第十七話 回復魔法があっても装備は必要
色々と面倒事に巻き込まれたりしたけど、全員片付けて調べたら色々余罪が出てきた。
やっぱあの連中も密猟に関わっていたみたいでハンターギルドにもすぐ連絡がいったみたいでね。
それで全員分の報奨金が更に増えて、それはエクスと山分けした。全員死んだけど戦利品として連中の持っていた物品は貰えることになったので遠慮無くそれも頂いたよ。
結果として俺の懐には全部で二百万オペほどある。エクスに案内してもらった宝石商の店でルビーとかサファイヤとかを売ったからね。その分もあわせて結構余裕が出来た。これだけあれば装備品を買うのも苦労しなさそうだ。
そんなわけで、エクスと俺は先ず服屋に向かった。何故服屋かと言うと、とりあえず防具は何がいいか? と聞かれたのが大きいね。
何せ俺今の格好自体は気に入ってるから。この白衣がね。だから防具もやはりこの白衣と同じにしたいと言ったらちょっと困った顔は見せたんだけどね。
「じゃあ、魔導服店かなぁ……」
そう言って案内してくれたのがこの店だ。服屋だけど普通の服と違って近接系以外の魔導士が好むローブ系をメインに扱ってる店らしい。ただ希望に応じて仕立てもしてくれるから今着ている白衣に近い形で、それでいて魔糸(魔法の力が宿っている糸)の加工技術も高いらしい。
それにしてもローブってこんなに種類あるんだな。流石に地球ほどとは言わないけどそれでも結構な量のローブがハンガーに掛かっている。
でも店の雰囲気は地球のアパレル店とそう変わらないかな。
「は~い、いらっしゃいませ~」
俺達が見に入るなり出てきたのは緑髪の垢抜けた感じのする少女だった。流石にローブ専門店だけに着ているのは緑系のローブで魔女っ子ぽいとんがりハットを頭に乗せている。
でも杖は手にしてない。代わりにローブの腰上付近で締めたベルトに大小様々な針と、ワンド(指揮棒程度の小さな杖)を装着している。
そんな彼女はクーを見るなり目をキラキラさせて触れようとしてきた。でもクーは警戒して俺の後ろの隠れたけどね。この様子を見るに確かに本来は警戒心の強いタイプなんだね。
でも俺の後ろから顔だけちょこんと出してジーっと様子をみているクーに店員さんはやっぱりメロメロだ。気のせいかエクスも口元と手がムズムズしているし。
とは言え、別にクーを見せにやってきたわけじゃないから本題に入ることにする。
「ふ~ん、これと同じ形のローブねぇ」
「ローブというか白衣なんだけどね」
「別に似たようなものでしょ?」
割と軽いなこの子。まあそう言われればそうかもだけど。
「出来ないことはないけど、オーダーメイド扱いだとこっちの方結構掛かるけど大丈夫?」
そう言って親指を人差し指と中指の間に通した。それ俺の知ってる知識だと卑猥な意味なんだけど……でもエクスによるとこっちではお金の意味らしい。
「とりあえず余裕はあるつもりだけど、どれぐらい掛かるの?」
「金額なら使う糸によっても変わるけど、とりあえずある程度頑丈にする必要はあるでしょ?」
そりゃまあ、防具として身に付けるわけだしね。
「で、当然魔法も使うよね?」
「はい」
「それだと魔法効果を上げる付与も可能だけどどうする?」
「魔法効果というと?」
「単純に属性の威力を上げたりとか。どんな魔法の威力も上げるという付与も可能だけど、この場合効果自体は属性特化よりは落ちるよ。あと特殊属性だと内容によっては対応出来ないのもあるから注意ね」
人差し指を立てながら説明してくれた。う~ん、だとしたら俺のは間違いなく特殊だな。この世界に回復はないんだから。だとしたら威力上げはなしか。そもそも今の段階で威力というか回復力は申し分ないわけだしな。
「それならMP消費量を抑えるとかのほうがいいかな。出来る?」
「それは可能だけど、普通はその手のはアクセサリーで済ませる魔導士が多いけどね」
話によると魔法の効果が込められた指輪とか腕輪なんかもあるようだ。
「ローブに効果を付与すると言っても何個もつけられるわけではないからね。うちだと標準で三つぐらいかな。何か特殊な素材でも持ってきてくれればまた違うかもだけど」
う~ん、まだ魔導士なりたてで素材とかはないね。それにそこまで色々必要ってこともないし。
「じゃあ、これとこれとこれをつけて欲しいんだけど――」
結局俺は防御能力そのものを上げるのと、軽くする効果、後はやっぱりMP消費を抑えるのを付与してもらうことにした。
魔装具でもいいんだけど、効果に関してはローブに込めたほうが大きいと言う話だったからね。まあそれでもどの程度効果あるか判らないけど。
「それじゃあ金額は百二十万オペ、前金は半額を置いていってもらうよ」
う~ん、中々いい値段するな。素材持ち込みなら安くなるけど、何もないから仕方ないか。
まあ払えない金額じゃないしね。
「判った、じゃあこれが六十万ね。いつ頃取りに来ればいいかな?」
「出来上がりまではそうだね、五日も見てもらえば完成してると思うから」
「え? そんなに掛かるの?」
「いやいやヒール、オーダーメイドで五日なら十分早いほうよ」
エクスが言うならそうなのか……なんでもかんでも三日で作れるってわけでもないんだな。
「でもそれだと、結局その間防具はなしってことになるな」
「普通は今の装備でその間過ごすんだけど、ヒールの場合それがないものね」
まあ、今の白衣が代わりってことになるのかな。当然防具としては全く期待できないけど。
「それなら魔装具で代用しておくしか無いんじゃない?」
店員がそんなことを言ってきた。魔装具ってさっき彼女が言っていたアクセサリーの事か。
「う~ん、確かにそれが一番いいかもね」
「でも、そんなのわざわざ用意しなくても、俺回復魔法あるから――」
エクスに耳打ちする。実際防具だって本当は別に無理していらないかなと思ったぐらいだ。本当に念の為ってところだったしね。だっていくら傷ついても回復魔法で治っちゃうし。
「……ふぅ、全く貴方は……まあいいわ。どっちにしろ魔装具店には行ってみないとね。ありがとう、後は出来上がる頃に彼が受け取りに来ると思うから」
「そう、じゃあそれまでには仕立てておくので~」
なんかエクスが呆れたような目を俺に向けてきて、そのまま店を辞去した。
そして結局魔装具店に向かうことになったのだけど。
「あのねヒール。貴方は回復魔法があれば大丈夫と思っているかもしれないけど、それだってもし急所に攻撃を受けて即死とかになったら意味が無いでしょう?」
すると道すがらエクスにそんなことを言われた。う~ん、まあ確かにそう言われてみるとそうかな。
「それにMPが尽きた場合のことだって考えないとだし、とにかく慢心は駄目よ。そういった危険を少しでも減らすために身を守る術は多いほうがいい」
つまり自分の身を守るためにも魔法だけに頼るのではなく、装備品でしっかり保護しておく必要があるってことね。
ふむふむ、言われてみれば確かにそのとおりだが、目から鱗だ。
と、言うわけで俺も考えを改めて魔装具店へと行くことにする。