負け犬の遠吠え part7
「ったく。朝からとんでもねえ変態勇者が訪ねて来やがった。」
「………うひ。」
「んで、マリオの事を聞きに来たんだろ?それとも目ん玉くり抜かれに来たのか?」
「……マリオで。」
「お前が今見てる資料に殆ど載ってる。マリオは特殊な魔法で異次元にてめぇの"コレクション"を出し入れ出来た。人間、魔物、魔道具…何でもありだ。」
「何かこう…ポケットみたいなのから出し入れしてたの?」
「魔力形成した宝石からだな。手のひらサイズなら人間や魔物数体。規模が大きくなると宝石も大きくなるはずだ。」
「本人しか出せないのか…困ったなぁ。」
「何か盗られたのか?」
「うん。大好きな人の"魂"。」
「たましい?…さすがに魂だけ抜くなんてあのマリオでも…」
「魂交換の儀式だよ。」
「…………………………!!」
「スパーンのお手伝いしてたのはマリオだったんじゃないの?人間の姿の時は結構なおじさんだったし、昔から魂交換の儀式をしてたのは」
「マリオか!」
「最後まで言わせてよ。」
「なら…マリオが死んだ今、スパーンはもう…」
「…って思うじゃん?」
「…なんだよ。」
「資料が正しければマリオが死んだ後に僕の大好きな人がおかしくなったんだよね。」
「ならスパーン自身も儀式が出来るのか?」
「それは本人に聞かないと…。僕が知りたいのはマリオの秘密の金庫の引き出し方だよ。その異次元に大好きな人の魂が隠されてるかもしれない。じゃなきゃ魂交換の儀式で交換された魂の行き場が無いもん。」
「……ってもなぁ。」
「じゃなきゃ魂交換の儀式なんて名前にしないでしょ?交換するならさ。」
「………でもマリオはバラバラに斬っちまった。」
「………マリオの魔法はどんな詠唱なの?身につけてた物とか…」
「…っと…」
「分からないじゃ許さないよ?」
「はぁ…マリオはジュエル系の魔法が主だ。ジュエル・リリースでコレクションを召喚する。身につけてた物…特別な物はなかった。ジャラジャラと宝石ばっかり。指輪だけで手足合わせて17個。」
「…指輪。どこ?」
「…お前…その目…」
「どこ?」
「本部だ。鑑定されてんだろ。」
「そっか。じゃあもうここに用はないかな。ありがとう。」
「待て。お前、本当に勇者か?」
「…うん。魔法使ってみる?無効するけど。」
「ならその目はなんだ。見たことも聞いたこともない…」
「そうだろうね。僕、努力家だから。この目も努力の証。誰にも真似できないよ?」
バタン。
「……紫の目…。」
………………………………。
「いけないいけない。つい集中すると…僕はもっとおバカさんじゃなきゃ。大切な時までは。」
「本部…行き方知らないなぁ…聞いとけばよかった…でも家に帰れないし。トモたん…早く元に戻すからね。そしたら命の恩人だしプロポーズしてもいいよね…うひ。」
「またナギのとこ行こう。」
………………………………………。
「でも…!!」
「今は先にルナちゃんの話を聞くべきよ!」
「………………。」
夜中にルナが何者かに襲われたらしい。
しかもルナが言うには場所は俺の家。
調べに行きたい俺と、先にルナに詳しく聞きたいヒカリさんで意見が別れた。
「じゃあ、ヒカリさんはルナに話聞いてよ。場所分かるし、ムーヴですぐ来れるでしょ?」
「1人は危険よ。ルナちゃんの素早さで捉えきれないなんて…」
「俺はルナより速いし。勇者だから。危険察知もあるし。何かあれば逃げれる。ね?」
「………………。」
「じゃあモモと一緒に行くよ。守護してもらえば問題ないでしょ?」
「そこまで言うなら分かったわ。モモちゃんお願いね。」
「ヒカリ、大丈夫。」
「うん、大丈夫。」
「何かあったらすぐ逃げて私に知らせてね。なるべく早く向かうわ。」
「よし、モモ!行こう!」
「また後でね。」
「そんなに心配しないでよ。大丈夫だから!…もしや寂しい?」
「ええ。」
「…!!」
「ふふ。ナギ君、まだまだね。」
((ムーヴ・ウルトラ))
ヒュン!
「くそ!今のは読めなかった!あそこは普通にドキッとしてくれる展開かと…」
「勇者。」
「あ、はい。行こう。」
……………………………………。
「ヒカリにゃん…おはにゃ。」
「ルナちゃん…珍しいわね、こんなに元気なぃ……」
「満腹で苦しいだけにゃ。」
「すごい量ね…」
「気を使っておばちゃんがマグロステーキサンドいっぱい作ってくれたにゃ。」
「……そうなのね。じゃあ、夜に何があったのか教えてくれる?」
「にゃ。ジミーにゃんをデュークにゃんのとこに連れてったあと、すごーく暇だったにゃ。眠れなかったにゃ。」
「うん。」
「ギルドマスターの部屋で探検ごっこしてたにゃ。壁コンコンしてたら隠し部屋を見つけたにゃ。」
「え?」
「中に入ったら閉じ込められて、奥に行ったらピカーってされたにゃ。だから戻って扉に思いっきりパンチしたら開いたにゃ。」
「……。」
「外に出たらナギにゃんの部屋だったにゃ。」
「ワープしたの?」
「にゃーはムーヴ使えないにゃ。扉開けたらいきなりナギにゃんの部屋だったにゃ。階段降りて下のリビングに行ったら何か居たのにゃ。」
「どんな見た目だったの?」
「分からないにゃ。黒い影みたいだったにゃ。電気つけたら消えたにゃ。嫌な予感してすぐ家を出たんにゃけど、いつの間にかお腹痛かったにゃ。」
「追いかけられた?」
「多分にゃ。」
「今朝のローカルニュースに公園が荒らされたって…きっとそうね。」
「ヒカリにゃんも行くのにゃ?」
「うん。ナギ君が心配だもの。もう行くわね…食べ過ぎちゃダメよ?」
「にゃ……おやつは我慢するにゃ。」
((ムーヴ・ウルトラ))
……………………………。
「モモ、手繋いでくれ。」
「分かった。守護する。」
そこまでじゃないけど久しぶりの自宅。
生まれ育った家だし、近所歩くだけでも一気に懐かしい気持ちになる。
「よし、入るか…鍵…鍵…」
ビュン!
「待って。」
「ヒカリさん!」
「ルナちゃんに話聞いてきたわ。」
ガチャ。
「とりあえず入ろ?モモ、ヒカリさんと手を繋いでくれ。」
「待ってよ!」
「俺は家族まで失ったのに、まぁーだ俺にしつこくちょっかい出そうってのが居るんだ。」
「許さねぇ。ぶっ殺す。」
「ナギ君…」
「ここで待っててもいいよ。てかそうして。引かれたくない。」
バタン。
「ヒカリ。」
((ボルケーノ・ガン))
「行くわ。」
気安く傷口に触れてくれるなよ…魔物だか、魔王だか知らないけど!
てか治せるわけでもないのに傷口見たがる野次馬もふざけんなよ!!
スマホでパシャる奴らも!いつか自分も同じことされて手遅れになったらざまあみろって言ってや…
「誰だお前。」
廊下を抜けてリビング。
リビングを左に進むと階段、右に進むと庭が見える。
正面奥にはキッチン…そこに影が見える。
カチッ。
部屋の電気をつけた。
「………………消えた…?」
カチッ。
部屋の電気を消した。
「居る……!」
明るいと見えない。
暗いと存在が分かる。
「お前、俺の家で何してる。」
……………………………。
「ナギ君…」
「下がれ!」
ガキイイイイイイイイイイイイイン!!
「うっ…!」
「モモ!ヒカリさん連れて下がれ!」
「分かった。」
目の前の影は…その場から動いてない。
でも…正体が分かった気がする。
「ナナミさんの次は俺のストーカーになったってのか。」
影は動かない。
カチッ。
「もうバレバレなんだよ。姿現せ!このクソ悪魔ぁ!!」
ズッ…
《チカラ…モトメテ。》
「封印されたはずのお前がなんでここに居る!」
《イサマシキチカラ…モトメテ。》
バリイイン!
「ついてこいよ!ストーカー!!」
ガラスを突き破って庭に出た。
家で戦闘なんて無理だし。
ちょいぶりのあそこまで追いかけっこだな。
「どーしたおら!来いよぉ!!!」
精一杯の挑発。
文字だから皆には分からないこの表情、マジでヤバいからね。
動いたっ!
「捕まえてみろよ!」
ビュン!
…………………。
「モモちゃん!」
「追いかけない。」
「どうして…」
「危ない。」
「あなたが居るわ!」
「勇者、心配して戦えない。」
「…………。なら少し離れた場所から…それならいいでしょ?」
………………………………。
神化の棺での試練を思い出してた。
悪魔戦。
最初は透明化してた。
もう少ししたら姿を現すはず。
悪魔の正体との公式戦は初めてだしな。
あの時の経験が無かったら初見殺しで本当に死んでた。
攻略法か分からないけど、情報はある!
ズザザザ…
みんな大好きせーの…!!
「河川敷!」
……ドスン。
「マジックアーマー!」
輝石に魔力が溜まるまで30秒くらいか。
「……行くぜ。ダークナイト。」
ビュン!
《リアュチクンサ》
聞こえた…防御!
「おっしゃあっ!!」
ギリギリまで近づいて思いっきりジャンプした。
真上に飛んで…
((ストロング・フィスト))
「垂直落下式ダークスラァーーッシュ!!!」
両手で握って思いっきり振り下ろす…
ガキイイイイイイイイン!
すぐに右手をフリーにして…
((ビッグ・インパクト))
バチイイイイン!!
「ダークスラッシュ!!」
ガキイイイイイイン!
そのまま左手で攻撃…!!
利き手じゃないけど結構手応えあったぞ…!
バリイイイイン!
「割れたな。」
《キィヤァァァアアァァアァァ!!》
「うっせえ!耳栓要るんだった!」
でも透明化が解けた。
試練の時と同じ。
マッチョでヤバい赤鬼だ。
バサッ。
「もう飛ぶ?」
《トスペンテ・スデ》
「なんだっけ…」
ヒラヒラ…
「黒い雪……。」
…………………………………。
「何よあれ……!」
「ヒカリ。守護する。」
「え?」
ポタ………ジュッ!
「黒い雪…?」
「屋根のあるとこ。」
「そうね、移動しましょう。」
……………………………………。
「つぁっ……そうだ、これ…触れちゃダメなやつ!」
…そう、触れた肌が黒カビみたいに侵食されてピリピリしてくるんだった。
「速攻だ。」
「…この世を救う!英雄に!!!」
ジュウウウウウウウウウウ…
いつもと感覚が違う…レベルMAXボーナスなのか?
「いいねぇ。…それじゃあ。ショータイムといこうか!!」
《チカラヲモトメテ。》
「間に合ってんだよ!イリュージョン!!」
ヴヴヴン…
5人に分身。
同時攻撃じゃなくて、高速コンボで行く!
「連携攻撃!プランA!!」
脳内で描いたイメージ通りに分身が動いてくれる。
悪魔の攻撃範囲を予想しながら…
《トマレ》
「…………………………………。」
ドスンドスンドスン…
グシャアッ!!
ドスンドスン…
グシャアッ!
《キィヤアアアアア!》
《ズイサスデ》
ズバァァァァァァン!!
「………………………っ…あ……。」
ドスンドスンドスン……
ブオオオオオオオン!!
ヒュン………!
「あっぶねえ。」
静止魔法。
禁術だぞおい!
自力で夢から覚めるように克服するんだけど…今回ギリギリだったな。
「出た出た。趣味のっ悪い武器。」
ブシャッ!!
「………………あれ?」
血が………お腹を何かが貫通して…あ、悪魔の爪…
バリバリ…
「ぐふっ…」
マジックアーマー余裕で貫通。
魔王より強いよなこいつ。
設定間違えてない?大丈夫なの?
ズルズル…
引き抜かれてく……静止魔法は…攻略出来てなかったのか?
爪が伸びるとしても見逃すはずない。
「…きょ…っ!」
距離を…そう、ここで飛び退いたら殺られる。
「へへ…。」
お腹に黒い剣を這わせる。
少し体に刃が触れて痛いけど、それすら必要なことだと分かってる。
今なら…どんな願いを聞いてくれるんだろうな。
ズルズル……スッ…
「今こそ…!!」
ダダダッ…ツッ…!
あえて左肩に悪魔の爪が当たるように突っ込んだ。
ギリギリまで血を吸わせたいから。
「復讐の時!」
なんとなく、悪魔が戸惑ってるように見えた。
今まで攻撃を受けながら突っ込んでくるやつがいなかったんだろうな。
こいつの見た目だし怯えて逃げてくのが大半だろ。
「リベンジスラッシュ!!!」
ズバァァァァァン!!
《キイヤアアアアアア!!!》
ブシャッ!
…グサッグサッグサグサグサ!!
「ぶふっ…づぃが…ごぼっが…ばっどう…」
左腕を斬られた悪魔が慌てて右手の爪をぶっ刺してきた。
ちょっと予想外。いや、かなり予想外。
でも…この痛みすら俺の武器になる。
「…ゲホッ。3分間、俺への全ての攻撃を無効化する。」
ちゃんと話が出来る相手ならここでドヤ顔チャンスなんだけどな。
3分間という制限を設けたことで、この願いは叶った。
前とは違う。
絶対勝つ。
《ゴオオオオオアアアアアアッ!!!》
多分。