第三十六話 回復魔法で村を救え!
頬を打つ雨で目が覚めた。昨晩は俺もついつい酒を呑みすぎてしまっていつの間にかウトウトしていたわけだけどな。
ところがだ、気持ちよく眠っていたところにとんでもない豪雨が俺の身体に叩きつけられていく。呑みすぎて外で寝てしまった為か雨の洗礼を全身で受けてしまった。
そしてそれは俺だけというわけではない。宴に参加していた村人全員がちょっとした悲鳴を上げている。
「ヒール様! 一旦建物の中へ!」
「でしたらうちへいらしてください。皆さんも狭い家ですが雨を凌ぐぐらいは出来ますから」
ジェイカプママに言われて俺とあの三人は一旦ジェイカプママの家に避難することにした。
それにしても突然の雨だな。雷までなってるし、正直かなり激しい。
「全くビシャビシャだぜ」
「でもおかげで完全に酔いは醒めたけどね」
「外激しいね。大丈夫かなぁ?」
思い思いの言葉をそれぞれが述べる中、ジェイカプママは竈に火をつけてくれた。それで服が少しでも乾けばいったとこなのだろう。
でもまぁその心配はいらないけどね。
「はい、みんなに回復魔法」
「え? あ、服が乾いた!」
「凄い、一体どういう仕組なのかしら?」
「俺、もう考えるのはやめよう……」
三人共喜んでくれた。けど、ちょっと呆れられたようでもある。なんでだよ!
まあとりあえず、同じく回復魔法で子供たちも乾かして、そしてジェイカプママも、ママも……。
「流石ヒール様です。竈も必要はありませんでしたね。余計な気遣いでした」
「いや、それより兄ちゃん、早く母ちゃんの服も乾かしてくれよ」
「……いや、それがちょっと魔力不足でな。すみませんお母さん、本当あとすこしだったんですが」
「いえ、気になさらず、私はゆっくり乾かしますので」
ニッコリと微笑んでお母さんが答えてくれた。
そして、勿論だが魔力不足は嘘だ。なんでこんな嘘を? と思うかもしれないが、しかし! これは仕方がないことだ!
なぜなら、雨のおかげで服が透けてジェイカプママのジェイカプがいい感じに拝めているのだ!
(……グッジョブ!)
(ナイスヒール!)
何故かソードとアローの心の声まで聞こえた気がしたな。正直このふたりにまで見られているのはちょっと癪だけどな。
「ヒール様、そして皆さんもちょっと宜しいかな?」
それから暫く雨が止むのを待っていた俺達だが、そこへ頭に笠を乗せた村長がやってきてどこか浮かない表情で訴えてきた。
「村長、そんな顔して何かあったのですか?」
「流石ヒール様だ、察しがいいですな。実は雨が更に増してきており、念のため確認に行った村のものが慌てて戻ってきたのですが――どうやら川が氾濫しそうなようなのです」
「は? 川が氾濫? え、どこで?」
「この村から北に徒歩で二時間ほど進んだ先にある川ですな」
そうか、そんなところに川があったんだな。
「村には引かれてないみたいだから気が付かなかったな」
「はい、実は北にある川は聖なる川として教会が管理してまして、使用するとなると使用料としてかなりの金額を要求されるので、それに灌漑するにも工事費などが大量に、なのでこの村ではなんとか井戸で頑張っていたのです」
なるほどね、しかし聞いていると教会は本当あこぎだな。
「ですが村長、川には水門が設けられていますよね? これだけの雨なら門が閉じるのではありませんか?」
ジェイカプママが反問する。確かに川が氾濫しそうならなんとかしそうだよな。
「それがだ、何故かこの村に影響のある範囲の水門だけが開きっぱなしで、しかも管理している人間も今に限って誰もいないそうなのだよ」
「そ、そんな――」
村長が項垂れながら沈んだ声を発す。どうやら思った以上に厄介な自体に陥っているようだけど。
「水門が閉じず、このまま雨が続けばどうなるんですか?」
「……恐らくですが、あと一時間もすれば溢れた川の水が一気にこの村まで押し寄せ、畑も家屋も全て飲みこんでしまうでしょうな」
「そ、そんな……」
「お、おいおい大変じゃねぇか。どうすんだよ!」
「流石にそれだけの水が押し寄せたら私達だってただじゃすまないわよ」
三人の顔も真剣味を帯びてきたな。それぐらいヤバイ状況ってことか。
「……仕方がありませんな。折角ヒール様が病を治してくれて、村もまだ頑張れると思った矢先でしたが、こうなっては村を捨てて出来るだけ遠くに逃げるしか――」
「その心配はありませんよ村長。大丈夫です俺に任せて下さい」
諦めかけた村長の言葉を遮るように俺が堂々と口にする。
するとジェイカプママがうっとりした顔で、村長も突如顔を明るくさせた。
「おお! 最後の希望とは思っていたが、やはりヒール様ならなんとか出来るのですな!」
……なるほど。つまり村長もここには俺を当てにしてきたってわけだな。
だったら、その期待には答えないとな!
「よっし! じゃあちょっと外に出ますね」
そして俺は一旦家屋の外に出る。雨足は村長の言うように大分激しいな。
「ク~!」
するとクーが村長の被っていた笠をマジックメイクで再現してくれた。う~んこれは本当便利だね。なのでクーに頼んで他のみんなにも魔力の笠を被せてもらう。
「クーちゃんすごい!」
「クー♪」
ポインがクーを褒めて抱きしめるとクーも嬉しそうだ。ポインには俺と同じぐらい懐いているよなクーも。
「それでヒール一体どうするんだ?」
「ふふっ、この世界じゃ知られてないと思うけどな。実はこの雨は雲から降ってきてるんだぜ!」
「「「「「「「…………」」」」」」」
……て、あれ? 何この微妙な反応?
「いや、流石にそれは僕達も知ってる、かな」
「うん、そうだね……」
「あ、で、でも割りと知らない方も多いと思いますよ!」
「そ、そうじゃな……」
「いやいや、俺でも知ってるし」
「私も知ってるかな~」
「クー……」
うわ! なにこれめちゃめちゃ恥ずかしい! ジェイカプママにだけフォローされているのがさらに胸を抉る!
「と、とにかくその雲を消せば! 雨は降らなくなるのさ!」
「お、おお! なるほど! ヒール様はあの雲を消すことが出来るというのですな!」
「え? 雲を? それは凄いな」
「本当、回復魔法も凄いけど雲を消せるなんて初めて聞いたよ」
「雲なんて見ることも難しいものね」
ふっ、威厳を取り戻したぜ! さ、そんなわけで早速雲を消し、消し、あれれ~?
「いや、あの、雲どこ?」
「……はい?」
「え? いや、だから雲は見ることは出来ないんだけど……」
はい? 雲が見ることが出来ない? ホワイ? イッテイルイミガワカラナイヨ……。
「ヒール様、雲は一番高い空にあるものです。故に肉眼では流石に見れないかと」
「……は? 一番高い空? え? なにそれ?」
「何って、常識だろ? 雲はこの空の一番天辺にあって、そこから気まぐれて雨を降らすんだよ」
「でも、あまりに高いから雲から雨が落ちて、実際に地上に降ってきた雨は、三日前に雲から落ちた雨なのよね」
「…………」
そんな常識、知るかーーーーーー! なんだよそれ! どういうことだよそれ! つまり空が曇ってるのも三日目の曇が、て、雲がないから曇りってのもおかしいのか? とりあえず薄暗いのはなんか一番高い空で遮られた光が三日後に届かなくなるとかそんな感じなようだ。
なにそれ不思議! 異世界ってば不思議! 畜生! ここにきてよくわかんない異世界常識に遮られたーーーー!
「ヒール様、やはりヒール様でも天気を操るのは不可能ですかな?」
村長が不安そうな顔で問いかけてきた。参ったな、確かに雲さえ見えればなんとかなったかもだけど見えないものは俺でもどうしようもない。
でも、あぁ言った手前何も出来ないというのもな……。
「やっぱり兄ちゃんでも天気は無理だよな……」
「うぅ、もう村もジャガイモも諦めないとだめなの?」
「ク~……」
兄妹も沈んだ顔で完全に諦めムードが漂っている。確かにこのままじゃ、て、ん? いや、待てよ。
「村長、確かに雲が見えなければ俺でも雨を止ますのは無理ですが、ですが、川の氾濫ならなんとか出来るかもしれません」
「!? それは本当ですかな!」
「はい、ただ、村長一つ質問なのです――」
俺は村長の耳元でそれがあるのかどうか聞いてみるが。
「ええ、それはもう、倉庫にたくさん眠ってると思いますが、でも、一体それで何を?」
村長から話を聞き、俺は思わずほくそ笑んだ。とは言え、時間を考えたら急がないといけないかもしれない。
「よっし! それなら十分行けるぞ! みんなも協力してくれるかい?」
「それは構わないけど、一体何をするつもりなんだヒール?」
「それは見てのお楽しみさ。さぁ! そうと決まれば急いでアレをもって川までいくぞ!」
俺は直ぐ様村長に案内してもらい、そして必要なものを一通り揃えてからソード、アロー、マリエル、そして村長も一緒に来てくれることになった。今の村長は逞しいから心強いね。
「うわ! これは確かに川がやべぇ!」
「もう、溢れる寸前だよこれ……」
「正直これ、私達も不味くない?」
「確かにもう溢れるのも時間の問題ですな」
「クー!」
更に雨が激しくなる中、川も水かさが増し、とんでもない勢いで流れ続けていた。
確かにこれを見る限り、このまま氾濫したら俺達もろとも村まで一気に水が押し寄せる事となるだろう。
だけど――それもここまでだ!
「大丈夫だ! 俺に任せろ、さぁみんなそれを先ず川に放り込むんだ!」
「え? これを? 本気かヒール!」
「こんなものでなんとかなるものなの?」
「ちょっと意味がわからないわね……」
「しかし、もうヒール様に頼るしか手はない! やるしかないであろう!」
「クー!」
そして全員がどこか怪訝な様子ではあるものの、リアカーに積んできた大量のそれを協力して川に放り込んでいった。
「ちょ! やっぱヒールこれじゃあ何も変わらないぜ?」
しかし、それだけじゃあやはり川の流れに変化はおきなかった。
まあ、確かに沢山と言ってもこれだけじゃあ精々五千個程度のジャガイモだ。すぐにどうにか出来るものじゃない。
だけど――
「大丈夫! 俺にはこれがある!」
そして俺は、村長から預かっていた白い布袋を取り出した。
そしてその中からむんずと掴み、種を川に向けて投げつけていった。
「ヒール、それはジャガイモの種じゃないか?」
「そんなもの川にばらまいてどうするというの?」
「こうするのさ! 回復魔法!」
俺はジャガイモの種に向けて回復魔法を施した。すると当然だが通常なら何ヶ月も掛かるであろう発芽ががすぐに始まり、更に種から根が伸び、ニョキニョキとジャガイモを生やしていく。
通常一つの種からジャガイモの実が十個はなるからな! この袋の中には種が一万は入っている。つまりばらまいた種を回復魔法で回復することで、一瞬にして川に十万個のジャガイモが出現し、壁を作ったのだ!
「おお! これは!」
「み、水が、川の水が引いていってる!」
「どういうこと? まさかジャガイモの壁が水を塞いでいるの?」
「いや、でも水はただ塞がってるだけじゃなくて、減っていってるわよ? これっていったい?」
「吸水さ――」
俺は不思議そうな顔で、氾濫仕掛けていた川が収束していく様子を眺めている四人とクーに向けて説明してやる。そう、そしてこれこそが俺の秘策!
「ジャガイモというのはもともと水をよく吸う野菜でね。勿論だからってそれをちょっとばらまいたぐらいじゃどうしようもないけど――」
「そ、そうか! つまりヒール様は川に大量のジャガイモを生み出し! それで壁を造ることでただ川をせき止めるだけではなく、同時に水を吸い上げてしまう壁をつくってしまったということですな!」
そういうことさ。流石村長冴えてる! まあこれもポインがジャガイモのことを口にしたから思いついたんだけどね。ジャガイモの吸水性が高いことは常識中の常識だが、流石にこっちの世界では知られてなかったようだ。
さぁそんなわけで、これでとりあえず氾濫の問題は解決した。だけどまだまだ俺の仕掛けはこれからだぜ! 種の袋はまだ一つあるからな、これでジャガイモロードを作ってジャガ村を真に名前の通りにしてみせるぜ!




