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第二十七話 回復魔法と狂乱のコボルト

ステータス

名前:ドン・コボルト

性別:♂

レベル:25

HP:455/455

MP:0/0

腕力:198

体力:216

敏捷:158

魔導:0

物理スキル

衝撃の息吹(インパクトブレス)□肉体硬化□剛力□伸縮爪□爪刃□飛爪刃□自然治癒力向上□限界突破□痛覚排除


称号

□限界を超えた狂乱者


状態異常:絶対狂乱(メガバーサク)



 診断したら何か色々とヤバイ数値が出てきた。もうここまでくると魔法以外に優位にが立てるものがない。


 おまけに回復魔法で元の状態に戻せないかと試してみても駄目だった。装備固定と一緒で限界突破すると肉体的にも限界を超えた状態で定着するってことなのかもしれない。


 何せ見た目からしてこいつはこれまでと全然違う。先ず犬と同じような毛並みは全て抜け落ち、灼熱色の肌が顕になり、見た目には筋肉が剥きでた赤い犬って様相。


 体格も更に良くなり、筋骨隆々と言った風貌。その為か着ていた鎧は砕け散って武器だってもう手にしてはいないけど、そもそも武器関係の物理スキルが全て消えて、代わりに爪に関するスキルが増えてるからね。

 

 それにしてもこれは結構ピンチか? レベル差がヤバすぎるし、俺のMPもかなり減ってきている。血液逆流も通用しないし。


 ただ、鎧がないんだからナイフで少しでも傷をつければ大丈夫か。というかそれぐらいしか手がない気がする。消滅出来れば楽だけどこの残りMPじゃ到底無理だし。


 だから、ここは先手必勝! 過剰回復による脱力! そっからこのナイフで――


「グルォ!」


 ドン・コボルトに過剰回復して力が抜けた瞬間を狙おうと思ったが、魔法をかけて近づいた途端爪を伸ばして攻撃された! なんでだ、過剰回復が効いてないのか? MPは減ってるから発動していないわけじゃない。


 くそ、胸を貫かれるし、心臓からは外れていたけどこれでまた回復にMPを消費してしまった。


 でも、なんで過剰回復が? いやちょっと待てよ。そういえばこいつ、状態異常に掛かっていた。絶対狂乱――これだ! つまりこいつは理由はわからないけど精神的に狂乱状態になっているってわけだ。


 その結果、過剰回復を行っても過剰回復されたことに脳が、いや恐らく細胞が気がついていない。だから力が抜けることがないんだ。


 ならどうする? 過剰回復を更に強めて細胞そのものを破壊するか? でもそれは消滅に近い方法でMPの消費がかなり激しい可能性が高い。


 いや、それより状態異常なら回復した方が早いか。そうだ、回復すればいい! 俺はドン・コボルトの状態異常を治すために回復魔法を施す。


 ドン・コボルトの身体に淡い光が――だけど、診断しても治っていない。

 狂乱状態のまま? 回復でも駄目ってどういうこと、いや、そうか称号か! 


「くそ!」


 ドン・コボルトがやたらめったと爪を振り回してくる。俺との距離は離れていたけど、飛爪刃というスキルの影響か、爪の斬撃が俺に向かって飛んできた。


 それを全て回復魔法で跳ね返す。当然その全てがスキルを行使したドン・コボルトに命中したけど、全く傷を負っていない。

 

 鎧がなくなったぶん、防御力は低くなったと思ったがとんでもない誤算だった。

 よく考えたらこいつは肉体硬化のスキルを持っている。


 つまり鎧なんてなくても、いや下手したら鎧を着ていたときよりもスキルの恩恵で防御力が上がっている可能性が高い。


 鎧を着ている時は兜に守られていない顔を狙って傷を与えたけど、それもきかなくなったわけだ。


 しかし不味いな。飛んでくる爪の斬撃を回復魔法で跳ね返してるけど、正直ジリ貧だ。


 何せ相手にダメージが通らない。て、相手も自分のやっていることに意味が無いことを本能で察したのか今度は爪を伸ばして一気に近づいてきた。


 スキルに爪を伸ばすものがあった。その影響だろう。爪は一メートル程に達していた。近づかせるとヤバイと俺は本能的に思い、後ずさりながらナイフを振りまくりその斬撃をとにかく回復していく。


 ドン・コボルトはその斬撃の壁の中にも問答無用で突っ込んできた。少しでも傷が付けば勝利につながると望みを託したけど、俺のナイフの威力じゃその皮一枚破けやしない。

 

「グウウゥウォォオオォオ!」


 今となっては動きは相手の方が速い。おまけに斬撃トラップも問題なく来るもんだから、いよいよ爪の射程内に入ってしまい、その途端相手は力任せに腕をふるってきた。


 俺は魔装具の腕輪の効果を発動し、身を守ろうとするが、パリーン! というガラスが割れたような音が耳に届き、その直後ドン・コボルトの爪が俺の肩を刳り腹を裂いたのを感じ取った。


 おまけに馬鹿みたいな怪力と相まって俺はその勢いにのって真横に吹っ飛んでしまう。

 距離が離せたのはいいけど、お腹の中はぐしゃぐしゃだ。生きているのが不思議なぐらいでもある。

 

 勿論すぐに回復はかけた。そして同時に――


「ク? クーーーーーー!」


 クーを掴んで出来るだけ遠くへ投げ飛ばす。悲しそうな声が耳に届いたけど仕方ない。これ以上はクーが危険だ。今の俺にクーのことを守りながら戦えるほどの余裕はない。


 ……もしかしたらクーは見捨てられたと考えるかもしれないけど、俺の眼の前でみすみす殺されるよりはマシだ。

 

 地面に手をつけ、起き上がろうとする。だけどその時にはもう目の前に奴がいた。動きが速すぎる。息つく暇も与えてはくれない。

 

 そしてかと思えば、立ち上がろうとした俺をその豪腕で再び地面に叩きつけて、仰向けになった俺に向けて爪を容赦なく叩き込んでくる。その瞳は狂気に満ちていた。俺を殺す気なのを肌で感じた。


 ヤバイ、怖い、怖い、怖い、このままじゃ確実に殺される。死を目の前に感じた。勿論ただ殺されるわけにはいかないから、俺だって必死に回復魔法で回復を続ける。だけど、この爪から逃れるすべがない以上、いくら回復魔法を掛け続けたところでジリ貧だ。


 今になってエクスの言葉が想起される。MPが切れたらどうなるのか? そうだ、いくら回復魔法が万能でもMPが切れたら意味がない。


 そして今正に俺はその危機に瀕しようとしていた。まるて相手の攻撃が直接MPを削ってきているようだ。


 何か考えないと、この危機を脱する反撃の糸口を――でも、いくら回復魔法を掛けているとはいえ、爪を受ければ痛みはある。その痛みに耐えながら回復魔法を掛けながら、ダメだ、とても頭が回らな――


「グォ!?」


 その時、ドン・コボルトの顔面が小爆発を起こした。ドン・コボルトが一瞬ギョッとしたのを感じ取る。


 そしてすぐに理解した。ドン・コボルトの顔が爆発したのではなくて、何かがこいつの顔を捉えたのだと――


「ファイヤーボール!」

「スパークショット!」

「プロテクション!」


 そして再び、ドン・コボルトの身体に炎の玉と放電した矢が命中した。

 かと思えば俺の身を光が包み込む。


「防御力を上げる魔法を施しました! ソードとアローがそこのコボルトを引き付けます! 早く逃げて!」


 そして俺が顔を向けると青髪の少女が俺に逃げるように促してきて、更に茶髪と緑髪の少年がドン・コボルトに向けて魔法を行使してくれていた。


 この三人――確かギルドで俺が回復してあげた少年とその仲間たちじゃん……。

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