第四話 回復魔法と小動物
「クー……クー――」
木々を掻き分け声のする方へ向かうと、そこには妙にもふもふとした薄緑色の毛に包まれた動物が悲しそうに鳴いていた。
ウサギのように長い耳を生やした動物で、その大きさも成長したウサギ程度。ただ眼の色は黒く妙にくりくりっとしていて愛らしい。
そしてウサギと決定的に違うのは額に紅い宝石のような物が埋め込まれている点だ。親指ぐらいの大きさでキラキラと光り輝いている。
もし本物の宝石ならかなりの高級品にも思えるな。
「クー、クー」
そんな小動物が俺を認め、縋るような目で鳴いてきた。
よく見ると、クークー鳴くその小動物の右足に罠――トラバサミって奴だな。それにしてもこれがもし日本なら鳥獣の保護の法律で特例を除いては全面禁止されてる筈だよな。
それが普通に使われているんだからその辺りは流石異世界ってところか。しかもこれ歯が鋸状になってるタイプだな。この動物の脚に食い込んでいてこれは相当痛そうだ。
なるほど、この小動物、それで俺に助けて欲しいと思ってるわけか。藁にもすがる思いなのかもな。
でも、流石に俺も鬼ではないしね。見ちゃったら放っておくわけにもいかない。
だから回復魔法で罠を元通り、つまり起動する前まで回復してあげる。そうすることでガチャンっと当然のように刃が外れた。ついでに物騒だからトラバサミ自体を回復魔法で土に返してやる。
「クー……クー?」
するとクークーなく動物が不思議そうな目で自分の脚を見た。どんなに頑張っても外れなかった罠があっさり解除されたから驚いているのかもな。
で、うわ~抉れてて脚痛そう。これじゃあ歩けないな。よっし! じゃあこの傷も回復魔法で回復っと……ん、なんか回復魔法を普通に使ったの久しぶりな気がするな。なんだそれって感じだけど。
「クー……? クー!? クー! クー! クー!」
すると、その薄緑色の小動物が先ず怪我が治っていることを確認し、そして驚いたように何度も鳴きながらぴょんぴょんっと飛び跳ね始めた。耳もふりふりしてなんだかとっても可愛らしい。
「クー♪ クー♪」
すると、今度は随分と高く飛び上がり、本当俺ぐらい簡単に飛び越えそうなぐらいだな。
そしてそのままストンっと俺の肩の上に着地し、クークーと鳴きながら俺の頬に擦り寄ってきた。
うむ、毛がもふもふっとして気持ちがいい。それになんとも可愛らしい動物だ。
だけどこの様子を見るに、もしかして俺懐かれちゃったかな? でもずっと一人だったしな。相手が動物とはいえ悪い気は――
「ん? なんでこんなところにガキがいるんだ?」
「知らねーよ。何か変な格好してる奴だな、て! おいあれ! あの肩に乗ってるのカーバンクルじゃねーか!」
「本当だ! やっぱりカーバンクルを見たって噂は本当だったのか!」
俺が懐いてくれているこの小動物の顎を撫でていると、突如二人組の男が藪をかき分けて現れ俺をガキ扱いした。
失礼な連中だな。それに俺はもう十八だぞ。いや、それより初めて自分以外の人間にあったぞ! 森をずっと彷徨ってても人っ子一人見当たらないから心配になってたんだけど、やっぱいるんだな人間!
……でも、最初に出会ったこれ、なんかあんま歓迎出来る雰囲気じゃないな。ふたりともガタイはいいけど顔つき悪いし、それにこの動物、カーバンクルって言ってたよな? その姿に驚いている。
カーバンクルってゲームや物語とかにも出てくる不思議な生物だよね。
それがこの子ってことなのか? ちょっと診察してみようかな。
ステータス
名前:名付け可能
性別:♀
ジョブ:幻獣
レベル:5
HP:58/58
MP:212/212
腕力:35
体力:42
敏捷:128
魔導:202
魔導スキル
□マジックメイク□幻術
物理スキル
□閃光
称号
□幸運の幻獣□初級幻術使い
なんか思ったよりすごかった! いや、多分これ結構強いよね? マジックメイク、そして幻術に閃光? 称号には幸運の幻獣と出ているから、奴らのいうようにカーバンクルであることには間違いないのかもだけど幻獣か~何か神秘的な響きだね。
で、説明をみるとマジックメイクは魔力を色々な形に形成出来ると。幻術はまんま相手を惑わすタイプの魔法らしい。閃光は額の宝石から強烈な光を発して目眩ましになると。
う~んこれだけのスキルあったのに罠から逃げられなかったのかな? それに幸運持ってるのに……と思ったけど自分自身への幸運というよりは周囲に幸運を振りまく感じらしい。
そんなステータスを見ながら一人考察していると、連中から尖った声が耳に届く。
「おいテメェ! その幻獣はどうした? それにここには罠も張ってあった筈だろ! それはどうした?」
「罠なら回復しておいたからもう作動しないよ」
「回復? は? 何言ってんだテメェは?」
厳つい二人は怪訝そうに眉を顰めつつ、まあいい、と言葉を続ける。
「おいテメェ、痛い目を見たくなかったらその幻獣を大人しく渡せ」
あ~うん、やっぱりね。なんとなくそうくると思ったよ。こいつらどう見ても悪人面だしね。
「嫌なこった。第一あんな酷い罠を仕掛けるような奴らに素直に渡せるわけ無いだろ」
「そうか、だったら仕方ねぇな。大人しく渡せば苦しまずに死ねたものを」
下卑た笑みを浮かべながら二人組が腰から剣を抜いてみせた。
あ~あ、これでもうこっちも手加減できないねっと。
「おいガキ、今更謝ってももう遅い、ぎひぃぃいぃ!」
二人組の内の一人が何か言ってたけど、そんなの聞く前に俺の投げたナイフがその太腿を貫いた。
痛みで思わず蹲ってるけど、そこで俺はナイフを回復して手元に戻してやる。
ナイフ投げを覚えたせいか、狙ったところにナイフが飛んでくな~。
「ふ、ふざけやがって――」
「はい、じゃあその傷を傷として回復」
「は? お前何言って……て、うがあぁあ、いてえ、いてえよぉおぉお! 畜生! 傷が、傷がどんどん広がってーーーー!」
うん、名前も知らない男の一人がゴロゴロとのた打ち回る。本来回復魔法といえば傷を回復するものだけど、俺の究極の回復魔法があれば傷が傷として回復するという芸当も可能なんだよね。
だから傷はみるみるうちに広がっていく。血もドバドバ出て、あ、バタって倒れてあれは死んだな出血多量で。
「て、てめぇおかしな技使いやがって! もう許さねぇ!」
すると残った一人が叫びながら俺に向かって突っかかってきた。全くこれを見て勝てると思ったのかな? 死に急ぐよね~。
「クー!」
俺がそんなことを思いながら、相手にまた回復魔法で攻撃しようとすると、カーバンクルが鳴き声を上げ、同時にその目の前に俺が投げたナイフと同サイズの青白く光る刃が生み出された。
うん、あれはまさに俺のナイフそっくりで、もしかしたらこれがこの幻獣の持つマジックメイクで生み出されたものなのかもしれない。
どちらにせよ、創りだされた魔法のナイフは一直線に相手の額に向かい、突き刺さりあっさりと倒してしまった。
当然だけど額を貫かれた男は死んだ。




