第十六話 回復魔法で無双
盗賊紛いの行動に出たハンター達に怒鳴られ、エクスが唇を噛んだ。潤いのあるふっくらとした唇に白い歯が食い込む。
それはそれで様になるけど、やっぱ悔しいんだろうな。そりゃこんな下衆連中の好き勝手されるのなんてたまったもんじゃないよね。
「どうした! 早く脱げ! テメェもさっさと幻獣と金品差し出せ!」
「は? 何いってんの? そんなことするわけないじゃん。馬鹿なの? 死ぬの?」
だから、ここは俺がはっきり言うべきだなと思って、堂々と口にした。
そしたらなんか男どもがアホ面かまして呆けてやがんの。
ただ、エクスも一緒になって固まってるのが意外だったけど。
「……て――」
お? やっと再起動したか?
「てめぇふざけてるのか! 人質が見えねぇのかこら!」
首元に切っ先を押し付けて男が言う。人質の彼女も目に涙を溜めて助けてという表情を見せた。
そして勿論俺も別に彼女を見殺しにしようとか考えているわけじゃない。
「じゃあはい、代わりに回復」
「は? かい、ない、い――」
そこまで口にして人質を左右から挟んでた野郎ふたりの膝が折れた。
そしてすっかり脱力しきって地面に膝をつく。
「おいあんた! さっさと逃げろ!」
「え?」
「何ぼさっとしてんだよ! さっさと逃げて衛兵!」
「あ、は、はい!」
俺が声を張り上げるとようやく状況が掴めたのか人質だった彼女が逃げ出した。
ま、待て、と野郎ふたりが立ち上がろうとしたけど、クー! と声をかけると俺の意図を察したようにクーが連中を振り返り魔法で創りだした矢を用いてその胸や額を貫いた。
よっし、これでふたり片付けたっと。
「な、て、てめぇ一体何しやがった!」
目をむいて残ったハンターの一人が叫んだ。ガタイのいいおっさんで斧を取り出して構えだしたな。
「わ、私もよく理解できてないわね」
「詳しくは後で教えるけど回復魔法の応用だよ」
囁くようにエクスに教えてあげる。別にそこまで難しい話じゃないんだけどな。ようは過剰回復って手だ。
例えば俺のいた世界で言えば、栄養ドリンクなんかは一見するとすぐに疲れを回復できて便利そうだけど実際はそうでもない。
特に効き目の強すぎる薬には当然リスクも有るわけで、確かに栄養ドリンクを飲んだ直後は目が冴えたりやる気が漲ったりするんだけど、その分効果が切れるとどっと疲れが押し寄せたりする。
俺が今見せた回復が正にそれ。しかも栄養ドリンクなんかより遥かに強い回復作用を一気に注ぎこんだから逆に身体が耐えられなくなって急激に疲労があらわれ立ってることもできなくなったわけだ。
さてと、これで残りは六人、いや何か矢で狙ってるのもいれたら七人? と思ってたらまた矢が射られたようで、エクスが直ぐ様剣で薙ぎ払う。
その所為で、再び矢が粉々に砕けるんだけど――同時に何かの粉末が飛散してエクスが顔を歪めた。
かと思えばハンターの三人が嬉々とした顔でエクスに肉薄し得物を振り上げた。
でも――無駄だよ。エクスの目には気力が漲っている。もう完全にやる気だ、瞬時に刃から炎が吹き出て三人の身を焦がす。
「屑は揃って消し炭になれぇえええぇええ!」
斬られた痛みと、炎による熱で三人とも狂ったような声を上げて地面をのた打ち回った。
こわ! やっぱエクスって怒らすと怖いんだな――
「ば、馬鹿な! 痺れ粉は確かに仕込まれてた筈だ!」
残ったハンターの一人が驚愕する。なるほどあの粉末は痺れ薬でもあったのね。でも残念、俺がいるからね。念の為あらゆる状態異常を回復するイメージで魔法をかけておいてよかった。
「さてっと――」
そして、俺は俺で地面を蹴り、斧を持った男の腕を切りつける。
「よっし!」
「くっ! 何がよしだ、この程度の掠り傷で!」
「いやいや、小さな傷が命取りだからね、と!」
「は? な、なんじゃごらぁああぁあああ!」
俺は男に向けて再び回復魔法を施す。すると男の傷口から大量の血液が止めどなく噴出された。
それこそ体中の血液が枯れ果てる勢いでな。回復魔法で傷を開きっぱなしにした上で、心臓の動きを活発にしたのさ。それでポンプアップの勢いが増して血流が超加速。その結果、血が一気に吹き出たってわけ。
「こ、こいつだ! こいつがやべぇ! 先ずこいつを殺せ!」
すると一人が俺を指差して叫んだ。どうやらそれが合図だったらしく矢弾が今度は俺めがけて飛んで来る。
でもその前に既に俺はその場でナイフを振りまくっていた。一体何をしてるんだこいつ? て顔を残った連中が見せていたけど、これも俺の戦法だ。斬撃の回復――これによって俺の正面には攻撃判定のある壁が出来上がる。
当然射られた矢はそれに直撃して粉々に砕けた。そして俺の場合それだけじゃ終わらない。今ので矢は完全に認識できたから、回復魔法で矢を再生、そして回復した矢はその軌道も回復し、射手に向かって猛スピードで戻っていった。
少し離れた場所にある家屋のどれかに潜んでいたようだけど、戻ってきた矢には対応できなかったのか黒い影が落ちたのを確認。
あれは死んだね。
「な、なんなんだ! なんなんだテメェ、へ?」
ついでに投げナイフのスキルの恩恵であっさり敵の眉間に刃が刺さった。
これも軌道を回復して手元に戻すと、男が倒れ、残った一人はクーの創造したナイフで首筋を切られて絶命。
これで、八人いたハンター連中は全員死亡した。
するとまるで見計らったように人質だった彼女が衛兵を連れてやってきたよ。
「ふぅ、人質を取られた時はどうしようか悩んだけど、終わってみればなんてことはなかったわね」
溜飲が下がったような晴れ晴れとした顔でエクスが言った。俺もそれに関しては同意だ。こいつらやっぱりムカついたしね。
で、その後は詰め所に向かい衛兵に色々聞かれたけど、人質だった彼女の証言や、連中のギルドカードに記録されていた罪によって俺達に関しては当然お咎め無しで解放された。
結局怪我一つなく終わった彼女からもお礼を言われ、今度は魔導ギルドの方に依頼をもっていきます、とまで言ってくれた。
そんなわけで、結果的に一人の少女を助けることにもつながったし、うん、いいことをした後はやっぱり気持ちがいいよねっと――