第十五話 回復魔導士と魔法剣士とハンター共
「それにしても結構な金額になったな」
ハンターギルドを出た後、俺はあのおっさんがくれた白金札や金札を眺め確認し感慨深く述べた。
勿論すぐにしまったけどね。
「あのギルドのハンター達は捻じくれてはいるけど仲間意識は強いからね。だから報奨金だって払うとなればまともに支払うんだよ。そこで金額を下げるということは仲間の価値を落とすことになると思ってるような奴らだから」
ふ~ん、と口にしつつ、随分と歪んだ思想を持ってる連中だなと思った。大体罪人になった時点で地の底まで落ちてると思うけどな。
「それにしてもさ、よく考えたらギルドの中で依頼人にあんなことしてそれこそ罪と罰ってのには引っかからないのかな?」
「それが無理なのよ。ギルドの中は治外法権になってるから罪と罰も発動しないのよね」
なんだそりゃ。結構穴だらけじゃないのかそれ?
「ま、それはそうとして、とりあえずこれだけのお金があれば初期装備もそれなりのが揃えられるかもね」
自分のことのように喜びながらエクスが言う。確かにあいつらの持っていた金額と合わせれば五十五万六千オペになる。それにまだ手元に残ってる宝石もある。エクスはこれも宝石商の店で買い取ってもらえばそれなりになるだろと言っていた。
異世界でギルドに所属した初日にしては潤沢と言って良いぐらいの資金は手に入ったな。
勿論だからって無駄遣いしていいって程じゃないだろうし、装備品にいくら掛かるかっていうのもあるしね。
「おい、ちょっと待ちな」
そんなわけで、とりあえずは宝石商に鑑定してもらおうと、エクスの案内で商店の並ぶエリアに足を向けたんだけど――そこで突然ドスの利いた声で呼び止められた。
なんか嫌な予感がしたんだけど、エクスに倣って俺も声のする方へ振り返ると――いたよ、いたいた、あのギルドでやたらと睨んでいたハンター達が。
「……何か用かしら?」
すると、エクスが蔑むような視線で連中に言った。本当ハンターが嫌いなんだろうな。それにしても相手は六人はいるけど全く動じてないな。
「ちょっとお前ら面かせや」
「なんで?」
これには俺が反応。だって正直面倒事の匂いがぷんぷんするし、適当に躱したいところ。
「てめぇ、ギルドであれだけ宣っておいて無事でいられると思ってんのか?」
「言っている意味が判らないかな?」
「黙れ、ムカつく野郎だ。とにかく顔かせってんだよ」
「顔なんてかせないよ? 外せないし」
エクスがプッと隣で吹き出した。でも男どもは面白く無いらしく蟀谷がピクピクと波打ってるな。参ったね、穏便にすませたかったのに。
「いい加減にしろよ。言っておくが俺らは別にここでやってもいいんだ。気づいているか? 女、テメェを弓使いが狙ってる。うちのギルドでも優秀なハンターでな、【必中】のスキルも持ってるから、二〇メートル以内の相手なら絶対外さねぇ」
魔法は使えないはずだから、必中は物理スキルか。それにしても便利なスキルがあるもんだな。
「それで? やれるものならやってみなさい――」
刹那、彼女のすぐ正面で何かが弾け飛んだ。風船の割れたような、いやボリュームとしてはもっと大きいのだけど、そんな音を耳に残し粉々になった木片がパラパラとエクスの足元に落ちていく。
「残念、当たらなかったわね」
涼しい顔でエクスが言った。炎の如し熱を帯びた灼眼が連中を捉えてはなさい。細くしなやかな腕には長剣が握られていた。
姿勢は振りぬいた形のまま止まっていたが、周囲の視線を確認し、鞘に戻した。つまりエクスは射られた矢を一振りで切り落としたわけだ。
近くで見ていた俺の目にも振った瞬間がみえなかったよ。エクスやっぱかなり強いんだな。
「さて、本当に射ってくるなんてね。これでもう言い逃れは出来ないわよ? 町中でこんな真似して、衛兵に言えばすぐに連行ね」
射抜くような瞳を不貞なハンター達に向け、よく通る声で言い放つ。う~ん、エクス女なのに堂々としててなんかかっこいいと思ってしまった。
「そうかい? だが、果たして衛兵なんて呼べるかな?」
だけど、男の一人が何か企んでそうな笑みを浮かべてきた。こいつらエクスの腕前を目の前で魅せつけられたってのに、全然堪えてる様子が無いな。何だ? 何か――
「おい、これを見ろ」
「う、うぅ、助けてぇ……」
怪しいなと俺が黙考してたら、案の定、横から追加で男がふたり現れた。
男がというのは、そのふたりに挟まれて女性が一人混じっていたからだ。
ただどうみてもその女性は連中の仲間ではない。と、言うよりは――
「あんたら! その娘!」
「おっと黙ってろよ、柄からも手を離せ。あぁそうだよ。お前らが何かしやがったせいで食い損ねたさっきの女だ。全くおかしな真似しやがって、だが先に【マーキング】しておいて正解だったぜ」
ああ、やっぱりギルドで組み伏せられていたあの女の子か。賢者モードにはしたんだけど永遠ってわけじゃないから気持ちが再燃したんだな。それにしてもマーキング? 口ぶりから察するにそれもスキルなんだろうな。名前からしてGPSみたいなものか。多分対象に掛けることで離れていても位置が判るとかそんな感じなんだろうな。
そしてこっからだとはっきりとは見えないけど、涙目で怯えた表情と、挟んでいる一人の腕が彼女の背中に回っているあたり、ナイフか何かで脅している可能性が高い。
「本当に、どうしようもない腐った連中ね!」
汚物を見るような目を連中に向ける。だけど奴らはそれを屁とも思っていないようで、遂には顎でついてこいと促し始めた。
人質がいるから俺達には何も出来ないだろうとでも思っているんだろうな。俺の肩ではクーが不安そうな表情を見せている。
だから安心させる意味で撫でてやった。目を細めて小さくクー~っと鳴く。そんなクーに連中が妙な視線を向けていた。
それにしてもこいつら、一体俺たちに何をしようっていうんだかな。
とは言え、何をするにしてもこの場所じゃ悪目立ちが過ぎるってところか。彼女のこともあるからエクスと一緒に奴らの後に着いて行く。
のどかな町ではるのあるのだけど、探せば意外と目立たないところあるようだ。
目的地としていた店舗が並ぶエリアとは全く逆方向にある、どことなく寂れた感のある場所まで連れてこられてしまった。おんぼろの風車が淋しげに佇んでいたところで、俺達はその裏に回ることとなる。
スラムとまではいかないけど、あまり良い空気を感じさせない空間で、悪さをするには持って来いと言えるだろう。
どんな町でもこういった場所が一つぐらいあるものなんだな。
「それで、こんなところまで連れて来て一体どうするつもりよ?」
「うるせぇ、いい加減自分の立場ってものを弁えるんだな」
連中はもう隠す気もないようで、人質にとっている彼女の首筋にナイフを当てた。
ひっ、と短い悲鳴を上げ小さな身体が震えている。
本当に災難だな。大体依頼人としてギルドに赴いたのに身体を奪われそうになったうえ、逃げ出したと思えば今度は人質にとられるんだから正直当の本人からしたら意味がわからないだろう。
「人質まで取って、そうでもしないと何も出来ないわけ?」
「どうとでもいえ。俺達に喧嘩を売った愚かさを恨むんだな」
「いや、別に喧嘩を売ったつもりはないんだけど」
「抜かせ! 俺達の楽しみを奪って、仲間まで殺しておいてその気はなかったで済むかボケェ!」
いやいや、どう考えても自業自得でしょう。殺した奴らだって罪もついたんだし、ただの逆恨みでしか無いぞ。
「身勝手な言い分ね。大体仲間って、仲間なら罪を犯さないようしっかり監視してなさいよ! 罪人に成り果てた奴の仇討ちとか、それじゃああんたらだって罪人と変わらないじゃない!」
「あん? 馬鹿かテメェは? 罪は見つかるから罪なんだよ。見つかんなきゃ何の問題もねぇんだよ! このボケカスが!」
凄い考え方だ。これでまともなギルドって信じられないな。思考はもうハンターじゃなくて盗賊のソレだし。
「とにかく、この女を殺されたくなかったらそこの餓鬼は俺達の仲間から奪った物とギルドで手にした金、そしてそこの幻獣を寄越せ! 女、テメェはこの場で全裸だ! 武器も捨てろよ、一切の抵抗は禁止だ、さっきこの女に出来なかったことをテメェが代わりにするんだよ! さっさとしろゴラァ!」