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第二十二話 回復魔導士とコボルトと少年

 声が聞こえた方に向けて枝や葉ををかき分けながら進んでいく。

 すると程なくして声の主と思われる少年を見つける事ができた。


 雑草が生え所々に土が顕になった地面と灌木に囲まれた空間。太陽の光もあまり届かず、薄暗くもあるが、少年を囲んでいる集団は俺にとって馴染みのある相手、コボルトだ。


「くそぉ! なんだよこいつら! 犬のくせに!」


 そして少年はどこかで拾ったと思われる木の棒をブンブン振り回しながら威嚇の声を上げているな。

 でも正直多勢に無勢。そもそもコボルトは子供が相手してどうにかなるものでもないし、数だって八体はいる。


 ま、流石にこのまま放っておいたらコボルトにあっさりやられるよな。

 え~診断結果は、コボルトソルジャーが三体、コボルトアーチャーが二体、コボルトシーフが二体、コボルトマージが一体。


 前回との違いはコボルトシーフがいることだけど。



ステータス

名前:コボルトシーフ

性別:♂

レベル:5

HP:22/22

MP:0/0

腕力:14

体力:13

敏捷:24

魔導:0

物理スキル

□短剣術□盗窃術□バックアタックボーナス□ナイフ投げ□ぶんどる


称号

□コボルトの盗賊□人攫い□初級短剣使い



 う~ん、何か結構スキルを多く持ってる奴だな。気になるのは称号の人攫いか。他にも何点か初めて見るスキルがあるけど。


・窃盗術

盗みに関する技術が向上する。


・バックアタックボーナス

背後から攻撃を決めるとダメージが上がる。


・ぶんどる

攻撃と同時に盗みを行う。


・人攫い

人を攫ったものに与えられる称号。人を攫う動作がスムーズになる。


 ……スキルはともかく称号がとんでもないな。魔物相手になんだけど真っ黒じゃねぇか。


 それと気になったのは全体でも俺が以前出くわしたコボルトよりレベルが上ってることだな。前は3だったけど今は他のコボルトも5まで上がっているし、更に言えば装備品もどっかで拾ったようなものではなくある程度ちゃんとしたものになってるな。コボルトソルジャーに関して言えば円形の、バックラーって言うんだったな。そんな盾さえも片手に嵌めてる程だ。


 素材は銅っぽいけど、一体どこで手に入れたのか? まあどちらにしろ見過ごすわけにはいかないか。肩に乗ってるクーもどこか真剣な瞳で援護は任せてと言っているようでもある。


「とりあえず、ナイフ投げ!」


 俺は相手のお株を奪うかの如く、ナイフを投げてコボルトシーフの胸を先ず貫いた。

 勿論回復魔法で回復し、手元に戻すのを忘れない。


 すると少年を囲もうとしていたコボルト達がぎょっとした様子でこっちを見た。

 そして俺の乱入に気がついたコボルトソルジャーが前に出て盾を構え始める。


 俺のナイフを警戒してのことなんだろ。気のせいか前より頭使ってる気もしないでもないな。


 でも、それも無駄! 俺は回復魔法でコボルトの装備を外す。武器も勝手に手から滑り落ちたことで明らかな動揺。


 その隙をついて、俺は手にしたナイフで次々とコボルトを切りつけていく。傷の大小なんて関係ない。少しでも傷ができたら、それを回復魔法で広げる!


『ウォオオォオォオオォオオン!』


 断末魔の雄叫びを上げて先ずコボルトソルジャー三体が絶命した。


「クー!」

 

 するとクーが鳴き声を上げて、どうやら何かを発動したようだ。

 見るとコボルトマージが明後日の方向へ向けて魔法を発動しているようだな。

 ちなみに前回は気が付かなかったけど、使える魔法も知りたいと思えば診断で見ることが可能なようだ。


 それによると使っている魔法はウィンドカッター。風の刃を飛ばす魔法で、まあ、まんま名前のとおりだ。


 そして風の刃は俺達とは見当違いの方向へ飛んでいって葉っぱを散らしていく。


 これは――幻術か? 確かクーはそれも使えたはずだしな。


 そしてついでにクーは魔力を変化させた矢で弓を引くアーチャーを逆に射抜いていく。


 流石、援護としては本当に頼りになるな。後で一杯モフってやろう。


 さて、後はシーフが一体残ってるわけだが――踵を返して逃亡を始めたな。


「クー、後であれを追跡することは可能かな?」

「クー、クーククー!」


 耳を揺らしてぴょんぴょん跳ねて、これは任せてと言ってるな。だったら泳がせておくか。集落の件もあるし。


 まあそれはそれとして。なんかびびって尻もち付いている少年に俺は手を差し伸べる。


「……一人で立てるやい!」


 そしたら出した手を叩き返して、少年は立ち上がってパンパンッと服とズボンの埃を落とした。格好はなんかTシャツと短パンって感じで、わんぱく坊主って雰囲気だな。


 丸っこい瞳で輪郭は猿っぽい。とりあえず診断してみたけど怪我はないみたいだな。年は九歳とある。名前がボックだった。


「まあ、でも怪我もなさそうで良かったよ」

「うるさい! 誰も助けてくれだなんて頼んでないだろ! あんなの俺一人でもなんとかなったんだから恩着せがましくするなよ!」

「クー! クー! クー!」

「て、な、なんだよこいつ、やるのか!」


 ……やばい、流石にこれは腹立つな。別にお礼が欲しくて助けたわけじゃないけど、助けておいてこの態度はちょっとどうかと思うぞ。

 クーだって不機嫌になってるし。


「あのさ、もう少し――」

「あーー! そうだポイン! ポインを助けないと!」

「は? ポインって?」

「俺の妹だよ! あのコボルトに連れ去られたんだ! それを追いかけてたら囲まれて……くそ! 早く、早くなんとかしないと!」

「妹も一緒って、おいおいここは普通に魔物が多く生息してる森だぞ? そんなところで一体何を――」

「うっさいやい! なんだよ見ず知らずのあんたにそんなこと言われる筋合いじゃないやい!」


 …………相手は子供だ、子供だ、子供だ。落ち着け俺、それにこいつはともかく妹というのは気になる。


「妹さんはコボルトに連れ去られたんだな?」

「そうだって言ってんだろ! なんだよしつこいおっさんだな!」


 おっさ――これ殴ってもいいかな?


「とにかくこんな事してる場合じゃないんだよ。早くあのコボルトを追わないと」

「だったら俺がなんとかしてやるよ。多分コボルトは集落に連れ去った可能性が高いと思うし」

「は? あんたが? 全然強そうに見えないのに?」

「いや、その強そうに見えないのに助けられたのは誰だよ……」

「助けられたなんて思ってない! あんたが勝手にやったんだろ!」


 ……こいつだけ見捨てておけば良かったか?


「とにかく、さっき逃げたコボルトの後を追っていけば集落にいけるはずだ」

「はあ? あれはおっさんが未熟で取り逃がしたんだろ? 本当使えないおっさんだな」

「おま……大体俺はおっさんじゃない! 俺の名前はヒールっていうんだよ。もう二度とおっさんなんて呼ぶなよ。まだ十八なんだから」

「十八なんて俺からしたらおっさんだよ。それにヒールって、はは! アホみたいな名前だな!」


 俺のイライラ指数がヤバイです。


「とにかく、あいつはわざと逃したんだよ。後はこのクーが案内してくれるから、お前は危険だから後ろからしっかりついてくる、いてぇ!」


 こいつ! 俺のスネを蹴りやがった!


「お前じゃないやい! 俺にはボックというちゃんとした名前があるんだ! 今度お前なんて呼んだらその足へし折ってやる!」

「だったらおま、ボックも俺のことをちゃんとヒールお兄さんと呼べ」

「嫌だよば~か。それよりはやくそのクーってのに案内させろよ! あんたが凄いんじゃなくてその動物が凄いんだろ! 調子に乗るな!」

「……クー――」


 本当にこれ助けるの? て目でクーが見てきた。その気持もわからなくもないけど、コボルトの集落は依頼も請けてるしな。乗りかかった船だ仕方ないか……。

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