第十九話 回復魔導士に最適な武器は?
「おう、お前か武器が欲しいってのは」
最後にエクスに案内されたのは武器屋だ。
そして奥から出てきたのは気難しそうなおっさんだった。どうやら鍛冶の作業中だったようだね。
なんかハンマー片手に出てきたもんだからクーが怯えて背中に隠れちゃったよ。抗議してやる! と思ったけど目が怖いからやめときます、はい。
さてと、とりあえず間取りを見るに、この店は武器を置いてあるだけじゃなく自分でも打って鍛えたりしてるようだ。奥が作業場なようだな。店としては広すぎず狭すぎずといったところかな。剣とか斧とかざっくばらんに部屋中置かれてたりする。
「それで、一体どんな武器を探しているんだ?」
ギロリと睨めつけるようにして聞いてきた。今までの相手とギャップがありすぎませんかね。
「実は今使ってるのはこれなんですが」
「うん? なんだナイフか」
俺が店のカウンターにナイフを置くと、それを手にとってマジマジと眺めだした。
「なんだ、まだ買ったばかりなのか?」
「買ったんじゃなくてコボルトから手に入れたんだけどね」
「は? コボルトからだぁ? バカ言え。あいつらの持ってるのはそもそもくたばった冒険者や自分たちで狩った連中のを剥ぎ取って使ってる。そんな連中だ、新品なんて先ず持っちゃいないぞ」
そう言われてもな。まあまさか回復したとは思わないだろうけど。
「たまたま新品を持っていたコボルトと出会って、それを拾って使ってたみたいなのよ。その後は、彼、手入れはそこそこ出来るみたいだから」
するとエクスがフォローしてくれた。ふむぅ、と納得したのかしてないのかといった感じのおっさんだけど、まあいいか、と勝手に納得して。
「どっちにしろそれほどいい品ってわけでもないな。こんなナイフじゃ雑魚は倒せてもある程度のレベルの相手には通じなくなるだろう」
「うん、そう思って新しい武器を薦めたのよ。ほら、親父さんの腕はこの町でも一番だし」
「お、おだてたって何もでやしねぇぞ」
そんなこと言いながらもエクスに褒められてちょっと照れてるんじゃん。まあエクス見た目はかなりいけてるもんな。胸も結構あるし。
「まあとりあえず坊主はナイフを探しているってことでいいんだな?」
「う~ん、近いんだけどちょっと違うというか。出来れば希望の形でナイフを新たに作って欲しいんだ」
「何? オーダーメイドってことか。そりゃ貰うもんさえ貰えばこっちは構わねぇが、ナイフでそこまでこだわるなんて珍しい奴だな」
そうなのか? まあナイフといったら補助用の武器だったり雑用に使う道具ってイメージも強いけど。
「で、どんなのが欲しいんだ?」
とりあえずここまで話はすすんだから、俺は自分の武器として理想の形を相手に伝える。言葉じゃ難しいから紙にペンを走らせたりもした。
武器屋の親父さんも言葉じゃイマイチピンとこなかったみたいだけど、描いた図を見せるとなんとか納得してくれたわけだけど……。
「大体わかったけど、本気かお前? こんな細長くしたら武器としての殺傷力はほぼ無いぞ」
「その辺は大丈夫。むしろこの形のほうが俺の手に馴染むし、元の切れ味さえ良くしてくれれば下手なナイフより扱う自信があるから」
俺の説明を聞いても腕を組んで唸って、いまいち納得が出来ないって感じだな。
まあ仕方ないかな。この世界にメスというものは無いみたいだし。
そう、俺が彼に頼んだ形状は正にメス。医者が手術で使うアレだ。なんでそんなものを選んだのか? といえば当然俺が死ぬ直前まで医者だったからさ。
それに正直俺は医者に憧れを持ち、本格的に医者になろうと勉強を始めた幼稚園の頃からメスを握っていた。小学生の頃にも何人もの患者を相手にメスを振るった。
そんな俺にはやはり武器にはメスがぴったりだと思う。訝しい目で見られてるけどそうなのだ。
「でもヒール。この図の通りのものを作るとなると、普通の鉄じゃ心もとないわよ。刃もすぐにボロボロになりそうだし」
それに関しては回復魔法でなんとかなるけど、ただ切れ味だけはどうしても必要だな。
「そうだな~とりあえず切れ味の良い金属で加工して欲しいところだけど。あと軽さも大事、軽くて切れ味最高! そんなのあるかな?」
「……妙なものを頼む上に贅沢な注文ね」
「全くだ、だがそういうのがなくもない。あんた魔法も使えるんだろ? だったら理想としてはやはりエクスも素材に使用してるミスランだろうな」
そういえば魔装具店でもミスランを腕輪の素材に使用したりしてるって言ってたな。
「そのミスランってどんな素材なの?」
「ヒールは本当に何も知らないわね。ミスランは銀に魔力が宿った鉱物でね、それを加工することで軽くて丈夫な武器に変化するのよ。とくに切れ味は魔力を込めることで更に向上するし、法程式も刻めたりするから、私みたいな魔法も剣術もイケてる魔導士なんかに人気があるのよね」
密かに自分の事をイケてると評すあたり自意識過剰じゃないですかね~いや、イケてるけど。
「だったらそのミスランがいいかな」
「簡単に言うな坊主。だがこっちはあるのか?」
また親指を通して金があるのか? と聞いてきたよ。
う~ん、やっぱり結構するのかな? 正直今九十万オペあるけど、後払いの六十万オペもあるし、生活費として十万オペぐらい残しておきたいしな。
「一応予算は二十万オペかな」
「……普通のナイフならともかく、ミスラン製でオーダーメイドとなるとかなり厳しいな。少なくとも星付きはとてもじゃないが使えないぞ」
「星付き?」
「ミスランは質によって星がつくのよ。最高で三ツ星でその下に二ツ星、一ツ星ってね。一応一番最低質なのは星無しになるわ」
「なるほどね、それでエクスの持ってるのは?」
「私のは二つ星よ。言っておくけどこれでもかなりの値段なんだからね」
「まあ、三ツ星のミスランとなると億を超えるからそう簡単には手が出ないな。ただ三ツ星級だと他の鉱物とも組み合わせることが出来るようになるから、装備品を造る幅が一気に広がる」
そうなんだ、ちなみに二ツ星でも、ん千万という金額になるようだ。エクスよく買えたな。
「……足りない分は毎月ちょっとずつ支払ってるのよ」
分割だったのね……。
「念のため言っておくが流石に坊主相手に分割は利かないぜ。エクスの紹介とは言えまだよく知らない相手なわけだしな。そのへんは信用がある相手としかしねぇ」
ま、そりゃそうだよね。
「じゃあミスランは厳しい?」
「厳しい――と、いいたいところだが、まあ星無しのでなんとかやれないことはない。何せ依頼されたこれは得物としてはかなり小さい方だしな。本来その分加工が大変だけに工費でかなりいくんだが、まあそこはエクスの紹介ってことで勘弁してやるよ。それでよければ二十万でやってやる」
やった! このおっさん顔の割に気風の良い人だな。
「……なんか今失礼な事考えなかったか?」
「き、気のせいだって。それよりありがとう、それでお願いするよ」
「おう、判った。ただ出来上がりまで時間はかかるからそれまでは今のナイフでなんとかやってくれ」
「出来上がりまでどれぐらい掛かるの?」
「そうだな、三日後にまたきてくれ。それまでにやっておく」
……何かドワーフみたいな人だな。まあでもそれでお願いして俺達は店を後にした。