第二十九話 回復魔法と兄妹と兄弟
ドン・コボルトを倒した後、なんであれだけの大爆発が起きたのかは簡単に説明したけど、酸素は判ってたようだけど一酸化炭素についてまではよく理解出来なかったみたいだ。
まあとりあえず俺が回復魔法使って大爆発起こしたってことで納得してもらったけど。
「ほら! お兄ちゃん! ちゃんと謝って!」
「う、うぅ、ヒールさ、ん、さっきは失礼な事をいってごめんなさい。それと助けてくれてありがとうございました」
そして驚いたことにあのくそが、いや、ボックが今度はちゃんと俺の名前を呼んだ上で頭を下げてきた。
なんだ? 一体どんな心境の変化だ?
「ヒール、この子がかなり失礼なことを言っちゃったらしいけど許してやってくれないか? どうも君のこと誤解してたというか、ずっとハンターだと思っていたらしいんだ」
「へ? ハンターに?」
「う、うん……だって魔導士ぽくなかったし」
なんでだよ! 白衣着てナイフ持って戦う俺のどこが、どこが、いや、魔導士ぽくないのかやっぱり?
「でもなんでハンター相手だと思ったからってあそこまでなんというか、まあ、失礼な事を?」
「クー! クー!」
もうはっきりといった。助けてもらってあれは流石にないからな。クーも思い出したように抗議の声を上げてるよ。
「……村のことでハンターに依頼をしたことがあるんだ。でも、貧乏な村の依頼なんて請けられるか! て、その後凄いボロボロに言われて、しかも妹にも手を出されそうになって――」
ボックがそこまで口にすると妹のポインが肩を震えさせた。
そんなバカな、といいたいところだけどあのハンター達ならやりそうなことだな。
「本当あいつらはどうしようもないな。最近特に酷いぜ。おかげで魔導ギルドまで似たような連中の集まりって思ってるのも出てきてるぐらいだ」
なるほどな。どうやらハンターを嫌ってるのはエクスだけってわけでもなかったんだな。
「ところで、そもそもふたりはハンターギルドに何の依頼しにいったんだ?」
「そ、それは……」
そこまで言ってボックが口籠った。何だ? 言いにくいことか?
「お兄ちゃん、このお兄さんに相談しようよ! 私達を助けてくれたんだしきっと力になってくれるよ!」
ポインが兄を説得し始めたな。それにしてもこの子七歳にしてはしっかりしてる。おっぱいだけじゃなくて精神的にも大人って感じか。
「……でも、何かこの兄ちゃんスケベそうだし……」
「げふっ! いや、いやいやいや! そんなことはない! ないぞ!」
何かじーっと疑わしい目で見てくるけど、あれだ、おっぱいは仕方ないだろ! 見ないほうがおかしい!
「えっちなお兄ちゃんでも助けてくれるならいいよ~話を、聞いてくれますか?」
……あれ? コテンっと首を傾けて、なんか気のせいか胸を強調してるような――いやいや、こんな小さな子が色仕掛けでくるなんてまさかね。
「ここまで来たら、は、話は聞くよ。うん」
「俺達も聞いてみようぜ」
「ま、どうせ狩り以外やることもなかったしね」
「魔導士たるもの、子供には優しくしないとね」
魔導士だから子供に優しくってのもよくわからないけどな。
「あの、実は村の皆が突然動けなくなって……それで、私のママも、ぐすん――」
「お、おい泣くなって! それを何とかするためにわざわざここまで来たんだろ!」
ポインが涙声になって訴えてきた。やっぱりこの辺りは子供って感じだけど、でもそれは気になる話だな。
「動けなくなったって何か原因があるの?」
「それが、よくわからないんだけど村長の話だときびょうだって、それで薬が必要らしいんだけどその薬が手にはいらないって……」
薬が手に入らないか……それはまた妙な話だな。それだけ変わった病気ってことか?
「それじゃあ、君たちがハンターギルドにお願いしたのってもしかして?」
「うん、薬の材料を集めて薬を作って欲しいって。でも全然取り合ってくれなくて……しかも話を聞いてやったんだから妹は預かるとか言い出して……なんとか逃げたんだけど――」
子供が依頼にきても報酬の面とかあるから請けてくれないっていうのも判らなくはないけど、その後が酷いな。なんだ話を聞いたら妹を奪うって。
「でも、そうなるともしかして君たち、ハンターに断られたから自分たちで薬の材料を手に入れようと思ったとか?」
するとアローが腰を落としてふたりに聞いた。最初は目を逸らしていたふたりだけど、
「怒らないから、ね、正直にいってみな?」
とアローがいい笑顔で口にしたことでコクンっと頷いた。
「そっか……でもこの森は危険だし、それに薬の材料を勝手に採取するのは教会から禁止されてるからね。今度からはもう無茶しないようにね」
するとマリエルって少女が最後にふたりを窘めるように告げる。といっても事情が事情だからあまりキツイ口調ではないけどな。
そしてふたりは素直に、ごめんなさい、と謝っていた。何か最初のイメージとだいぶ違うな。よっぽどハンターが嫌だったんだ。俺ハンターじゃないけど。
「でも、その話しぶりだとふたりのお母さんもその奇病に?」
「……うん、ママが、ママが凄く苦しそうで――」
「だ、だから泣くなって」
なんか堰を切ったように妹がボロボロと泣き出した。それを今度はお兄ちゃんであるボックが頭を撫でて宥める。兄妹仲はよさそうだな。
「でも、なんとかしてあげたいよね」
「そうだね、病気を治せるような人がどこかにいればいいんだけど」
「そうだな。俺を助けてくれたような凄い魔導士がいればな」
三人がチラチラと俺を見ながら言ってきた。いや、もうそれお願いしてるも一緒だぜ? まあ、ここまで話を聞いて何もしないわけにはいかないか……。
「判ったよ。ふたりとも村まで案内してくれ。俺がなんとかしてみるよ」
「え!? お兄ちゃん薬持ってるの!?」
「う~ん、薬とはちょっと違うけど俺ならその奇病もなんとかなるかもしれない」
「ヒールの言っていることは本当だ。俺も危ないところを助けてもらったしな」
「彼の言うことは信用してもいいと思うよ」
「それに、折角だから私達も付き合ってあげる」
俺と三人の話を聞くと、本当!? とポインが泣き顔から一変、明るい顔で喜んだ。
この笑顔が見れたなら引き受けてよかったかな。
「それにしても……三人共上手くいってるんだな」
そして俺達は二人の案内をうけながら村に向かうことにしたんだけど、道すがらなんとなく気になってソードに尋ねてみた。
なにせ俺が回復した後、妙にギクシャクしてる感じだったしね。
「うん? ああ、あの時のことか。それなら大丈夫だぜ! 俺達はあの後しっかり話し合ってマリエルも受け入れてくれたからな!」
何かソードが自信に満ちた表情でそんな事を言ってるけど、何だそれ?
「受け入れたって?」
「うん、だからな。アローも俺も結局マリエルが好きだったわけだが」
「うん」
でもマリエルはソードが好きだったんだよな。あの時アローは勝手にソードに気持ちをバラされたわけだけど。
「それでマリエルは俺のことを好きだっていってくれたけど、だからってアローが嫌いってわけじゃないんだよ」
「まあ、仲間としては好きってことはあるだろうけどね」
「いや、ソード、その話はもう良くないかな?」
「そ、そうだよぉ……」
するとアローがちょっと戸惑った表情を見せてマリエルもなんか恥ずかしそうにしてるな。
「いやいや重要なことだろ。俺達の関係をはっきり知ってもらうのは悪いことじゃない」
「関係?」
「そうだ。俺達は今後も三人でパーティーを組んでいきたいと思っている。でもそれなのに俺だけがマリエルと結ばれるわけにはいかないだろ? だから俺が必死に説得して、受け入れてもらったんだ!」
……あれ? 何か話が妙な感じに進んでないか?
「それも全てヒールのおかげだよ。本当に感謝してる。俺とアローはこれまで親友って感じだけど今回のことをきっかけに兄弟になれた、そんな気がするんだ!」
ぐっと拳を固めて熱く語るソード。はあ、兄弟。兄弟ね、ほぉ。
なんとなくアローを見る、目を逸らした。マリエルを見る、目を伏せて顔が真っ赤だ。
うん、兄弟ってそっちかよ! 何この子純情そうにみえてとんでもなかったよ!
「お兄ちゃん達何の話をしてるんだ?」
「君たちにはまだ早い」
怪訝そうに首を傾げてたけど子供たちに聞かせる話じゃなかったからね!




