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第三十五話 回復魔導士ととある商人

 ジャガ村寄生蟲混入殺害未遂事件は俺の推理で犯人が上げられ、見事解決となった。


 その後、ドックに動機を訊いてみたけど、一つはやはりというか予想通りというか教会絡み。

 どうやら本人はこれも村のため! と本気で思っていたらしいね。


 だから最初から死者を出す気はなかったようで、だからこそ子供には予め魔病蟲の被害がでないよう薬をキャンディーに仕込んでなめさせていたようだ。


 彼なりの最後の善意だったのだろう。ただ、実は一つこの話には裏があった。実は彼の一番の動機は教会ではなく、ジェイカプママだったのだ。


 それは何か? というとどうもドックはあのお母さんに好意をもっていたらしく以前に一度一緒になって欲しいと告白までしていたのだ。


 全く身の程知らずもいいところで、ボックが嫌っていたのもあの男がずっとお母さんに付きまとっていたからだしい。


 だけどそんなドックも見事玉砕、正確に言えば、

『ごめんなさい、生理的に無理なんです』

と断られてしまったようだ。


 このことが随分とショックだったらしく、そしてそんな最中教会堂の話が持ち上がり、でも父親である村長は首を縦に振らない。


 そこへ教会堂を建てるために選ばれた商会の大頭が彼に話を持ちかけたようだ。

 ドックはそれを受け、俺を振った彼女にちょっとばかし苦しい思いをしてもらい、その上で教会堂を建てることを父親に認めさせその見返りに薬を譲り受け村を救う、というのが彼の筋書きにあったようだ。


 上手く行けば自分を振ったジェイカプママも見直して今度は告白を受け入れてくれるかもしれないという打算的な思惑もあったようだね。


 まあそんなわけで、結局ドックは父親である村長の爆裂拳骨→超裂波空刃乱舞→無限閃烈脚のコンボをお仕置きとして百セット喰らい、ボロボロにされた後村の牢屋に放り込まれた。


 自分の息子を牢屋にいれるなんて、きっと村長も辛いだろうな、と思った時期が俺にもありました。


 実際は久しぶりに遠慮なく技を試せるとノリノリだったけどね。何せ回復魔法があるから間違って殺してしまっても蘇生出来るしね。


 さて、そんなわけで見事犯人へのお仕置きも終わったところで――


「……まさか、あれを治せるものがいたなんてな――」


 はい! 今目の前で悔しそうに唇を噛んでる人物。こいつこそが教会の回し者で、村に教会堂を造る仕事を請け負った商会の大頭、アクラツ商会のボッタクリ・アクラツなのである。


「そういうことだアクラツよ。お主の行いは既に知れておる。息子を誑かし病で村人を弱らせたあと話を持ちかけ教会堂を建てようと考えていたのだろうがそれも水泡に帰っしたな。むしろ教会堂を建てない意志が殊更固まったぞ!」


 ビシっと指を突きつけて村長が言った。若返ったせいか一つ一つの動きに迫力があるな~。


「ふん、馬鹿なことを。そんなものは我々は知らん。貴様のバカ息子が罪を逃れるために嘯いているだけのことだろう」

「なんだと貴様!」

「なんだ? 暴力ですか~? 村長が善良な商人に暴力を振るうんですか~?」


 このデブ、ムカつくな。村長が胸ぐら掴んだところで益々開き直る一方だ。


「とにかくだ! 病が治ったところで教会に楯突いてやっていけると思ったら大間違いだ! 第一今後収入はどうする気だ?」

「そ、それは、村の病は全てなくなったのだ。またこれまでどおりジャガイモや豚を育てて……」

「ジャガイモ? 豚? が~はっは! 全く面白いことを言う!」


 アクラツが大口開けて笑いだした。ちなみにこの村ジャガの村が正式名称なんだけど、ジャガイモを育てるのがメインの収入に繋がってるからそんな名前のようだ。


 あとは豚を家畜としてね、ただ割合的にはじゃがいも八割の豚二割ってとこみたいだけど。


「全くおめでたい頭だな! こんな村で採れたじゃがいもや、育てた豚を商人が買うと思うか? 既に奇病のことは町にも知れておる! お前らのつくるじゃがいもは悪魔の芋、豚は不浄の豚として知れ渡っているのさ! そんなもの誰も買うわけがないだろ!」

「ぐっ!」


 村長が悔しそうに唇を噛んで拳を握った。どうやら病の影響で良くない噂が広まり買い手がつかなくなってるようだな。


「ところでお前」

「うん? 俺?」


 なんか急にアクラツの矛先が俺に向けられたな。一応回復魔法のことは伏せているんだけど。


「その肩に乗っているのカーバンクルであろう? どうだ? この私に譲らんか? な~に悪いようにはせんよ。報酬は十分にぎゃああああぁあああああ、腕がぁあぁああぁあ!」

「やなこったよ。ば~か」

「クー! クー!」


 全くクーを売れだなんてとんでもないことをいいやがるな。久しぶりの出番なのにこんな奴に目をつけられるなんてな、腕を失っても仕方ないっての。勿論回復魔法なんてかけやらないぜ。せめてもの報いってやつだ。


「き、貴様ら、覚えていろよ!」


 結局そんな捨て台詞を吐いて手下と一緒にアクラツは村を去っていった。全く胸糞悪い連中だな。


「済まないなヒール。だが胸がすーっとしたぞ」

「ああ! やったなヒール! あの面ったらないぜ!」

「本当だね。腕を失って正直溜飲が下がる思いだったよ!」

「大体こんな可愛らしいクーちゃんをどうにかしようなんていうのが間違っているのよね~」

「クー♪ クー♪」


 村のみんなもやんややんやと俺を持て囃してくれた。ま、いけすかないやつだったしな。


「でも村長、そのジャガイモとか豚の件は大丈夫なのか?」

「うむ、正直いうとジャガイモも売り上げが激減し倉庫の肥やしになってる状態だが、それはわしらで今後考えていかねばいかんこと。な~に、病だってこの通りなくなったのだ。人間死ぬ気になればなんとかなるものさ」


 逞しいな。今の村長なら確かになんとかできそうな気もするけどな。本当は回復魔法でなんとか出来ればいいのだろうけどこればっかりはな。


「それよりもだ、皆さんはこの村の救世主! 今夜は盛大にもてなさせていただきますぞ! おいみんな料理と酒の準備だ! 村を挙げての宴を行うぞ!」

「「「「「お~~~~~~~~!」」」」」


 ありゃ、これはまた大事になったものだね。これじゃあ流石にもう帰りますとも言えなくなった。まあ、あの三人も特に予定はなかったみたいだし折角だからご相伴に預かりますかね。


「ヒール様、私も腕によりをかけて料理させて頂きますね!」


 するとジェイカプママが俺の腕に抱きつきながらそんなことを言ってきた。む、胸が、凄い感触が、たまらんなこれ……。


「あ~! お前またスケベなこと考えてるだろ!」

「そ、そんなこと、アリマセンヨ」

「もう! ボックいい加減になさい。それより貴方も手伝い手伝い」

「そうだよお兄ちゃん。私達も準備手伝おう?」

「ちぇつ、判ったよ」


 と、いうわけでボックも不機嫌ながらも俺達をもてなす準備に入ってくれた。


 俺達は俺達で何か手伝おうと思ったけど、客人に手伝わせるわけにもいかないということで結局大人しく待つことにした。


「ま、でもごちそうにありつけそうで良かったよな」

「ク~♪」


 クーも嬉しそうだな。


 こうして準備は進み、日が暮れた頃には村の中心に用意されたテーブルに大量の料理が並び、キャンプファイアーのように火を炊いて村を挙げての中々盛大な宴が開演された。


 歌や踊りも披露してくれたり、ジェイカプママの胸が上下してたり、酒を注いでくれたり、谷間がばっちり拝めたり、美味しい料理をたらふく食べさせてもらったり、ポインの胸も堪能できたり、とすっかり楽しませて貰ったよ。


 あの三人もクーも満喫したようで飲めや歌えの大騒ぎ、そしてあっという間に時間は過ぎていき、気づいたら俺の瞼も重くなり徐々に意識が手放されていった――






◇◆◇


「全く! 腹の立つ連中だ! 大人しく私の言うとおりにすればいいというのに! あの男もドジを踏みやがって! 折角目をかけてやったと言うのに!」

「だが、あの男のおかげで中々面白い情報も得ることが出来たがな」

「面白い情報だと?」


 村からかなり離れた場所でヒールに腕を切られたアクラツと黒ローブに身を包まれた男が話しをしていた。アクラツは顔を憎々しげに歪め悔しそうに声を上げていたが、そんな彼に向けて発した黒ローブの言葉に即座に彼が反応した。


「ああ、どうやらお前の腕を切ったヒールという男は回復魔法が使えるそうだ。これは中々有力な情報だぞ」

「回復魔法? はん! 何を馬鹿な。どうせそんなものはトリックだろ。信じるだけ無駄だぞ」

「……お前がそういうならこれ以上何も言わないさ」

「ふん、それよりもだ。もしもの時のために考えておいたあの計画を実行してくれ」

「……いいのか? そんなことをすればあの村は壊滅するぞ」

「かまいやしない。それに一度洗い流されれば奴らも諦めがつくだろうさ。こっちは教会堂が建てることが出来ればそれでいいんだ」

「……判った。ならば言われたとおりにしよう」


 そして黒ローブの男がアクラツの目の前から姿を消した。そして一人残った彼はニヤリと不敵に口角を吊り上げるのだった――

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