第三十四話 回復魔導士探偵ヒール
今回ちょっと長めです。
こんな難事件何年ぶりだろうか。かつて学校で起きた給食費盗難事件に遭遇した時は、俺が推理した結果容疑者五人が浮上し、その内僅か四人の犠牲者が出ただけで事なきを得たが、そんな俺の頭でもこれは難しい。
犯人は間違いなくあの人だろう。それは間違いない。だけど、完璧なアリバイが出来てしまった。このアリバイを崩さない限り俺に勝機はない。
「やれやれ、どうやらこれで俺の疑いは晴れたようだな」
「ま、待てよ! あんた意外に怪しい者がいないんだ。だったら!」
ソードが容疑者を引き止めてくれる。確かにこの状況では黒はこの男しか無い。だが、肝心の証拠がないのではどうしようも……。
「おいおい、お前らさっきから俺が怪しいと決めつけているようだけどな、一番怪しいのがすぐそばにいるだろう?」
一番怪しい?
「それは一体誰のことだ?」
俺はドックに聞き直した。もしかしたらそれ次第で解決の緒が見えてくるかもしれない。
「んなの決まってんだろ。あんだだよヒール。この中で一番怪しいのはな」
「……はい?」
思わず笑みがひくついたぞ! 何だよそれ! なんで俺だよ!
「ちょっと待てよ! なんでそこでヒールが犯人って話になってるんだ! 第一ヒールはこの村に蔓延る病をわざわざ治して回ったんだぞ!」
「そうだぞドック。いくらなんでも村の救世主にそのような言い方はない! また殴られたいのか?」
「そうだ! 兄ちゃんはスケベだけど、母ちゃんを治してくれたのは事実だからな!」
「そうです! お兄ちゃんが犯人なんて酷いのです!」
「ヒール様のおかげで私もこのプロポーションを取り戻すことが出来ました。そんな御方を犯人呼ばわりするだなんて……」
「みんな……」
他にも俺が助けてやった村人達が擁護の声を上げてくれている。当然だ、第一俺が犯人だなんて本当に何を言い出すんだが。そんなこと言ったら余計怪しまれるだけだろ。
「おいおい、お前たちは本当にお人好しだな。いいか? 大体からしておかしいと思わないのか? この村に病気が蔓延しほぼ全員が倒れた後にまるで図ったかのようにこの連中が現れて全員の病気を治す――まるで奇跡のような話だぜ。逆に言えば話がうますぎるんだよ!」
ドックが吠えた。すると再び村中がザワ、ザワ、しだす。
「い、いい加減にしろよな! 大体兄ちゃんは村のみんなを回復魔法とかいう凄い魔法で治してくれたんだ! こんなの兄ちゃんにしか出来ないことなんだぞ!」
「あ、馬鹿!」
なんで言っちゃうかな~黙っててほしいって言ったのに。参っちゃたな~まあこのドックって容疑者以外みんな知ってるけど。
「ヒール様、済まぬ、子供たちにもしっかりいいつけておくべきだった」
「いや、俺の監督不行き届きです。村長が謝ることじゃありませんよ」
それに、どっちにしろ疑いが掛けられるぐらいならまだバレた方が――
「はっ! 遂に馬脚を露わしやがったな。今ので確実にお前たちが犯人だと知れたぜ」
「は? 何を言っているんだ?」
「それって僕達もってこと?」
「き、聞き捨てなりません!」
ソード、アロー、マリエルも眉を顰めて抗議の声を上げた。まさか逆に犯罪者扱いされるとは彼らも思っていなかったんだろな。
「ドック、さっきから言っている意味が判りませんよ。どうして回復魔法が使えたらヒール様が犯人という話になるのですか?」
するとジェイカプママが俺達を擁護するために声を上げてくれた。そんな僅かな動作でも揺れるふたつの果実が素晴らしい。
「おいおい、そんなの決まってるだろ? いいか? この世界には回復魔法が存在しない。そんなことは誰でも知っている常識だ。教会だってそんなものは使えないんだからな」
「でも、ヒール兄ちゃんはそれができたんだよ!」
「だから、それが決め手だってことさ。大体さっきもいったが病が蔓延した後に回復魔法なんてものを使える奴がやってくるってのがおかしい。だけどな、もしこれがこいつらの自作自演だとしたらどうよ?」
「「「「「じ、自作自演!?」」」」」
村の連中が驚嘆した。おいおい、何か雲行きが怪しいぞ――
「そうだ、ようはこういうことさ。こいつらはまず村の連中に見つからないよう村に忍び込む。魔法には透明になれるようなのもあるというからそれぐらい余裕だろ。そして村に卵を仕込んで回ったのさ。そしてある程度村に病が浸透した頃を見計らって、素知らぬ顔でやってきて村人を魔法で治したように見せたわけだ。まあ実際はその魔病蟲を治療するための薬を使ったんだろうけどな」
「馬鹿言うな! 大体俺達がなんでわざわざそんなことをする必要がある!」
「そんなのは決まってるだろ。魔導士の名声を上げて少しでも依頼を増やそうとしたってとこだろ。回復魔法なんてものを考えたのもそのためだろう。それが公になれば魔導ギルドに人が殺到する、そうすればギルドもボロ儲けだ」
「待てドック、この者たちは回復魔法に関しては口外しないで欲しいと言っていたのだぞ。それなのに――」
「おいおい親父、耄碌したのか? そうはいってもこいつらは村の連中全員には回復魔法だって伝えていたんだろ? いくら口外するなといっても人の口に戸は立てられぬってな。最初からこいつら何れ噂を広めてくれると期待してそんなことを言っていたんだよ」
「い、いい加減にしてくれない? 大体そんな手の込んだ真似をしなくても魔導ギルドは仕事にこまってなんていない」
「そうよ! それにそもそもこの村に来たのだってボックとポインちゃんにたまたま聞いたからよ。全くの偶然だわ!」
「それはお前たちの言い分だろ。このふたりは利用されたのさ。お前たちはたまたま村の件で困っていたふたりに出会い、村の話を聞き、そしてお前らはしめしめと思ったことだろうよ。本当は別にふたりに出会ってなくても村に来るつもりだったんだろうが、このふたりのおかげで偶然を装えたわけだしな」
「……そう言われてみると」
「ドックの言っていることのほうが尤もらしいよな――」
や、やばいな。ドックの言い分の方を信じ始めてるのも出てきたぞ。
「それと仕事の件だが、これも嘘だな。俺は知ってるぜ、お前らの所属するギルドは教会と折り合いが悪いんだろ? 教会へのお布施もだいぶ渋っていたそうじゃねぇか。おかげで教会も出来るだけ依頼にはハンターギルドを利用するように伝えてるって話だしな。何せハンターギルドは魔導ギルドと違って信心深いからしっかりお布施も支払ってるらしいからな。つまりお前らはここでなんとしても信用を得る必要があった。もっと言えば教会を出し抜きたいという考えもあったはずだ! その結果この自作自演を思いついたってわけよ!」
今度はビシリとドックが俺達を指差してきた。
これは、不味い! 色々荒いしこじつけが過ぎる気もするけど筋は通っているように思える!
「……ちっ、なんだよ回復魔法なんていうから感謝したのによ」
「まさかそんな詐欺まがいのことをしていたなんて」
「どうりで話がうますぎると思ったぜ」
「いや、お前らちょっとまてよ。ドックの言っている事が正しいとは限らないだろ?」
「だったらお前、ドックがどうやって卵を仕込んだっていうんだよ? あいつには完璧なアリバイがあるんだぞ?」
「そ、それは……」
「でもそれは彼らだって一緒じゃないの?」
「馬鹿、あいつらは魔導士だぞ? 魔法でどうとでもなるだろが」
「その寄生蟲だってきっと魔導ギルドってところで作ったんだよ」
「全くふてぇ連中だ!」
「公開処刑だ! ギロチンに掛けてしまえ!」
周囲が喧々諤々としてきた。俺達をまだ信用してくれている人もいるにはいるが、ドック派の方が確実に増えてきている。
これはまずいな! このままじゃマジで俺達が犯人にされかねない。くそ! 何か起死回生の何か、そう証拠品があれば!
「僕もドックおにいちゃんが犯人だなんておもわないよ~だっておにいちゃん僕達に色の綺麗なキャンディーをくれたんだよ~そんなやさしいおにいちゃんがそんなことするわけないよ~」
「へ? あ、あぁそうだな……」
……うん? なんだあの表情。明らかに動揺していたような……キャンディー?
「ね、ねえお兄ちゃんは犯人じゃないよね? 本当に回復魔法だよね?」
「当然だろ。俺は嘘なんていわないさ。それより、さっきの子供がいってたキャンディーって、あの子供、僕達にくれたって言っていたけど、もしかして子供たちは全て貰ったのか?」
「え? あ、うん。僕も妹も貰ったよ。本当は貰いたくなかったけど、この村じゃ甘いものは貴重だから……」
「……それはいつごろのことだ?」
「う~ん、村長が倒れて二日ぐらいたってからかな。村のみんなでお見舞いにいったんだけど、その時に子供たちに配ってくれたんだ」
「……それは子供たちだけに配ったんだな?」
「うん、そうだよ。私もね、貰ったの。甘くて美味しかったよ~」
……なるほど、そういうことか! これでパズルのピースは全て揃ったぞ!
「皆さん落ち着いてください」
「黙れ詐欺師!」
「何が落ち着いてだこのクソ野郎が! ぎゃあああぁああああ!」
「ひっ! アームの腕が、こいつ! アームの腕を切りやがった」
「や、やっぱりこいつらが犯人だったのよ! いやぁああぁあ!」
「お、おいヒールお前何を!?」
「落ち着いてくださーーーー!」
俺は腹が張り裂けんばかりに叫んだ。するとシーンとあたりが静まり返る。ただ腕を切られたアームだけが苦悶の表情を見せているが、だけど俺はすぐにアームに近づき腕を断面にくっつけて回復魔法を施した。
「畜生いてぇ、い、あれ? 痛くない?」
「大丈夫ですよ。しっかり回復魔法をかけましたから」
「え? 回復魔法? でもそれは嘘じゃ……」
眼をパチクリさせるアームをよそに俺は立ち上がり、そして一先ず頭を下げる。
「お騒がせしました。これから俺の推理を聞いてもらうためにも一度落ち着いてもらう必要があったので。それと回復魔法が本当だと証明するためにアームの腕は一度切りました。ですが、これで回復魔法は本当だと信じてもらえたはずです」
俺がそういうと、全員が腕の治ったアームを見やり。
「た、確かに治ってるな」
「これは確かに回復魔法でしか出来ないんじゃないか?」
ふたたびざわめき出す。ただ、今度は俺にとって好印象を持ってる人が多いようだ。やっぱ回復魔法を改めて実演してよかったな。
「ふ、ふざけるな! トリックだ! こんなものはただのトリックに決まっている! そいつもそのヒールが仕込んだ仕掛け人だ!」
「馬鹿いってんじゃねぇ! こちとらめちゃめちゃ痛かったんだぞ! あれがトリックなわけあるかボケェ!」
当の本人であるアームが怒鳴り散らした。よく見たら涙まで浮かんでるな。相当痛かったんだろうな~。
「べつにあんたにどう思われても構いやしないよ。それに回復魔法を掛けたのはあくまで回復魔法が事実だということを知ってもらうためのもので本題じゃない。重要なのはここからさ。今回の犯人が仕掛けたトリック、俺がズバリ解明してやるよ」
「は? 解明? 馬鹿言うなよ。何を白々しい。この蟲はお前らが仕込んだものだろうが!」
「それはない。この寄生蟲は間違いなくこの村で仕込まれたものだ」
「はん! 何度も言わせるなよ! 村長の俺の親父が倒れてから井戸には鍵がかかっていた。それから村の連中が病に倒れるまで四日も空きがある、だけど子供たちは無事だ。井戸には俺だって卵を仕込めなかった。俺はずっと親父の看病に明け暮れていたからな。俺の親父と村の連中の発症にずれがある以上、一体誰がどうやって病気を蔓延させたっていうんだよ!」
「キャンディーですよ」
「……何?」
「だからトリックはキャンディーにあり、ですよねドック」
俺がそこまでいうと、明らかにドックの顔に動揺が見られ脂汗もダラダラと流し始める。
「お、おいキャンディーってさっき子供たちが貰っていたもののことか?」
「ああそうだよ」
ソードが聞いてきたので俺が答えた。だが、ソードは怪訝な表情をみせ俺に更に訊いてくる。
「おいおい、でも子供たちは魔病蟲の被害にあってないんだぞ? それなのに――」
「そうだ! 子供は蟲の被害にあってないんだ! それなのに関係があるわけない!」
「逆だよ。それはね、考え方を逆にすればいいのさ。ようは子供たちが蟲の被害にあってないではなく、子供たちは蟲の被害にあわなかったと考えれば説明がつく」
うぐぅ! とドックが喉を詰まらせた。こいつにとっては真綿で首を絞められているような感覚だろうな。
「ヒールそれは一体?」
「正直私達の頭では理解できてないわ。でも貴方には既に犯人は見えているのよね?」
「当然さ。だけど先ずキャンディーの説明をしようか。彼が何故キャンディーを子供たちだけに舐めさせたか、それはキャンディーを舐めた結果子供たちは寄生蟲の被害にあわなかったと考えれば説明がつく」
「……そうか、そういうことだったのか!」
すると、村長が目を見開き何かを閃いたかのように頷いてみせる。
「流石村長、気がついたようですね。そう、犯人は子供たちのキャンディーに蟲下しようの薬を仕込んでいたのさ。だからこそ子供たちは被害にあわなかったんだ」
「「「「「な、なんだってぇええっぇええええ!」」」」」
声を揃えたように村人たちが叫んだ。それぐらいの衝撃だったようだな。
「そうか、そういうことだったのか。つまり村の子供たちが魔病蟲にあわなかったのは薬のおかげ……ん、ということは?」
「ちょっと待って、確か子供たちは井戸の水は飲んでいないはずだよね?」
「そうよ、そして子供たちも飲んでいたのは、あ!」
三人もようやく察したようだな。そう、俺達は最初から蟲の原因は井戸にあると思い込まされていた。だが実際は――
「そう、この事件、魔病蟲が仕込まれていたのは井戸だけじゃない。村人の家に当たり前に置かれている瓶にもだ」
「ちょっと待て! お前忘れたのか! いいか、村の連中は病に倒れるまでの期間に開きがあるんだ! それなのに瓶だと? 辻褄があわないぜ!」
「だからこそ、村長が倒れてから子供たちにキャンディーを渡したのが二日後だったのですよね?」
「な、なに?」
周囲が、ザワ、ザワ、しだしたな。正直全く理解できないといった様子だが実は判ってしまえばこれは――
「簡単なトリックなんですよこれは。俺達が犯人に思い込まされていたことはもう一つあったのさ。そう蟲の卵はあたかも村長が倒れた後に仕込まれたかのようにね!」
「ちょ、ちょっと待てヒール! つまりだ、それでいくと卵が仕込まれたのは……?」
「そう、村長が倒れる前の話さ。しかも卵は先ず井戸ではなくそれぞれの家の瓶に仕込まれていた」
「え? でもそれだと先ず村の人が倒れるんじゃ?」
「そう、普通にやればね。だからこそ犯人はキャンディーのトリックを実行したのさ」
「キャンディーって、だから子供たちのでしょ?」
「それはトリックの一つでしか無いんだよマリエル。そう、実際に犯人が用意したキャンディーは三つ。その内の一つは子供たちが蟲に寄生されないためのもの、そしてもう一つは時限式で瓶に卵を仕込むためのものさ」
「じ、時限式だって!?」
「そう。みんなも知っての通り、キャンディーを水の中に沈めておけば、水温で少しずつキャンディーは解けていく。これで上手く時期を計算して犯人は村人の瓶に卵入りのキャンディーを仕込んだってわけだ」
俺が底までのべると、周囲が、しーん、と静まり返った。この完璧な推理に聞き入ってるようだな。
「……ふふ、は~っはっは! 馬鹿いってるぜこいつは。大体キャンディーなんて瓶に入っていたら誰でも気がつくだろ」
「だからこそ、瓶にいれたキャンディーは透明なものを、子供たちにあげたのにはキャンディーは色付きだと信じ込ませるために鮮やかなものを渡したんですよ犯人はね」
「ぬぐぉおぉおおお!」
ドックがよろめいた、きいてるきいてる。
「でもヒール、そんなものを仕込んで間違って水を汲む時にキャンディーを掬ってしまったら不味いんじゃないか?」
「そ、そうだ! その可能性だって!」
「いや、それはないよ。瓶にキャンディーを入れれば当然一番底に沈むことになる。だけど水を汲む時にわざわざ底から汲む者はいない。だから卵だけが先に掬われる可能性は先ずないのさ」
俺がそう述べると全員が得心がいったように頷いてくれた。こういうのは意外と盲点なんだよな。
「……ふ、ふん! 随分と自信満々のようだがな探偵さんよ。だったら全員の瓶を調べてみればいい。そこに本当に寄生蟲がいるかどうか」
「いないだろうね」
「は? なんだと? オマエ馬鹿か! 今てめえが瓶に蟲がしこまれてると!」
「仕込まれていただ。正確には過去形だな。そしてそれこそが三つ目のキャンディーの正体。そう、犯人はもうひとつ時限式の蟲下しの薬が入ったキャンディーを瓶に仕込んだのさ。勿論こっちは全員が病に掛かった頃に瓶の水に発生した魔病蟲を駆除するよう調整したものをね」
「「「「「な、なんだってーーーー!」」」」」
再び村中から驚きの声が響く。
「衝撃の事実だな。だが、なんでそんなことを?」
「それは簡単な話だ。犯人に疑いの目が向けられないためさ。もし瓶に寄生蟲がいることが判れば、当然一番怪しまれるのは犯人さ。何せ自分だけ病に掛かっていないし、それなら後から上手いことやって仕込んだんじゃないかと思われる可能性がある。しかし瓶が無事に見えていれば村の目は欺ける」
「で、でもそうなると」
「犯人はやっぱり――」
「そう、このトリックを実行させるには事前に瓶に卵を仕込んでも怪しまれない人物。当然それは村の人間に限定される。それでいて村を徘徊しても怪しまれないとなるとある程度の立場の人間である必要もある。そして一番重要なのはキャンディーを持っていたという事実、ここから導き出される答えは一つしか無い、そう、犯人は――貴方だ!」
俺がビシリとドックを指差してみせた。ポーズもバッチリ! 決まったぜ!
「……ふふ、ははっ、あ~っはっはっはっは!」
うん? なんだ突然笑いだして、開き直ったか?
「なるほどな。確かにそれだけ聞く分には俺が犯人としか思えないな。だがな! お前の言っていることは全てお前の空想でしかねぇ! お前の言っている事が本当だとして、俺がやったという証拠でもあるのかよ! 証拠がなきゃ、そんな推理いくら披露したって無意味だぜ!」
「た、確かに……」
「どうなんだヒール?」
「勿論証拠はあるさ。ポインちゃん頼んでおいたものを」
「は~い」
俺がそう言うと、事前に頼んでおいた水入りの瓶を抱えてポインちゃんがやってきた。
そして俺の目の前に水瓶をドスン! と置く。
「なんだこりゃ? 水入りの瓶じゃねぇか。これが一体何の証拠になるってんだ! 大体てめぇがさっきここに寄生蟲はいないといったばかりだろ!」
「必要なのは蟲なんかじゃないさ。忘れたのか? 俺は回復魔法が使えるんだぞ? つまり――」
俺はそこまでいって回復魔法を瓶に向けて行使した。そして瓶に腕を突っ込み、その中から二つの透明な玉を取り出してみせる。
「ば、馬鹿なそれは!」
「そう、これは犯人、つまり貴方が瓶に仕込んだキャンディーだ。回復魔法で再生させてもらったよ」
「くっ! キャンディーを再生だって? だ、だがそれがなんだっていうんだ! それを俺が仕込んだって証拠は――」
「さて、ここで一つ問題です。このキャンディーには一体誰の指紋が残っているでしょうか?」
「し、指紋? あ、ああぁああぁあああ!」
ドックが愕然と立ち尽くす。そう流石のこいつも気がついたようだな。
「当然だけど、このキャンディーには先ず今俺が手に取った新しい指紋がついている。だけど、もし本当にこのキャンディーを村の誰もが知らないなら、村人の指紋なんて何一つ付いてないはずだろ?」
「くっ、だ、だけど指紋なんてどうやって調べるつもりだ! そんなものこの村に――」
「そ、それなら大丈夫です! 私、たまたま今日、指紋採取用キット持ってましたので」
ナイスだマリエル! 実際それだけどうしようかと思っていたけど、それがあればすぐに指紋が採取できる! マリエルの持っていた物は結構本格的で、怪しい粉や耳かきの後ろのついてるような毛のボンボンのしっかり入っていた。
俺は早速これでキャンディーに残っていた指紋を採取した。すると――
「指紋は二種類残ってますね。さて、それではドック、貴方の指紋を――」
「ちっ、ちっくしょーーーーー!」
するとドックもいよいよ観念したのか、その場で膝を折り、慟哭した。そして、そうだ俺がやったんだ! 俺がこれをやったんだよ~~~~! と天に向けて吠え上げた。
それはまるで全人の谷から突き落とされた子獅子のように、弱々しく情けない響きだった――
真実はいつだって一個なのです。




