負け犬の遠吠え part8
「ヒカリ。行かない。」
「でも!ナギ君が!!」
「行っても勝てない。」
「そんな…!!何なのよ…あんな魔物見たことない…!!」
……………。
「そんなの持ってたっけ?」
悪魔が趣味の悪い鎌を捨てて次に取り出したのは…
「三叉の矛…リアルなトライデント…!!」
半分が暗めの赤、半分が闇の深そうな黒。
正直ちょっとだけかっこいいと思ってしまった。
ファイアークエストだと最強武器の一つなんだ。
「ダーク…」
でも感動してる場合じゃない。
さっさと倒す!
3分以内に!!
「スラーーーッシュ!!」
ガキキキキキイイイン!
《ゴオオオアアアアアアッ!!!》
ガキン!キン!キン!キン!
互いに攻撃が弾かれるとかいうマズイ流れ。
……攻撃力が圧倒的に足りないのか。
「残り時間が…っ!」
でもこっちの防御はチート。
何もしなくても勝手に弾く。
物理も魔法も。痛みはゼロだけど…
「時間内に決まらなきゃ意味がない!」
………そっか。覚悟が足りないのか。
ズブッ。
《………………………ゴアアアアッ!》
悪魔が驚いた。
コレばっかりはドヤ顔だな。
俺は自分の胸にダークナイトを差し込んだ。
血を。
更なる血を。
敵を討つための力を。
「我が怒りを叶えろ。ダークナイト。」
チカラヲモトメテ。
「今こそひとつに!」
イサマシキチカラ。
「ブラッドユニゾン。」
アイシテル。
「……………我が欲を満たせ。」
ヒュ。
ズバババン!
ザシュ!
ザクザクザクザクザクザクザクザク!
ズバァズバァズバァズバァ!!
《ゴオオオオオアアアアアッ!》
《リアュチクンサ》
「無効。」
バリイイイン!
ザシュッ!ザクザクザクザク!
《トマレ》
「無効。」
ズバアアアアン!!
《ゴアアァァアァアアァ!!!》
スッ…
「…死ね。」
((イーヴィル・イーター))
ズゥッ…バアアアアアアン!!!
《ゴアアアアアアアア!!》
ジュウウウウウウウウウウ…
「……………………………………。」
悪魔は霧散した。
切り落とされた右腕を残して。
「…うぷ。」
ボトボトボトボト…
真っ黒の血と…真っ赤な血。
…あれ?この出血量やばくないか?
ドサッ…
「………でも…やるだけやった…!」
ビュン!
「ナギ君!!」
「…………………………。」
「大変!こんなに血が…死んでしまうわ!」
「ヒカリ。」
キュイーーーーーーーー………
「…信じる者よ…神の御加護を。」
((リザレクション))
フワァァァァ…
「モモちゃん…これは…!!」
………。
「……んん…。」
「ナギ君!」
「朝…?」
「勇者。」
グニッ。
「…痛い痛い痛い痛い痛い痛い!」
慌てて飛び起きてキョロキョロ見回す。
寝室じゃない。
あ、そうだ。
「悪魔と戦闘してたんだった。」
「悪魔?さっきのが悪魔なの?」
「うん。真の姿的な。正直下手な魔王よりクソ強いよ。」
「…………。」
「見てた?」
「うん。ナギ君が突然消えて悪魔が切り刻まれるところも。」
「新技だな。というか…最終奥義?」
…ハッキリと思い出してきた。
そうだよ!イーヴィル・イーター使ってた!
ひっさしぶりだよ!!
なんで使えたんだろ。
「モモ……もしかして、お前?」
「……?」
首を傾げてる。
「モモちゃんが治してくれたわ。」
「あ、そうか…」
体の確認。
傷は全部無くなってて、血が抜けた感もない。
「ありがとな、モモ。」
「大丈夫。」
ギュッ。
抱きつかれた。
モモも可愛いな。
「ふぅ。とりあえず悪魔問題は………」
右腕が落ちてる。
「ヒカリさん、あれ。」
「回収…よね?」
「でも…危ないかも。なんか頑丈な箱とかないかな?魔法で作れたりしない?」
「ギルドに連絡するわ。何人かで協力すれば魔封棺が用意できるから。」
「…なんかすごい名前。」
「魔力無効の棺よ。」
「待って、近づかないで。」
「……危ない?」
「うん。あの悪魔だよ?封印したはずなのに普通に俺の家に潜伏してたんだから。」
「…そうね。」
警戒はもちろんなんだけど。
…なぜか触らせたくなかった。
自分の物にしたい衝動というか…
…………………………………………。
ギルドに戻るとすぐにモモの蓄え時間が始まった。
ギルドマスター特権で食堂が無料で使えなかったら……
大食い大会出禁レベルだもん。
「ヒカリさん、モモのリザレクションのコストが爆食の理由だよ。」
「そうね…あまり体型も変わらないし、どうなってるのか不思議だったけれど…勇者体質でも治せるのね。」
「俺もビックリだよ。」
「あ!いたいたー!ナギー!」
「あ、最近嫌われキャラのジミーじゃん。」
「何それ…」
「で?どうしたの?」
「うん。色々あってギルド本部に行く必要があるんだ。」
「……本部?」
「ナナミさんに聞いたらマリオの死体とかは全部本部にあるらしくて。」
「マリオの死体?お前、スパーンのこと調べてたんじゃないの?」
「そのスパーンの魂交換の儀式を手伝ったのがマリオだと思うんだよね。」
「……続けて?」
「魂を交換するんだからさ、引っこ抜かれた魂はどうなると思う?」
「…代わりの体に入れる?」
「それもあるけど、入れる体が1つしかない場合は?」
「…………余る。」
「マリオってさ、こう…人とか魔物を出し入れ出来たじゃん。」
「………マリオが魂を保管してる?」
「うん。資料を見たら、オールリリースだかなんだかで全部出した説があるらしいんだけど。」
「うん。」
「最強の世代が使ってた勇者の武器は全部偽物なんだってさ。マリオが偽物を大事にコレクションしてたと思う?」
「…ありえないな。」
「ね?だからマリオの死体とか、身につけてた装飾品を調べたい。そのために本部に行きたいんだけど行き方も場所も知らない。」
「んで俺に相談か。」
「うん。」
「………あ。」
デュークさんに本部連れてくって約束してもらってた。
「多分連れてける。」
「多分なの?」
「うん…多分…ヒカリさん、モモとここに居て。」
「分かったわ。」
「…もぐ…おかわり。」
「ジミーは俺と。」
「うん。」
……………。
「デュークさん。」
「ナギ様、例の件ですな。」
「…なんだっけ?」
「魔物の討伐報酬の申請が無事通った件です。」
「……忘れてた!!」
そう、俺はこれをデュークさんから聞いてワクワクしてたんだ!
魔物を討伐することでお金が貰える!
世間的にニートと思わせてニートじゃない!!
「私の方でナギ様の記録を元に……」
ドン。
「手続きをしておきました。今後は言われた通りに私からナギ様にお渡しします。」
「……は、はうまっち……」
「うわ、ナギ溜め込んでた?この金額はやば。」
「ナギ様は魔王の討伐にも大きく貢献していますから。」
「…ちょ、数えていい?」
「どうぞ。」
本題を忘れて目の前の大金に集中した。
一束100万円……
1…2…3…4…
「27…かける100万?」
はわわわわわわわ…!!
「大金持ちだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ナギ!落ち着いて!」
「うおおおおおお!」
2700万円!!
うおおお!一生遊んで暮らせるぅぅ!!
「喜んでいただけて何よりです。」
「ナギ。それもうケースにしまってさ、ほら、もっと大事な話。」
「…もう少し…!!」
「後で好きなだけお金と戯れればいいじゃん!」
「ぶー。」
…………。
「なるほど。分かりました。ジミー様は魔道具などの開発で大きく貢献していますから、資格は十分でしょう。」
「本部に行くには資格が要るんだ?」
「はい。相応の力を認められない人間は本部に入れません。」
「最速でいつ行ける?」
「ジミーはせっかちだな。」
「分かりました、では明日の昼にここに集合でお願いします。」
「早い…」
「ナギ、遅刻しないでね。」
「ジミーこそ。」
「僕はここ泊まってくし。」
「は?」
「いやいや、家に帰ったらトモたんの姿した魔王に殺されちゃうよ。僕のギルドは今全員退避させてるもん。魔物の討伐はもちろんしてるけど。」
「…………大変だな。」
「そうだよ。なのにナギは俺も大変だからってあんまり話聞いてくれなかったし。」
「いやいや、マジで大変だったんだから。さっき悪魔と殺し合いしてたし。」
「ナギ様、やはり悪魔でしたか…」
「うん。真の姿だった。マジで殺されてもおかしくなかった。」
「なに真の姿って。」
「俺達が必死に封印したのは間違いなく悪魔のはずなんだけどな。悪魔にも本物の体があったんだよ。どういうシステムか知らないけど、いつの間にか俺の家に潜伏してた。」
「封印した…体……ふーん…」
「ジミー?」
突然俯いて右の耳たぶを摘みだした。
「…悪魔も魂交換の儀式みたいなことが出来るのかな?」
「は?」
「可能性のひとつだよ。ナギなら分かるでしょ?ゲームのラスボスがよく求めるもの。」
「世界?」
…………いや、違う。
「永遠の命」
「そう。生きてさえいればその強大な力でいずれ世界征服出来る。スパーンとか悪魔とか…昔から居たやつに限って復活とか聞くじゃん。」
「なるほど…永遠の命ですか…ジミー様のお考え、ぜひオールマスター様にお伝えしませんと。」
「オールマスター?」
「間違いなく1番上の偉い人枠でしょ…ジミー?なんでずっと下向いてんの?」
「…ちょっとね…くしゃみ我慢してるだけ。」
「は?」
「ナギ、デュークさん、今日は解散しよう。また明日、誰も遅刻しないでね。」
「気になる…」
「ナギ様、報酬金は銀行に預けては?」
「いや、手元に置いときたい。」
くっそ!!
ゲーム爆買いしたい。
転売価格でも余裕で手出せるのに!
でもヒカリさんに引かれる…!!
もどかしい!!
「俺も異次元に倉庫が欲しい。」
「ナギ様?」
「へ?なんでもない。」
……さて、食堂に戻って帰るか。
モモに助けてもらったし、この大金の最初の使い道は今夜のご馳走だな。
ドクン。
「うっ………!!」
悪魔の体の一部を回収し、それを一時的に保管しているのが今立ち止まってる目の前の部屋。
「中に誰もいない。」
ガチャ。
宝石店で見るようなガラスのショーケースに生々しい腕が入れられてる。
ジュッ。
「いてっ…」
触れるとガラスじゃなく魔法で形成されてることが分かった。
「…ほしい。」
こんなものが?
「ほしいほしいほしいほしいほしい…」
なんで?
((ストロング・フィスト))
どうなってる?嘘だろおい。
「ナギにゃん?」
「…え?」
ガントレットを装備して今まさに殴り壊そうとしている現場を見られた。
「何してるにゃ?」
「あ?あぁ。悪魔の腕、どうせなら殴り潰そうかなって。ムカつくし。」
「にゃ〜…。にゃーにも気持ち分かるにゃ。でも調べなきゃダメにゃ。」
「そ、そうだよな。」
「にゃ。ほーら、食堂でヒカリにゃんが待ってるにゃ?」
「おう…」
ルナに救われた?
邪魔された?
殺すべき?
何これ。
………………………………………。
「ほっほっほ。ナギ、ジミー。優秀な勇者が現れた。良い事だ。」
「オールマスター。明日は既に予定が…」
「何を。世界を救う可能性がある人間の力になるより大事な予定があるわけないだろう。」
「お嬢さんのお誕生日では…」
「…………………それは困った。」