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第七話 回復魔法の証明するよ

 なんか訝しそうな目で彼女が見てるよ。うん、完全に信じてないねこれ。でも逆にエクスが俺を騙しているってわけでもなさそうだし、どうやら本当にこの世界には回復魔法というのがないようだ。


「そりゃ回復魔法なんてものがあれば、こんな便利なことはないと思うけど、そんなの夢物語よ。貴方も現実を見たほうがいいわね」


 散々ないわれようだな。でもこの世界に無いものを証明するのは難しいよなぁ……。


「大体貴方、そこまで凄い魔法使えるように見えないし、正直全く知的には見えないわよ」


 むっ、そこまで言うかね。大体知的って意味ならエクスだって決して知的には見えないってのにさ。


「でも、俺が回復魔法使えたからこそ、クーは俺に心を開いてくれたんだぜ?」

「はいはい、判った判った。きっとあれでしょ、カーバンクルの好物でも持っていたんでしょ? 今もリンゴ美味しそうに食べてるし」


 確かにカーバンクルは肉は食べないみたいだから、持っていたリンゴを食べさせたら喜んでたけどさ。


 でもやっぱ医者として、治したものを治してないと思われるのは癪だよね。あ! そうだ!


「じゃあさ、もし本当に回復魔法が使えたらどうするの?」

「その時は何でもいうことを聞いてあげるわよ」


 う~ん、この小生意気な態度。本当俺の事信用してないって感じだよね。ちょっとムカつく。


 そんなこと考えてたら、何か上の方でガサゴソって音がして、かと思ったらボトンッ! とエクスの肩の上に何かが落ちてきた。


「シャーーーー!」

「え? きゃ、キャアアァアアア! 蛇~蛇いやぁああぁあ!」


 何かと思ったら結構大きめの蛇だったね。それにしても涙まで浮かべて凄い嫌がってるな。


「ふぇえぇえん、蛇、蛇嫌い! 逃げてなのぉぉお、とって~とってよ~~~~」


 なるほど。蛇が苦手なのね。この辺りは女の子って感じだよね。でも、俺はふと脳裏にひらめいて口元を緩める。これは上手く行けば――


「ねぇ、回復魔法の証明したらなんでもしてくれるんだよね?」

「こ、こんなときに何を言ってるのよ~~! 蛇とってよ!」

「だから蛇もとるけど約束は約束だよね?」

「判ったってば! 約束は守るからはやくして~~~~!」

「言ったね。じゃあ、はい!」


 言質を取ったところで俺は行動に移った。その瞬間、切断された蛇の成れの果てと細長い塊が宙を舞い、そして彼女の斜め後方に落っこちた。

 それを暫く呆けた顔で見ていたエクスだったけど……て、うん? 細長い塊?


「……え? う、そ、私の、う、腕、きゃ、きゃああああぁああぁああぁあぁあああ!」

 

 するとエクスは自分の右腕がなくなってることに気がついて悲鳴を上げた。あ、結構血が出ちゃってるな。弱ったな蛇を排除するついでにちょっと傷つけるだけのつもりだったんだけど、どうやら女の子の細い腕だとこのナイフでも十分切り飛ばせちゃうのか。参ったね、でもまあやってしまったものは仕方ないかな。悲鳴が凄いけど。


「いや、いやああぁああ人殺しィィィイィ、ひいぃいぃいぃい!」


 するとエクスが異様なほどパニックに陥って腰が抜けたようになりながらもジタバタと暴れだした。う~ん結構レベルの高い魔法剣士なのにちょっと騒ぎ過ぎだよね。


「いやぁあ! こないでぇえぇえ! こないでぇええぇええ!」


 本当ひどいな。まるで犯罪者にでも出くわしたような目を俺に向けてるし。本当わざとじゃないんだけど……。

 とにかくジタバタと暴れまわっててこのままじゃ作業に移れないよ。仕方ないから、えいっ! と彼女のお腹の上に乗ってあまり暴れないよう押さえつける。


「ひっ、いや、これ以上何する気なの――まさか、そんな、いやだぁあぁ、こんな、こんなキチガイに犯されるなんていやぁあぁああぁ!」

「かんべんしてよ。悪いけど俺は無理やり女の子をどうこうする趣味なんて無いから。大体人を異常者みたいに言わないでよ」

「何言ってるのよぉーーーー! 私の腕を、腕を切っておいてぇ、ひっく、痛いよ~痛いよ~――」


 うん、だから暴れたら出血も酷くなるし余計痛いだけだってば。だからこうやって押さえてるのにな~。

 まぁいいか。よっと、俺はとりあえず落ちてた彼女の腕を拾って断面を付け根に押し付ける。


「いやぁあ! いだいだいいだいだい!」

「はいはい、いいからちょっと大人しくして。ちゃんと回復魔法掛けてあげるから」

「いや、いたいってば! あんた頭おかしいんじゃないの! 回復魔法って、あああぁ死ぬ死んじゃうよぉおぉっぉおおぉお!」

「大丈夫死なないから。はい、回復っと」


 俺は切断された腕がくっつくイメージで回復魔法を掛けてやった。すると切れたはずの腕から淡い光が溢れ、そして――


「ふぇえぇええん、いだいよ~もう嫌だよぉ、ママ~パパ~、痛い、痛――くない? あれ?」

「はい、もう大丈夫くっついたから」


 さんざん泣きわめいていたエクスだったけど、俺の回復が成功すると途端に目をパチクリさせる。

 俺も押し倒しているような状態から立ち上がって一応、どう? と尋ねてみる。


 すると彼女は自分の腕をマジマジと眺め、そしてぶんぶんっと振り回した後立ち上がりそして俺の目をじっとみてきた。

 改めて見ると綺麗な目をしてるな。正直照れるぞ!


「ほ、本当に治っちゃった……え? これ魔法?」

「だからそう言ってるじゃないか。回復魔法だよ」


 俺の答えに、エクスは顔を伏せプルプルと身体を震わせて、そしてすぐ顔を上げて、すっご~~~~~い! と驚嘆した。


 かなり大げさな気もしないでもないけど、回復魔法がないこの世界にとってこの現象はそれほどまでにとんでもないことなんだろね。俺でさえ最初は驚いたぐらいだし。


「凄い凄い! 本当に凄いわ! これは革命的よ! 回復魔法があるなんて驚きだわ。しかもこんなに簡単に腕がくっついちゃうなんて、キャー!」


 凄いはしゃぎようだ。さっきまで俺のこと散々疑っていたのに現金なものだね。肩に乗ってるクーも呆れ顔だよ。


「あ、でも、じゃあさっきは私の事を治療してくれようとしてたのね……」

「そうだよ。蛇も嫌そうだったから排除して上げたのにさ。それなのに随分と酷いこと言われちゃった。折角回復魔法の事教えて上げようと思っただけなのに」

「そ、そうよね。ごめんなさい酷いこと言っちゃって」


 しゅんっとした様子で謝罪するエクス。本当はもっと意地悪してもいいぐらいの酷いいわれようだったけど、女の子を困らせるようなことをするのは男としてどうかと思うしね。


「もういいよ。でも、何でもするっていう約束は覚えてるからね」

「う!? わ、判ってるわよ。で、でも――あまり無茶なのは……」

「大丈夫、そうだね。実は俺この辺りのこと詳しくなくてさ。町とか人の住んでいそうなところあるのかな? その辺道案内とかしてくれると嬉しいんだけどね」


 まあ流石の俺もここであんまり無茶なことは言えないしね。それにこっちとしては回復魔法が使えるって判ってもらえるのがメインみたいなものだったし。


「なんだ、それぐらいならお安い御用よ! 私もそろそろ町に戻ろうと思ってたから、じゃあこれ食べたらついてきて」


 そんなわけで交渉は成立。残った肉を食べた後、彼女の案内で町へ向かうことになったんだけどね。


「ねえ、ところで貴方そんなに凄い魔法が使えるなら、魔導ギルドに入らない?」

「え? 魔導ギルド? ハンターギルドじゃなくて?」

「ハンターギルドは脳筋連中が登録するようなギルドよ。魔法が使えるなら断然魔導ギルドのほうがいいわよ。それに貴方これから生活するならお金も稼がないとじゃない? 魔導ギルドは町の人々からも色々な依頼を請け負ってギルドの登録魔導士に斡旋してるから色々便利よ」


 そうなのか……ちなみにハンターギルドも似たようなのやっているらしいけど、魔導ギルドに比べると狩りとか護衛とかそういった依頼しか請け負わないから凡庸性に欠けるらしい。

 

 そして魔物の狩りとか護衛とかの依頼は魔導ギルドでも扱ってるから魔法が使えるなら無理してハンターギルドに登録するメリットがないようだ。


「ちなみに私も登録しているのは魔導ギルドでね。ライセンスもなんとB級なのよ!」

 

 得意気に語るエクスだ。でもこれでなんとなくハンターギルドに対して辛辣な物言いだったのも判った気がする。ちなみに魔導ギルドのライセンスはF級からS級まであるらしいね。

 

 まあどっちにしろ俺もこれからは色々と入り用だし、話だけでも聞いてみようかなっと――



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