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第二十三話 回復魔導士の目にも幼女

「おい、本当にこっちであってるのかよ! これで間違ってたら承知しないぞ!」


 後ろからボックがうるさい。そしてウザい。可能ならおいてきたいぐらいだったけど、こんな魔物が多く生息している森で放置ってわけにもいかないしな。さっき倒したコボルトは牙だけ回収して後は放置しておいたけど。


 それからクー頼みで逃げたコボルトの足取りを追ってる。クーは鼻をヒクヒクさせたり耳をピクピクさせたりしてるから、匂いと音で後をおっているんだろうな。


「早くしないと妹のポインが……畜生、やっぱり俺が――」

「しっ! ストップだ!」

「え?」

「クーがこの先で強い気配を感じてるみたいだ。だからこっからは慎重に行くぞ。ボックもそれ以上喋るな。コボルトは耳がいいから気づかれる可能性がある」


 あれで見た目犬だしな。エクスに言われて本棚の討伐リスト見ていたら各種魔物の注意点なんかも書いてて音に敏感ってあったしな。


「……でもなんで近いって判ったんだよ」


 ひそひそ声でボックが聞いてきた。でも見てればなんとなく判るさ。真剣な目で俺を見てきたしな。鳴くのも止めたし、それで察しがつく。


 さて、こっからは慎重に抜き足差し足忍び足で進む。落ちてる枝にも気を遣って、風の流れも回復して風上にならないように――


 そして遂に見つけた、コボルトの集落。こいつら予想より文化的というか、勿論人間ほどじゃないけど、地球でいえば古代ぐらいの技術はあるかな。


 とりあえず森で手に入る材料で上手いことテントを作って、それで雨風を凌いでいるようだ。

 て、感心している場合じゃないな。何せここ集落としてはそこそこ出来上がってる感じもある。

 

 見張りのコボルトも立っているし、ウロウロしてる戦闘兵的なコボルトは、よく知るソルジャー、アーチャー、マージ、そしてさっき知ったシーフタイプと合わせて、見えてるだけで数十はいる。


 しかも何体かは槍や斧、剣などを持って訓練中。弓を的に向けて射ち続けているのもいる。


 まるで近い内にどっかに攻め込みにでもいきそうな、そんな気構えすら感じるな。

 コボルトってこんなに人間ぽく活動するのか、正直驚きだ。


「ここに、ここに妹が!?」

「落ち着けよ、あともっと声を潜めて。あいつら耳がいいんだから」


 家族が囚われているかもしれないんだから、焦る気持ちも判らなくもないけどな。でもここでバレるのはちょっと不味い。正直俺一人でも十体ぐらいならなんとかいけそうだけど、想像以上に多いしな。


 確かにこれでこんな事情がからまなければ、調査だけして引き返したかもしれない。まだ武器も防具も出来てないし、全員相手するには不安要素も大きい。


 とりあえず、こいつの妹がどこにいるかだけでも判れば、上手く忍び込んで取り戻したいところなんだけど、て? うん? なんかテントから二体ほど、他のコボルトと雰囲気の違うのが出てきたな。


 それに、よく見るとそれが出てきたテントだけ他のより規模が大きい気がする。とりあえず、診断だ!



ステータス

名前:コボルトナイト

性別:♂

レベル:11

HP:108/108

MP:0/0

腕力:68

体力:75

敏捷:48

魔導:0

物理スキル

□剣術□盾術□シールドバッシュ□一刀両断□守りの型


称号

□主の護衛騎士□中流騎士□盾の使い手



 ……思ったより強いなこれ! いや魔導とMPは俺が圧倒しているんだけど、それ以外は軒並み俺より上だ。しかも他のコボルトもレベルが5~8でばらつきはあるけど、かなり手強いと言えるだろう。


 どうしよう、やっぱまともに戦うのは――


「ポイン!?」


 色々思考を巡らせていると、小さな声をボックが上げる。俺も意識を連中の方へ向け直すと――更に出てきたコボルトナイト二体に連れられて一人の幼女が姿を見せた。


 その腕は縄で縛られていて、一人の騎士が片方の端を逃さないように握っている。


 まいったな。これで居場所を突き止めて見つからないように連れ出すって手はとれなくなった。


 しかも、その後ろからまた別のコボルトが姿を見せたんだけど――でかい。

 そう、コボルトナイトもソルジャーに比べたらサイズが大きく厳しい雰囲気があったんだけど、こいつはそれどころじゃないぐらいでかい。

 

 そもそもコボルトはそんなに背が高い魔物ではない。俺で百七十五センチあるけど、大体のコボルトは俺の胸ぐらいの大きさだ。


 でも、コボルトナイトに関して言えば俺より頭半個分低いぐらいで、しかも肉体は逞しいから雰囲気だけならコボルトナイトの方が大きく感じるほど。


 だけど、後からのそりとでてきたそれは、コボルトナイトより更に一回りほどでかい。それに逞しく顔つきも厳しいし目も鋭い。装備品もこの中で一番良さそうで、黒鉄っぽい鎧を来て兜も被っている。剣は手に刃幅の広い大剣持ち、更に背中には槍と弓、腰には斧と持てる武器を全て携帯しましたって風貌だ。やばいなこいつ。



ステータス

名前:ドン・コボルト

性別:♂

レベル:16

HP:168/168

MP:0/0

腕力:88

体力:105

敏捷:52

魔導:0

物理スキル

□斧術□大剣術□弓術□槍術□土銅変化□猛連打□力溜め□チャージアタック□二段突き□狙い撃ち□士気向上□強化訓練□装備固定


称号

□コボルトの首領□集団を率いし者□鬼教官



 マジで危険だった! ステータスは勿論だけど、なんだよこのスキルの山。それにこの武器術の多さよ。節操なさすぎだろこいつ。


 とりあえず気になるスキルは更に診断しておく。名前だけじゃよくわからないのもあるしな。


・土銅変化

土を銅に変化させる。土があればあるだけ銅を創れる。ただしあまり連続で使用すると銅の質は劣化していく。


・猛連打

近接武器専用。手持ちの武器でとにかく連打!


・力溜め

力を溜めて次の一撃の威力を上げる。溜める時間によって威力は三段階に変化する。


・チャージアタック

突撃しながら思いっきり攻撃する。スキル使用時加速力が飛躍的に向上する。


・士気向上

雄叫びを上げて配下の士気を上げステータスを向上させる。


・強化訓練

配下となるものを訓練する。訓練することでレベルやステータスが向上する。


・コボルトの首領

コボルトの長に選ばれしものの称号。コボルトの中でカリスマ性がアップ。


・集団を率いし者

配下の数が増えたものに送られる称号。統率がよりとれる。


・鬼教官

鬼の教官に与えられる称号。訓練を行うことによって対象者の疲労度が大きくなるがレベルやステータスの向上率は上がる。



 こんな感じか。二段突きや狙い撃ちは読んで字のごとく。槍で二回突くのと、狙いをすまして命中率が上がるのとだ。


 でもこれで急にコボルトの装備がよくなったのが理解できたな。土を銅に変化させてそれを加工したんだろ。ボスのドン・コボルトだけは黒鉄だけど、これはどっかの魔導士やハンターから手に入れたかってとこかな。


 それにこのドン・コボルトは仲間を強化するスキルも持っている。これは確かに魔導士ギルドに依頼がくるはずだな。放っておくとどんどんコボルトが強化されていくことにつながるしな。


「おい! 何黙ってんだよ! 妹が、妹がピンチなんだよ!」


 判ってるよ。だからその手を考えてるんだろって。う~ん、こいつの妹さんは集落の中心部まで引っ張られてきたな。


 コボルト達に囲まれているから、強行突破となると色々と難しいかもしれない。回復魔法である程度無力化は出来るけど、正直これだけ大勢をいっぺんに出来るかは試したことがないし、そもそもそんなイメージは持てない。


 せいぜい俺の視界に入ってる範囲内だ。見晴らしのいいところならまだなんとかなったかもだけど、ここは草木の陰だしで視界も悪い。


 ……やっぱ俺一人じゃ厳しいな。クーにも手伝って貰ってあの妹……それにしてもよく見るとかわいいな。


 診断してみたら年は七歳か。幼女だよ。うん、髪は兄と同じく茶色、左側だけを纏めてサイドアップにしている感じだな。目が大きくて愛らしい面立ち。


 だけど、何といっても凄いのは、胸だ。うん、なんだあれ? 七歳なのにこれは反則だろ。膨らみハンパねぇよ。着ているワンピースもそこだけもうパンパンだよ! ギルドのチャーミーは見た目ロリ巨乳で実年齢は中々だったけど、こっちはほんまもんのロリ巨――


「ぐふぉ! ひぎ――おま、なにすん、だ――


 こいつ、俺の大事なところ棒で突きやがった。くっ、か、回復だくそ!


「お前いま俺の妹の事スケベな目で見てたろ?」

「……いえ、ミテマセンヨ」


 やべぇ、すごく疑いの目で見られている。正直ちょっとはあの双丘に興味を持ったからあながちまちがってもないしな。


 くそ、おかげで大事なところを潰されそうになったことは文句がいえな――


「きゃ、きゃぁあぁあぁああ!」


 と、そんなことを考えていると何やら幼い悲鳴! 慌てて声の方を覗き見ると、コボルトの奴らワンピースを無理やり引き裂きやがった!


「て、てめぇら俺の妹に何してやがんだ!」

「ちょ、お、おい馬鹿! 何やってんだ! 戻ってこい!」


 くそ! 木の棒片手に飛び出していきやがった! ワンピースは回復できるってのに。こうなったら仕方ない、俺も出るしか無いな!

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