第八話 回復魔法とゴリラ
エクスの案内で俺はセイロンガーンの町に着いた。町並みは田舎町という風景かな。町の中で風車が回ってたりしてのどかって雰囲気もある。
定番の外壁に囲まれた町であったりもして、入り口で何者かは尋ねられたけど、エクスがとりあえず私が身元は保証するからという話であっさり通してもらった。検問とかはわりとゆるい感じだね。
建物に関しては木造の三角屋根の建物が多い。大体二階建てから三階建てって感じかな。
ただ一軒一軒の作りは大きめで、部屋数を多くとって所有者が貸室としている場合が多いらしい。
商人の出入りもあるので馬車道は敷設されているけど、歩行者との明確な境界はない。
まぁそこまで馬車が多く走っているわけではないけど。
そんなわけでエクスの案内で俺は魔導ギルドとやらに行くことにした。
ここよ、と得意気に紹介された建物は赤煉瓦造りの建物で、屋根の形がまさに魔法使いがかぶるような三角帽子型をしている。
その帽子に看板も装飾品のように飾られていて、そこにしっかり魔導ギルドと刻まれていた。
樫の木っぽい素材の馬蹄形の扉を開けて中に入ると、そこには大量の魔法使いが! と、言っていいのかよくわからないけど結構人がいた。
そして中は半々で分かれているような間取り。どうやら入ってすぐは魔導士専門の受付カウンターがあって、依頼書が貼られている掲示板もあるのにたいし、残り半分は酒場兼依頼者との相談の場となっているという話だ。エクスの説明によるとだけどね。
でも大体どこの町のギルドも似たような間取りらしい。たまに一階がまるまる酒場で魔導士専門窓口は二階って場合もあるようだけどね。
「この人達が魔導士なの?」
「大体そうよ。決して大きいとは言えない町だけど、登録魔導士の数は結構いてね。S級はいないけどA級なら数人在籍しているのよ」
S級というのはそれほど希少ってことなのか。実際A級でもかなり難しいらしい。どうやらB級以上は特別な昇級試験があるようだ。
それにしても――見れば見るほどイメージと違うな。と、いうのも、確かにいかにも魔法使いといった風貌の人も多いんだけど、エクスみたいな見た目剣士っぽいのや、狩人っぽいの、それに顔も厳つくてボディービルダーみたいないかにも脳筋的な方もいらっしゃる。
「このカウンターの前に並んでいるの、本当に魔導士なの?」
「本当よ。だって依頼者は発注をそこの酒場でやることになっているから、ここには並んでいないもの」
「あのごっついのも?」
俺はなんとなくゴリラっぽい顔と体格の人を指差して聞いてみた。いやゴリラほど毛深くないから人間とはわかるけど、じゃなくて本当に魔導士なのか? と疑問だったからね。
「え? あぁ、そういうことね。そうよあの人はゴリさんといって近接魔導士にあたるわね」
ゴリさんってもう名前からしてまんまだな。近接魔導士ってゴリラにでもなる魔法が使えるのか?
「ゴリさんはあんな見た目だけど大らかでいい人よ。私と同じB級魔導士でゴリラに変身出来る魔法が使えるの。意外でしょ?」
「まんまじゃん!」
思わず俺は叫んだ。もうね、見た目とか名前とか使える魔法とか、意外性の欠片もない方の登場だよ!
「うほっ、エクス戻ってたのか。うん? ところでその若いのは誰だい?」
口癖うほっかよ! やばいな、もうこの人ゴリラにしか見えないよ。本当顔も普通にゴリラっぽいし。
「この子は西の大森林で出会った子でね、こうみえて結構すごい魔法が使えるのよ」
「うほっ、まだ若そうなのに大したものだ、おっと俺はこのギルドの登録魔導士、ゴリ・サンだ宜しくな」
ステータス
名前:ゴリ・サン
性別:♂
年齢:24
ジョブ:動物魔導戦士
レベル:28
HP:322/322
MP:186/186
腕力:105
体力:140
敏捷:45
魔導:85
魔導スキル
□ゴリラ魔法□強化魔法
物理スキル
□格闘術□頑強□根性
称号
□ゴリラに愛されし者□上級格闘家
そう言って手を差し伸べてきたゴリさんだったから。診断してみたら本当に名前がゴリさんだったよ。もうどっから突っ込んでいいんだよ。後ゴリラ魔法ってなんだよ。
□ゴリラ魔法
獣変魔法の一種で、ゴリラに特化した為にゴリラ魔法となった。魔法の力でいつでもゴリラに変身でき、ゴリラになるとHP、腕力、体力が大きく跳ね上がり、更にゴリラ流格闘術が使えるようになる。
ゴリラ魔法の説明きたこれ! てか予想以上にゴリラだよこの人! 聞いてはいたけど見た目ゴリラなのにこれ以上ゴリラになってどうするつもりだよ!
「俺はヒール、こちらこそ宜しくお願いします」
とは言え一応握手に応じ挨拶をしておく。何せ先輩ゴリラだからな。ちゃんと礼儀は通しておかないと。
「ところでバナナは好きですか?」
「うほっ、大好きだがそれがどうかしたのかい?」
「いえ、なんとなくです気にしないで下さい」
「クー」
俺が素直な気持ちを返すと、不思議そうに首を傾げるゴリさんだ。
でもバナナは仕方ないよね。俺以外にも絶対聞かれているだろこのゴリラ。
「うほっ! そういえばその肩に乗ってるのはカーバンクルじゃないか! 一体なんでそんなところに?」
そんなこと考えてたら、突然興奮して鼻息荒く問いかけてきた。クーに対する目が怖い。餌としてみてるんじゃないだろうな?
「あ、そうそう出会いのきっかけはこのカーバンクルでね」
「まさかそこから恋が始まるとは思いませんでした」
「うほっ、そうなのか?」
「違うわよ! なんでそんな嘘ぶっこむの!?」
なんとなく。困ってる顔がちょっと可愛いし。
「と、とにかくカクカクシカジカで」
「なんと! ハンターがカーバンクルを!?」
どうやら話は通じたらしい。そして幻獣であるカーバンクルに懐かれたことを大層感心してくれた上で。
「うほっ、それにしてももふもふしていて可愛らしいな」
興味深そうに手を伸ばして来た、が、そこでカーバンクルが逃げるように俺の背中に回った。小刻みに震えているし、俺以外に触られるのは嫌みたいだな。
そういえばエクスもまだ触れてないし。そして何気にゴリさんが、ズ~ン、という効果音が聞こえてきそうな程に落ち込んでいる。
「と、とりあえず彼の登録済ましてしまうからまたね」
対応に困ったのか、結局エクスはゴリさんを放置することに決めたようだ。
哀れゴリさん。