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第五話 回復魔法と女剣士

「クー、クークー♪」


 助けてあげた幻獣、どうやらカーバンクルで間違いないようだけど、すっかり俺に懐いて頭の上でクークー言いながらはしゃいでいる。


 う~ん、でもこれどうしよう? とりあえず手を伸ばして頭を撫でる。やばいふさふさで気持ちいい。そんなことしてたら肩の上に移動してきて頬ずりしてきた。これは可愛い! 暫く一人でいたからこんなことが凄く嬉しい。


「お前一緒に来るか?」

「クーーーー!」


 ぴょんぴょん飛び跳ねて嬉しそうだ。尻尾もふりふりしてるし。見た目はウサギに近いけど尻尾は結構大きいんだよなこいつ。しかも何かもふっとしてふんわりしてる。


 まあでも、こいつも喜んでるみたいだし、よし! 今日からこの幻獣の親代わりになってやろう!

 でもそうなると名前がないと不便か。そういえば名付けが可能となってたな。

 う~ん、それなら。


「よっし! 今日からお前はクーだ! どうだ?」


 俺がそう名付けると、クーはやっぱりクークーと鳴いて喜んでくれた。まあクークーってなくからクーというのも我ながら単純だと思うけどね。


 と、それはいいとしてこいつらを殺してしまったのは別になんとも思わないけどさ。だって悪いのこいつらだしクーを捕まえようとしてたし、それに俺も攻撃されそうになったからどうみても正当防衛だしね。

 

 でもこの死体どうしたらいいかな? 放っておいていいのかな? よく考えたら俺この世界のルールよく知らないし、殺す前に殺した後どうしたらいいか聞いておけばよかったな。教えてくれるわけ無いか。


「あ! 貴方ね最近このあたりを荒らしまわってる連中は!」


 俺がそんなことを考えていると、突如森の奥からガサゴソと音がして、快活な声を響かせながら一人の少女が飛び出してきた。


 元気が良さそうな赤毛の少女で、瞳も灼眼。吊り上がり気味の瞳で気が強そうな雰囲気があるな。年は十五よりは上で十九歳以下ってとこだと思う。


 ひざ上丈のスカートとコルセットみたいな上着の上から銀色の胸当て。それに腰には剣を差し持っている。

 いかにも剣士とかゲームとかで言うなら冒険者とか、そんな雰囲気のある女の子だ。


「あ~~~~! その幻獣カーバンクルじゃない! 希少種よ! 貴方その子どうするつもりよ!」

「いや、どうするも何も、俺が育てようかなってそう思っていたとこなんだけどさ」

「そう、つまり育てて成長させてから……食べるきね!」

「食べるか!」


 何だこの子? 可愛いけどちょっと残念な感じなのか? 大体こんな愛らしい動物を食べるわけ無いだろ。


「ということはつまり――繁殖させたりして欲望丸出しの貴族連中に売ろうとか考えてるわけね。この獣! 最低よ!」


 ……はい? え? 何、何言っちゃってんのこの子?


「もう絶対ゆるせないんだからね! 覚悟なさい!」

「いやいやいやいや! ちょっと待てって、君何か勘違いしてない?」

「問答無用! 【フレイムソード】!」


 スラリと剣を抜いて、かと思えば何か技名っぽいの叫んだ途端、剣身に轟々と燃え盛る炎が纏われた。


 なにこれかっこいい。魔法ってやつ? あ~やっぱこの世界にも魔法があるんだな~って俺も回復魔法持ってるのに今更だけど。

 て、第一今そんなこと言っている場合じゃないし!


「いやぁあああぁああああ!」


 気合一閃、彼女の剣が俺の白衣を掠り、ボワッと煙が上がって端の一部が焦げてしまう。医者になるためにわざわざ仕立てた俺の一張羅が! 酷い! まあ回復するけど。


「貴方、避けるんじゃないわよ!」

「無茶言うなよ!」


 正直かなりの美少女と言える女の子なんだけど、この野蛮な性格はマイナス点すぎるな。でも、彼女はなにか勘違いしてるようでもあるし流石に殺すのは気が引ける。男ならともかく美少女を殺すのは医者としてはあるまじき行為だしね。


「とりあえず――その魔法を回復!」

「は? 何を言って、て! 嘘、私の魔法剣が!?」


 彼女が目を白黒させた。俺が回復魔法で魔法を使う前まで回復させたからね。う~ん結構応用が聞くなこの魔法。


「さては貴方、封魔の魔法が使えるのね!」


 するとビシっと指をさしながらそんなことを言ってきた。眉間に皺が寄って可愛い顔が台無しだぜ?


「でも、それぐらいで勝った気になってるなら大間違いよ! 例え魔法が封じられていたとしても私は剣術にだって自信があるんだから!」


 う~ん、別に封じたわけじゃないから、もう一回使えば炎を纏わせられると思うけどね。思い込みが強そうだなこの子。まあその場合また消すだけだけど。


 でも流石にこのまま相手してるのもしんどいし、でも攻撃するのも違うしどうしようかな――なんとか彼女を傷つけずに無効化して話を聞いて……あ! そうか!


「その装備を回復だ!」

「は? 貴方何を言って、って、キャァアアァアアァアァアアァ!」


 黄色い悲鳴が空高くまで響き上がった。そして両手で胸とお股を隠してペタンと座り込む。う~んいい眺め。装備を回復させたことで装備してない状態にしたからね。つまり彼女の着ていた物や剣がするっと抜けて地面に落ちたってわけ。

 

 そうなると当然だけど、ま、彼女はすっぽんぽんの状態になったわけで、うん、ごちそうさまです。それにしてもやっぱスタイルいいなこの子。


「ど、どうなってるのよこれ~~~~!」

「うん、流石に大人しくなってくれたね」

「大人しくって、あんた! 私をこんな目に合わせてどうする気よ! あ、さ、さては私を――この獣! くっ! 殺せ! あんたなんかの慰みものになるぐらいなら、いっそ死んでやるーーーーーー!」


 う~ん、まさかくっ殺せを聞ける日がくるとは思わなかったな。しかも言われてるの俺だし。でも流石にそれは心外だからね。


「別に君を取って食おうとかそんなことを考えてるわけじゃないよ。ただ誤解を解いてもらおうと思ってね」

「誤解って何がよ! こんな辱めに合わせて! 誤解も何もないわよ! 獣! モンスター! スケベ! オタンコナス!」

 

 最後の方はなんか子供の悪口みたいになってるな。


「いや、だってこうでもしないと君、話聞いてくれそうにないし。そりゃ裸にしたのは悪いと思うけど、でも俺別にクーを育てて売り飛ばそうとかそんなことは考えてないんだぜ」

「だから、そんなうそ言っても、て――は? クー?」

「クー! クークークー!」


 するとクーも俺の肩の上でぴょんぴょん飛び跳ねながら彼女に抗議してくれた。その様子に一瞬怪訝そうに眉を寄せる少女だったけどね。


「もしかして貴方怒ってるの?」

「うん? あぁ、クーは俺の味方だからな」

「クークー♪」


 また俺の頬に擦り擦りしながら彼女に仲の良さをみせつけてくれた。これでわかってくれたかな?


「その反応……名前をつけてもらったことを認識している? それに確かに嫌っているならそこまで懐くことはないわね――」

「納得してくれたかな?」

「……そうね。幻獣に名前をつけるなんて、幻獣に心から信頼してもらわないと不可能だもの」

 

 そうなのか? 助けた時から既に名付け可能になってたけどね。


「……判ったわ納得はしてあげる。でも――」

「でも?」

「いいから早くあっち向いててよ! いつまでこんな格好させてるつもりよ! 服を着るからこっちみるな~~~~~~!」


 あ、そりゃそうか。これは失礼しましたっと――

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