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第二十五話 回復魔法による華麗なる戦術

 俺は回復魔法で腕を生やし、ボックとその妹を振り返りながら、とっとと逃げろ! と叫びあげた。


 あんな棒きれしかもってない子供じゃこの場面じゃ何の役にも立たないのが明確だからだ。それどころかこのままじゃ折角助けたのにまた人質にでもされかねない。

 

 そして、案の定その予感は的中しかける。何体かのコボルトがふたりに向けて向かっているのを目にしたからだ。


 このままじゃ嫌な予感が的中してしまうじゃないか。こっちだって腕は生やしたがナイフがなくなってかなりやばい状況でもある。正面からはドン・コボルトが左右からコボルトナイトが迫っているからだ。

 

 どうする――そう頭を悩ませていた矢先のことだ。


「クーーーー!」

 

 肩の上のクーが叫ぶように鳴き、かと思えば額の宝石が一気に輝きを増した。その光量は凄まじく、俺も一瞬目を奪われる。


 だが、それで俺も気がついた。確かこれはクーの物理スキルである閃光だ。どうやらそれで目眩ましを実行してくれたらしい。


 当然不意を突かれたことで俺の目も眩むが――問題ない! なぜなら俺には回復魔法があるからだ!


「視力回復だ!」


 瞳に潤いを! 回復魔法で奪われた視界は完全に回復した。改めて周囲をみやると他のコボルトは全員閃光で目がやられている。

 

 ただ、それはボックとポインも一緒だった。

 お兄ちゃん眩しいよ~と呻いていたりもするが、当然それも回復!


「うぅ、まぶたが、あれ? 治った?」

「ぐわ! 視界がって、あれ? なんともない? て、おっちゃん腕が!?」

「だからおっちゃんじゃねぇ! あ~腕は俺は新しく生やせるんだよ! いいから今のうちに逃げろ! 俺のことは心配するな。お兄ちゃんなんだろ? だったら妹の安全をまず優先させろ!」


 俺は再びふたりに逃げるように促す。すると妹のことをいったのがきいたのか、コクリと頷き。


「逃げるぞポイン!」

「え? でもあの人は?」

「いいから早く!」


 その小さな腕を引っ張って藪の中へと消えていくふたり。本当はここで俺も一緒に逃げるという手もあるが、この目眩ましも長くは続かないだろう。


 そうなるとあのふたりと一緒に逃げていては追いつかれる可能性が高い。だけど俺が残っていればコボルトの気を引き続けることが出来る。


 そうすればあのふたりだって逃げ果せる可能性が上がる。全く、あんな糞ガキの為によくやるぜ。でも医者志望だった俺が、子供を見捨てるわけにはいかないからな!


 さて、問題はここからだ。囮になったに近い形だが、かといって自己犠牲心なんてものがあるわけじゃない。


「クー! 今のうちに数を減らすぞ!」

「クー!」


 このコボルトが他と違うところは、この状況でも長を守ろうという意識がしっかり働いているところだ。何せナイトは目が眩んだ状態でもしっかりとドン・コボルトの壁になっていやがる。スキルの守りの型も発動しているっぽいな。


 しかもこいつらクーの攻撃でも死ななかったんだよな。ダメージは多いと思うんだけど。


 でもそのおかげで一旦俺からは意識が離れている。後は一気に片付けたいところだけど、とりあえずナイフ……いや!


 あることを思いついた俺は先ずその辺に落ちていた斧を拾う。それで先ず周囲の目がくらんでいる相手を切りつけていった後、傷を広げて倒していった。慣れてない武器だけど目が見えてない相手なら攻撃は当たる。


 そしてクーはクーで今度は槍を魔力で造って放っていく。槍? なんで突然槍を――いや、待てよ! 確かクーはナイフを見たらナイフを、矢を見たら矢を創り出していた。


 つまり、クーは折角マジックメイクという魔導スキルを持っていてもそれを操る知識が足りてないんだ。


 だから、目にしたものだけをどんどん取り入れて、マジックメイクの元としている。


 それなら、もっといい手がある。


「クー! あれを創造出来るか?」


 俺は子供たちを縛っていた縄を指差して問いかける。すると、クー! と張り切った鳴き声を上げて魔力の縄を創り上げた。


 でも、こんなものどうするのか? 相手を縛る? いや、流石にそんなまどろっこしいことはしてられない。何より連中だってそろそろ目が慣れてくる筈だ。


 だけどその数はまだ多い。俺とクーで倒した数を引いても後三十はいる。

 だから――俺は先ず出来るだけ多く回復による脱力で周囲のコボルトの装備品を落としていった。


 ドン・コボルトは仕方ないにしても、雑魚どもは一気に倒したい。


「クー、その縄で武器を絡め取ってこのあたりの一箇所に集めてくれ」

「クー!」


 俺の指示にクーが答え、体中から魔力で創った縄を何本も現出させた。なんかここまでくると縄ってより触手みたいだな。いずれ本当の触手を見せるともっとちゃんと使いこなしてくれるかもしれない。


 とにかく、クーは俺の言った通りコボルトが落とした武器をかき集めてくれた。

 だけど、それとほぼ同時にコボルトの視線が俺に集中し始める。


 どうやら完全に目が慣れたみたいだな。ドン・コボルトの怒りに満ちた遠吠えも耳に届く。


 だけど――お膳立ては整った! これでお前達を全滅できる!


「さぁこれで決めるぞ! 俺は大気を回復だ!」


 ある一点を指差し俺はその空間に回復魔法を掛けた。大気の回復、これは大気を回復魔法で操作し、大気がない状態にまで回復させる為に行使したものだ。


 そう、これによって俺の指定したその一点は真空の空間となる。

 真空というのはいわゆる物質が何もなくなった状態だ。だが、重要なのはそこではない。一度真空になった空間には、その直後周囲の物質が一気に流れこむ。


 つまり、そこにとんでもない吸引力が生まれる事となり――


『ガル? ガルゥウウゥゥウウウウ!』


 コボルト達の焦りの声が俺の耳に届いた。当然だ、真空状態からの吸引によってどんなに抗おうとも抗いきれず、周囲のコボルトが一気に俺が真空にした空間に引き込まれていったからだ。


 その力は凄まじく、離れた位置にいたドン・コボルトやコボルトナイトすらも取り込もうとする。


 そして――これはつまりでいえば、俺が一箇所に集めておいた武器に関しても同じ。

 そう、単純に吸引するだけでは残念ながらダメージには繋がらない。だけど、その吸引力に乗って武器が飛んできたら(・・・・・・・・・)どうなるか?


 周囲の魔物を一気に吸い尽くすような力に乗って武器が飛んで来るんだ。当然その破壊力は凄まじいものとなり――


『グォ、グオォォオォオォオォオオ!』


 コボルト達の悲痛な叫びが鳴り響いた。武器を固めた場所も時間差を考えて離しておいたのが良かったな。おかげで先にコボルト共が吸い込まれ時間差で武器が吸引され、その刃物の雨にコボルト共が切り刻まれてくれた。


 ちなみに俺自身に関して言えば、吸引されても位置が固定できるよう足元を回復し続けたから自滅することはない。当然だけどね。


 ま、そんなわけで、やっぱり回復魔法は最強だって再認識できたぜ!

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