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第二十八話 回復魔法の本当の使い方

「に、兄ちゃん大丈夫かよ!」

「クー……」

「はわわ、はわわ――」


 ふと見ると、三人の魔導士の影に隠れる形で、ボックとポインが、そしてポインの腕の中では心配そうに俺を見つめるクーの姿があった。


 クーが俺以外に懐くなんて珍しいな。


「おい! 俺達が惹きつけるから、あんたはこの子達と逃げろ!」

「いや、というかそもそも俺がその子達を逃したんだけど――」


 とにかく、意識が一旦俺から外れた隙にドン・コボルトから逃れることに成功する。


 助かったは助かったけど、なんで俺が逃した子供やクーがここに?


「この子達が私たちに助けを求めてきたんです。話を聞いてもしかして、と思ったのですが……」

「途中で、この幻獣も見つけて確信したよ。それにしても君、無茶するね」


 事情は俺に魔法をかけてくれた青髪の少女と必死に弓を放ってくれているアローと言う少年が教えてくれた。

 

 なるほど、あいつが逃げる途中でこの三人と遭遇して連れてきてくれたわけか。クーはその途中で俺が遠くへ投げ飛ばしたのを見つけて拾ってくれたみたいだ。


 とは言え、事情は聞いたが状況はあまり変わってない気がする。

 ただ、ドン・コボルトが随分と鬱陶しそうにしているのは確かだ。狂乱状態だからか人数が増えたことで誰を攻撃対象にしていいか攻めあぐねている様子は感じられるな。

 

 そういう意味では彼らの助けはありがたいが――


「おい、何をぼさっとしてんだ! 早く逃げろよ!」


 すると俺を庇うようにソードという剣士がやってきて言った。剣士というか魔法を扱える剣士といったところか。相手のヤバさには気がついているのか安易に近づこうとはせずファイヤーボールを打ちまくっている。


 だけどドン・コボルトにはあまり効いていないようだ。レベルの差が大きすぎるのだろう。何せこのソードも含めて三人のレベルは7か8程度で俺とそう変わらず、しかも魔導力なら俺より遥かに下だ。


 アローも電撃の乗った矢を打ちまくっているけど正直焼け石に水だ。


「俺だけ逃げても仕方ない。というより多分ここで倒しておかないと逃げ切れないだろう」


 むしろ背を向けて逃げると各個撃破される可能性があって危険だ。そもそもこんな危険生物を放置しておくのも問題だろ。


「いや、でもこんな化け物、言っておくけど俺達だって勝てる自信なんてないぞ。足止めして逃げる時間を稼げればと思っているだけ――」

「!? 全員耳を塞げ!」


 ドン・コボルトが大口を開け、俺はヤバイと感じ取った。あの咆哮をしてくるつもりだろう。あれで俺は耳をやられた。


 俺が耳を塞ぐと一様に俺に従った。その直後大音量とともにとんでもない衝撃に襲われる。


 当然俺も含めた全員が後方に数メートルふっ飛ばされた。

 

「くそ、なんなんだよこれ!」

衝撃の息吹(インパクトブレス)だよ。耳を塞いでなかったら下手したら鼓膜をやられる」

「マジかよ、まるで空気が爆発したみたいじゃねぇか」


 全くだな。本当にこれは――うん?


「おい、今なんていった?」

「は? いや、だから空気が爆発したみたいだって――」


 それを耳にし、俺の頭のなかである現象が閃いた。これなら、そうだこれなら!


「あんたも、そしてそっちのアローもまだ魔法は使えるか?」

「え? あぁファイヤーボールならまだ七、八発はいけると思うが」

「僕も似たようなものかな」

「上等だ!」


 俺の頭が回転する。だけど残り魔力を考えると一回勝負がいいとこか。


「あ、あのコボルト、動き出します!」

「クー! 閃光だ! そして全員今すぐ目を瞑れ!」

 

 俺が指示すると、クー! と額の宝石が輝きを増し、そしてとてつもない発光で眩い光があたりに広がった。


「ガウゥウゥウゥウウゥウウ!」

 

 そしてコボルトの呻き声が耳に届き、なんだなんだという三人の声。ボックに関しては既に一度受けているので、またかー、なんてわりと呑気な事を言っている。


 とにかく――


「よし! 光が収まった! 後はソード! 目をやられて動きが鈍ってる間にあのドン・コボルトへファイヤーボールを連射しろ!」

「は? だからそんなのさっきから撃ってるけど全く――」

「いいから早く! 時間がない!」

「わ、判ったよ! こうなったらヤケだ!」


 ソードが俺の言ったとおりにファイヤーボールを目標目掛けて撃つ。

 それが数発、淀みなく直線し、見事コボルト命中――することなく当たる直前に魔法が掻き消えた。


「へ? お、おい、どうなって……」

「これでいい! 全部打ち切れ!」

「わ、わーったよ!」


 俺に言われた通りソードのファイヤーボールが全弾うち尽くされる。だけどそれは全て相手に命中することなく直前で掻き消えた。


 怪訝な顔を見せるソードだけど――これでいい! そしてその間に俺はドン・コボルトの周囲に大量の酸素を回復させ、分厚い酸素の壁で囲っておく。


 これで準備は整った! 後は!


「アロー! これで決まりだ! あの電撃を纏った矢を射て!」

「わ、判ったよ!」


 アローが矢を番え、ギリギリと引き絞る。力を込めて狙いを定めて、そしてその時になってようやくドン・コボルトの視力が回復したのか、唸り声をあげながら俺達に凶悪な目を向けてくる。


 だが――


「今だ! 射て!」

「スパークアローーーー!」


 アローの放った矢。たった一本の矢。それがまるで吸い込まれるようにコボルトに向けて突き進む。


 こんな矢一発で倒せるのか? と放った本人が一番不安そうであり――だけど、その矢がある一点を突き破ったその瞬間。


 とんでもない大爆発が起こり、ドン・コボルト後方の木々が薙ぎ倒され、衝撃が俺達の身体を駆け抜けた。恐らく体感温度は百度以上あがったかと思う。それほどの熱量が一気に噴出し、そしてドン・コボルトの身を焼き焦がした。


「グッ、グォオオォォオオォォオオオオ!」


 断末魔の悲鳴が俺の耳に届く。炎に包まれたコボルトの長はその灼熱の勢いに抗う術なく、そして遂に消し炭となってその場に崩れ落ちた。


 一応診断で確認するけど――HPは0、間違いなく死んでいるな。


「はぁ、お、終わったーーーーーー!」


 思わず声を張り上げガッツポーズそ取ってみせる。そんな俺の姿をポカーンとした顔で全員が見ていた。


「ぼ、僕のスパークアローが、こ、こんな爆発を?」


 ドン・コボルトの亡骸と、その後方に広がった惨状を見てワナワナと震えるアロー。まあ確かに地形が変わるぐらいの爆発だったしな。


「一応言っておくけど、今のはスパークアローの効果じゃなくてちょっとした現象を利用した結果だから、また射ったからって同じことが起きるわけじゃないよ」

「へ? 現象? 一体、何をしたんだよヒールは」

「まあ、簡単に言えばバックドラフト(後ろ爆破)現象を利用した形さ」

「へ? バ、バックドラ?」


 聞きなれない言葉だったのか目をパチクリさせる三人だ。

 まあ俺のいた世界じゃ火事のときによく起きた現象なんだけど、それを魔法で再現したわけだ。


 やり方は先ずあのファイヤーボールに秘密がある。ソードの放ったファイヤーボールはコボルトに命中せず消えたけど、あれは俺が回復魔法で極端に酸素を減らしたからだ。その結果ファイヤーボールは当たる直前で不完全燃焼を起こし、消滅した後に大量の一酸化炭素へと変化する。それをファイヤーボール八発分おこなったことで、あのドン・コボルトの周囲に充満させた。


 その上で回復魔法でコボルトと一酸化炭素を囲むように濃度の濃い酸素の壁を創り上げ、これで準備は完了。


 最後に必要なのは火種だったわけだけど、ソードにはファイヤーボールをうち尽くしてもらったから、代わりにアローの電撃の矢で代用させてもらった。放電は十分に火種になり得るからな。しかも狙ったのはコボルトというよりは充満した一酸化炭素だ。


 一酸化炭素は可燃性の物質だから酸素の壁を突き破った矢の放電を受けて引火、しかも矢が開けた穴によって壁になっていた酸素が一気に一酸化炭素に向けて流れ込む。


 その結果どうなるか――当然引火した炎に酸素が加わり、それがバックドラフト現象に繋がり大爆発を起こしたってわけだ。その熱量と威力はドン・コボルトの亡骸と森の惨状を見れば判ることだろう。


 この方法の一番の利点は、酸素の壁に矢で穴を開けたことで爆発に指向性が生まれたことだ。つまり衝撃はあくまでターゲットとなるコボルトに向けてのみ広がっていく。だから俺達には多少の余波は感じられるものの爆発に巻き込まれることはなかったというわけ。


 それにしてもこの作戦が敢行できたのも――彼らのおかげだな。俺一人じゃ思いつかなかったし炎や放電は回復魔法じゃ創り出せない。


 そう、俺は勘違いしていた。あまりに規格外の回復魔法だから一人で何でも出来るような気持ちになっていた。でもそれは間違いだったようだな。所詮回復魔法は回復魔法。メインは回復、そして回復魔法の本来の使い方は裏方だ。だからこそ仲間がいてこそ引き立つんだ。


 まぁそれが彼らとまでは言わないけど、今後は一人で無茶するのは考えものだろうな。本当、それに気づかせてくれて三人には感謝だな。


 ふう、何はともあれ――これで依頼は全て達成だなっと……。

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