第二十話 回復魔導士と猫耳
武器屋を出た後はエクスの教えてくれた宿に向かった。ちなみにエクスはこの町で部屋を借りてるらしい。結構余裕あるんだな。
そして一泊食事付きで四千オペとの事だった。エクスにあらかじめ聞いていたけど結構良心的だよね~。
しかも大浴場もあるし、部屋にはしっかりトイレもあった。どうやら魔導技術で生活面では結構不便がないようにできてるみたいだね。
そんなわけでその日は風呂を浴びて、食事用の間へと向かう。
「ご宿泊のお客様ですにゃ。只今夕食をお持ちしますので」
「ありがとう。ところで別料金でも構わないけどこの子の食べれそうなのある?」
「あ、可愛らしい動物ですにゃ~」
「うん、幻獣でクーって言うんだけどさ」
「そうなんですか。う~ん、幻獣って何を食べるのかにゃ――」
クーの為に頭を悩ませて接客してくれているのはメイド服姿の猫耳美少女だった。
あ~やっぱ獣人とかいるんだな~猫耳に尻尾もあるよ。でも気になったのは首輪がついていることかな。
「何か無理言ってごめんね」
「いえいえ、お客様のご希望に添えるのも仕事ですにゃ」
性格良さそうな子だな。でもそうなるとなおさら気になる。
「ねえ、ところで君、なんで首輪なんてしてるの?」
「これですにゃ? これは隷属の首輪で奴隷の証にゃ。でもお客様これを知らないなんて珍しいですにゃ」
なるほど。小説とかで読んではいたけど実際こういう世界に奴隷は当たり前にいるんだな。
でもあまり悲愴な空気はない感じだ。奴隷だからってひどい扱いをうけてるってわけでもないのかもしれない。
「教えてくれてありがとう。あ、それとクーの食事だけど果物とか好きみたいなんだ」
「ク~♪」
俺の頭の上で嬉しそうに鳴くクー。すると猫耳少女がくすっと笑った。
「判りました、用意してきますにゃ」
「うん、お願いね。あ、ところで、あの、名前を聞いてもいいかな?」
「はい、ミーといいますにゃ」
そういってミーは奥へと戻っていった。ミーちゃんか、本当猫っぽい名前だな。
そしてその後は食事とクー用の果物を持ってきてくれた。しかも果物は内緒でおまけにしてくれるらしい。本当ええ子だな~。
◇◆◇
宿で一泊した次の日、俺は改めて魔導ギルドへと足を進めた。
昨日約束しておいたから、エクスが入口前で待っててくれてるな。
「おはようエクス」
「おはよう、宿はどうだった?」
「うん、あの値段で食事つきな上、可愛い猫耳少女もいるなら文句ないね」
「猫耳って……一体何を基準に考えてるのよ。まあいいけど、あ~でも宿の主人奴隷を買ったんだ。結構忙しそうだったしね」
「主人って宿屋のおばさんのこと?」
「違う違う、そっちは奥さん。一応主人は旦那さんの方なんだけど酒とギャンブルが好きで殆ど仕事に出てないのよ。それさえなければいい人なんだけど、おかげで宿は繁盛してるのにお金が残らないどころか、ちょいちょい借金までしてるって話ね」
どこの世界にもそういうちょっと駄目っぽい人はいるもんなんだな。
「まあいいわ。ヒール、今日は依頼を請けるんでしょ?」
「うん、昨日装備品揃えるのに結構使っちゃったし稼がないとね」
そんなわけで俺達は揃ってギルドの扉を開けて抜ける。そのままカウンターへと赴くと、チャーミーがいた。
「ああ~頭いてぇ、呑みすぎた。朝がムカつく、ちょっとお前、太陽消してきて」
朝から何言っちゃってんのこの人!? クーも怯えてるよ! 呑んだら呑まれるなだよ!
「また呑みすぎたのねチャーミー。もう次の日仕事の時は控えたほうがいいっていうのに」
「あ~だりぃ~」
「いや、それにしたって素がダダ漏れじゃないか?」
「うっせぇ、殺すぞ、犯すぞ」
こえーよ。なんだよこの人! あ、でも犯されるのも悪くは――
「何考えてるのよ貴方……もう! とにかくチャーミー仕事よ仕事。ヒールが依頼請けたいって言ってるんだから」
「……あ、依頼ですか~キュル~ン、はいこれでいいだろ。後は適当に掲示板かどっかから選んでろ」
本当対応が雑だな……まあいいや。俺はエクスの説明を請けながら依頼を見ていくけど、う~ん、猫の捜索に、水道補修の手伝い、溝浚いに、買い物の手伝い、か、なんか本当雑用みたいなのもあるんだな。
「その辺りもF級魔導士あたりは最初によくこなすわね。でもヒールは戦えるし、そっちは他のF級魔導士に譲って別なのにしたら?」
「そうだな~じゃあ後は~」
依頼書
・薬の材料の採取
依頼主:聖アスピア教会
内容
薬の材料を採取してきて欲しい。細かい内訳は別紙参照の事。
報酬
別紙参照
・コボルトの集落を調査
依頼主:町長
内容
西の大森林にて集団で行動するコボルトが多数発見されている。集落が出来ている可能性が高く、このままでは繁殖し森の外に出て人々を襲う可能性がある。そこでコボルトの集落について調査して欲しい。
報酬
基本調査料として五万オペ。その他情報量に応じて追加報酬あり。
・デリシャスボアの肉を調達
依頼主:肉屋の主人ニクウル
内容
デリシャスボアの肉を調達して欲しい。
※只今肉の専門店ニクニクではフレッシュな値段で新鮮な肉を大放出中! 魔導士も思わずま~どうしよう! と叫んでしまう驚き価格! 今夜の食材は肉のニクニクで!
報酬
部位によって変動あり、基準としてはデリシャスボア丸々一体分で三万~五万オペ。
追加報酬として肉のニクニクのクーポン券進呈。
とりあえず気になったのはこの三つかな。うん、それにしても……肉屋宣伝してんじゃん! 何か下手な洒落まで取り入れて! 依頼内容にこんなこと書いていいのかよ!
「肉屋の依頼は相変わらずね。これハンターギルドでも同じ依頼出してるのよ。まああっちはこの洒落の部分が、『思わずハンターチャ――』」
「それはともかく、こっちの薬の材料ってどんな感じなの?」
「ちょ! 最後まで言わせなさいよ!」
言わせねーよ! そんな冒険させません。




