両方かも。」
「……お前は私を師匠にしたのか…」
「今はそこじゃない。」
「いや、私がそこまで人間らしい事をしていた事が…いや、いい。」
「どうする?信じてくれる?」
「ナギ、暫くはここで生活してもらう。必要な物は全て用意する。そして…マリオの話を確かめる。」
「…分かった。それが事実かどうかで決めるんだね。」
「……デューク。」
「はい。ナギ様、こちらへ。」
移動は魔法陣、セキュリティは万全。
高級ホテルの一室みたいな部屋に案内された。
「衣類、食事など必要な物はこちらの電子機器から要求してください。」
タブレット端末…。
「魔道具や魔装備、武器や防具などは私に。」
「大切な物って分かってるんだけど、ダークナイトとマジックアーマーが欲しい。」
「…ダークナイト…。」
「ダメだよね…」
「いいえ。ナギ様が使いこなしていたことの証明にもなります。ご用意します。」
「ありがとう。」
デュークさんが部屋を出て俺1人になった。
少し動きすぎた気もするけど、衣食住全て確保した。
ギルド本部が味方に出来ればかなり大きい。
まだ不安な事ばかりだけど、今一時的に得た安心。
そのままベッドに倒れて眠った。