緊急事態 part7
「…………。」
「ナギ、それはなんだ。」
「何って…クラウチングスタートだけど。」
「………………………。」
「無言で非難するのやめてくれる?分かったよ…やめますよほら。」
真剣な場面なのは分かってるんだけど、やっぱり待つ時間て退屈というか。
前回同様、スパーンを体から引き離すのに時間がかかりまくってる。
「タクミさん。」
「落ち着いて待てないのか。」
「タクミさんが人間で最速?まだ上がいる?」
「速さだけなら私に並ぶ者すらいないだろう。」
「俺さ、こないだ少しは速かったじゃん?」
「………。」
「師匠になってくれない?」
「…っ!ゴホッゴホッ…何を…」
「悪い話じゃないでしょ?俺が強くなれればそれだけ魔王に対抗出来るし。」
「………ダメだ。」
「じゃあ何?もう俺達は見捨てて次世代探しのが大事なんだ?」
「そうではないが…なぜ私なのだ。」
「俺のステータスって素早さにかなり振られてると思うんだよね、小中高とそこまで足速い人生送ってないんだけどさ。」
「なぜ高速戦闘にした。」
「友達を死なせたくなかった。…いや、死んだけど…どうにかして存在を残したくてそいつの戦い方を真似したんだよ。最初は輝石のおかげでちょっと速い程度だったんだけどね。」
「………………。」
「元々センス無いからやめとけみたいな?」
「覚えておけ。」
「え?」
「物理、魔法、回復…そして私、速度。役割を持つ人間には4人の最強がいる。お前の知る世代とは別にだ。」
「………何、急に。」
「どれを目指しても止めない。お前なりの最強を目指せ。」
物理、魔法、回復、速度。
…最強の世代とは別に4人強いのが居ますよー…ってタクミさんクラスがまだ3人?
「え、タクミさんくらいの人がまだ3人いるの?」
「それぞれの分野に特化した人間だ。」
「…お前なりのってことは、速度を極めたいと思ったらやっぱりタクミさんが師匠になってくれるんでしょ?」
「…本気か?」
「その時の流れで選んだ力じゃないよ。」
「ならば…今度本部に来い。私の出した試練を乗り越えてみろ。」
「おっけぇ。」
「ナギ!出るよ!」
ようやく黒人間ことスパーンの魂が出てきた。
ゆっくり魔法陣の中を動いてる。
「行くぞ。」
「はい師匠!!」
「まだ師匠ではない。」
「ダークナイト!!」
「先に斬れ。私がお前の後に。」
「俺が遅くても待っててよ?」
ヒュン!
動きは遅いし、これなら余裕で魔王スパーンの首スパーン出来る!
スッ…
「空中静止式…ダークスラッシュ!!」
ピタッと留まること2〜3秒だけど。
ズバァァァァァァァァン!!
声は出ない…けど…
「大当たりだな。」
スパーンの魂は首から青い液体をドバドバ流してる。
思ったより固い。
「この弟子は果たして育つのだろうか…」
((サンダーボルト))
バチチチチイイイイイイイン!!
「あっぶなっ!」
飛び退いてすぐ雷が落ちた。
と思ったら…
ボト。
「首も落ちた。」
「剣はただ振ればいい武器ではない。」
「うぃっす!師匠!」
「し、師匠?ナギの師匠なの?」
「ジミー、まだ師匠ではない。」
「これからなるんだ…いいなぁ。」
ブシャァァァァァァァァァッ!!!
「遅っ!!」
「魂が出血とか意味わかんないけどな。」
「これで魔王スパーンはもう復活しないのね?」
「そのはずだけど…あれ?」
「どうしたの?ナギ?」
「……この……人……」
乗っ取られてたらしいけど、じゃあこの人の魂どこいった?
「これ誰なの?」
ファサ…
「あっぶなっ!タロウかよっ!!」
「わー…なんか体によくないことしちゃったね。」
「ジミー、タロウもこの際だから治そう。」
「いいよ。ヒカリさんまだ大丈夫?」
「ええ。」
「ちょっと、タクミさんはまだ帰らない帰らない。」
「なぜだ。魔王スパーンは」
「そうじゃない。聞いて?」
「………。」
「俺はジミーに魔法陣をもう一回書かせた。」
「だからなんだ。」
「魔法陣の一部には爆破を含む文字列があるってデュークさんが言ってたんだよ。」
「あ!忘れてた!ヒカリさん!どうしよっ!」
「ジミー黙って。…タクミさんの素早さなら…!」
「爆破から全員を逃がせると。」
「ね、師匠!」
「……………………。」
「おっけーだそうでーす!じゃあ第3回、魂交換の儀式お願いしまーす!」
………………………………………。
ブワッ…ドカアアアアアアアアアン!!!
「おお!!やっぱり余裕だ!」
「ナギ、あまり調子に乗るな。」
スタスタ…
「行っちゃったね。」
「まぁ大丈夫でしょ。」
「じゃあタロウを運ぼうか。」
……………。
「……………はっ。」
「おお!起きたなタロウ!!」
「……ナギか。ここは…」
「中央ギルド。」
「タロウさんどうも、命の恩人ことジミーです。東のエリアで勇者してるよ。」
「………………何があった…。」
「魔王の力で体を乗っ取られてた。タロウの体は各地で大暴れ。」
「……………そうか…」
「どうしたの?なんか気分悪そうだけど。」
「砂が口に残ってたのかしら。」
「……もう私は勇者ではない。」
「え?」
「勇者の証を感じない。」
そう言ってタロウは胸のあたりを手で撫でた。
そういえば………。
勇者の証となる短剣を体内から失ったら勇者じゃなくなるんだったよな…。
「…勇者なら…僕も気をつけよ。」
「お前ら胸に隠したのか。」
「ナギ、お前は違うのか?」
「いや、まぁ心臓を潰されたらその時は…みたいな考えは分からないこともないけどさ、敵が急所狙ってくるなんて分かりきってるじゃん?」
「で、どこ?」
「言わねえよばか。どこで誰が聞いてるかも分からないんだから。」
でも、俺が勇者の証を失うことは多分ない。
「みんな、ちょっといいかしら。」
……シーン。
「タロウさん。あなたがギルドマスターを務めていた東南エリアは今、ナナミ様がギルドマスターをしています。」
「あ、そうだった。」
「…フン。役割どころか居場所も無いのか。」
「悲しいけれど、あなたの部下もスパーンによって全滅よ。」
「…………………。」
「さすがに可哀想になってきたな…」
「ナナミ様の下で戦うか、私達と一緒に戦うか選んでください。」
「「「え?」」」
ヒカリさん以外の全員が同じタイミングで…そりゃそうだ。
「私に中央エリアで戦えと?」
「あなたの強さは確かだわ。」
「……………。」
「すぐに答えなくていい。どこに就きたいか決まったらそうしたらいいわ。でも…早めにね。あなたは証を無くしても勇者よ。」
「……フン。」
何もかも失ってタロウが復活した。
でも戦意喪失だよな…絶対。
「ねぇねぇ。勇者恒例のアレやろうよ。」
「は?」
「タロウ。僕と戦おう。」
「いや、今そういう雰囲気じゃないし。ちょっと久しいし。」
「私はさ……」
コンコン…ガチャ。
「…タロウ様はいらっしゃいますか?」
「おう、フワじゃんか。どうしたの?」
「これ、オールマスター様が渡せって。」
白くて長い箱。
「開けてみろよ、タロウ。」
「ああ。」
……パカッ。
「これは……!」
「すげ…」
「やば。」
「モモちゃん、ご飯食べましょう。」
「分かった。ちくわ。」
「ええ。」
「わ、私も行きます!」
ガチャン。
男3人で目の前の箱の中身に夢中になった。
箱の中には赤いクッションが敷き詰められてて…
「僕これ知ってるよ…銀剣ブレイブブレードだ…!!」
「ブレイブ…タロウが使ってたのは?」
「私のはブレイブソードだ。だが…あれは魔力で形だけ真似した模造品に過ぎない。」
「は?」
目の前には美しすぎる芸術品のような銀剣。
スラッと長い刀身。
鍔は天使の羽みたいな装飾。
なんていうか、私が触っていいんでしょうか?みたいな気持ちになって迂闊に触れない。
「オールマスター…とは…」
「ギルドには本部があって、そこのトップ。つまり俺達にとって一番偉い人になるな。」
「強いのか。」
「お前…」
タロウは悪魔戦の頃ぐらいにログアウトしてたらしいから、もしそこからなら…
「お前が戦うとしたら1秒持っただけですごいレベル。」
「タロウってそんなに弱いの?」
「レベルは58だ。」
「弱くないよね?」
「俺は80だぞ?」
「ナギ高っ!」
「…そんなに時間が経っているのか。」
「もう9月も終わるしな。」
「私は……」
「タロウ、試してみよう?その剣、本物だし。」
「ジミーどんだけ戦いたいんだよ。」
「知りたいじゃん。」
「いいだろう。」
タロウは少し笑った。
きっと憧れの剣だったんだな……というか氷殺大剣はどこいったんだろ。
…………………………………。
「ブレイブブレード…。」
スッ。
「フォーカス・アイ。」
「待てよジミー!本気はやめろ!」
「来いっ!」
((ミクス・キャノン))
「いざ……!!断ち切れ!」
「ブレイブスラッシュ!!」
シュュュウウウウウウン!!!
「…わあお。」
魔法弾を軽く消し飛ばした。
というか優雅な攻撃だった。
ドサッ。
「…………………は?え?ジミー!!?」
出血するわけでもなく突然ジミーが倒れた。
「これが本物の…美しい。」
「何これ何これ。なんなの?は?茶番なの?」
ふと切り替え早いなーって思った。
魔王スパーン、撃破。
魔王スパーン編終了!
お疲れ様です!いぇーい。
え?まだ助かってない"バカ"ップルがいる?
ははは…忘れてたとは言いません。
あはははははは…!