Xデー、再び。
「いゃぁ~…キャラは良いけど異世界設定は読み飽きたわ」
「メイド…豪華なドレス…ネコ耳…ウサ耳…」
「デザインは好きだけどー…ヒロイン!ってのが居ないわ」
…誰かの声が聞こえる。
深い眠りから覚めた。ようにとかじゃなくて覚めた。
何時間というか何年レベルで寝てた気分。
「ナギちゃーん?居るのー?ちょっと卵と牛乳買ってきてー!」
「はいよー」
懐かしい気持ち。
思い出の断片。
あ、ギャラリーモードかなんかで人生の名場面を再生してんの?
…俺、死んだ人?
「………っは。」
呼吸を忘れてた。
ずっと息を止めてた。
慌てて吸った。
「……………ここ…?」
ようやく目が役割を思い出して、光が差し込んだ。
今の自分の状況を確認する。
「白い…部屋。」
パッと見、それだけ。
おっと…
「テーブル…写真…?」
部屋の奥にテーブル…その上に写真立てがいくつか見える。
ゆっくりと立ち上がって。
ふらふらしながら歩み寄る。
「………あ、あ…あああ…!あああああ!!」
写真に写る人達を見て、何もかもを思い出して。
悲しみが押し寄せてきた。
「うわああああああああああ!!!」
「ごめえええん!ごめんなさい!ごめんなさいいい!!俺があ!あんなっ!死に方あああ!!」
首に手をあてて泣き叫ぶ。
そこに傷はない。
痛みもない。
でも記憶に焼きついたその痛み、苦しみ、恐怖。
「……バガ、タロウ…ジミー…シラユキ…ナナミ…デューク…タクミ…」
写真の人物を左から順番に呼ぶ。
「…モモ……」
そして、最も失いたくなかった。
「ヒ、ヒカリぃ……うわあ"あ"あ"あ"ん!!!」
ただ泣いた。
泣くことしか出来なかった。
と、思ってた。
「………………………。」
見覚えのある部屋だと気づいた。
どこで?いつ?
「夢か…!」
夢で見た。
そう、部屋の真ん中には。
「魔法陣。」
デジャヴというか、予知夢というか。
「……………………………。」
気づいた。
服を着ていない。
全裸だ。
「…服…。」
タンスもクローゼットも何も無い。
でも、通路が見えた。
「……………。」
真っ暗な通路をペタペタと手で壁を伝って進む。
しばらくして、少し光が見えた。
「出口。」
しかし、押しても開かない。
「引く?」
引いても開かない。
なんで?どうして?
「横。」
引き戸でもない。
騙された気がして、怒りのままに拳を出口と思しき部分に思いっきり打ちつけた。
ガッ…ガラララララ…!!
「開いた…!」
…見覚えのある部屋。
「俺の部屋。」
自分の空間。
自分だけの世界。
たくさんの勇者と魔法使い。
それらが登場する物語、雑誌。
それらを演じるゲーム。
「…服。」
クローゼットから自分の服を選んで着た。
この頃の外出着は1式が3パターン、全通りの組み合わせで9パターン。
……あえて着たがらなかった服を選んだ。
白いチノパン、グレーの肌着、暗い色の長袖シャツ。
長袖シャツはボタンを少し開けて、袖を捲った。
この頃ならこんな服装はしなかった。
外出時は年中履いてるジーンズに、薄手の生地のパーカー。
肌寒い時期には厚めの生地のパーカー。
冬にはパーカーの上からジャンパー。
ガチャ。
慣れた階段を降りる。
リビング。
奥のキッチンで、女性がご機嫌な鼻歌で料理を作っている。
静かにドアを開閉した。
ガチャン。
外。
見慣れた景色。
Yとロゴの入った帽子が落ちてる。
拾って被った。
「やべぇよ…本当にやべぇよ…あの子本当に可愛い。信じられない。女神。生まれ変わりたい。イケメンに。金持ちのイケメンになりたい。そしたら…」
見覚えのある顔をした男とすれ違う。
今出てきた家に入っていった。
「…どうなってるんだ?」
…キィーーーン……
耳鳴り。
「…来る。」
走り出した。
何かに気づいて。
それを感じて。
すぐに着いた。
「駅…。」
人々が行き交う。
噴水、タクシー、バス。
そして、来る。
ドッカァァーーーーーーーーーーーーン!!!
「…A、スライム。」
《ウウゥ…ヴァ…》
…蓮コラとか粘土とか…そう。そう。
人間の武器は効かない。
「うわあああ!?化け物おおお!」
「いやあ!やめて!来ないでえええ!」
「ママーーー!」
「逃げるのよ!早く!」
人々が逃げ去る。
置いていかれた人々。
「あ、あ、あ、こんなことって…」
「あ、あ、あ、こんなことって…」
「信じられないよ…全部、信じられない…」
「信じられないよ…全部、信じられない…」
…隠れた。
「すみません、あの…ケガ人とかいないんですか?」
「あ、あ、あ、こんなことって…」
「あの!すみません!ケガ人とか救助の方って!」
「あ、あ、あ、こんなことって…」
…俺が話しかけてる。
「あの!爆発でケガ人とか出てませんか?」
「信じられないよ…全部、信じられない…」
「何があったんですか?見てたんですか?」
「信じられないよ…全部、信じられない…」
…俺が話しかけて、戸惑ってる。
《ウウゥ…ヴァァァァッ!!!》
魔物の鳴き声。
「俺ぉぃしくねぇよおおおおおおおああああ!!!」
そう、それでいい。
会える、会える。
「ヒカリ。」
((フレイム・アロー))
というわけで、新章スタート!
まだまだ続きます!よろしくね!