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第十四話 回復魔導士と賢者

「あ、あんた達一体何してるのよ!」


 エクスがギルド内で堂々と行われている暴行現場を目にし、大声で叫んだ。

 そりゃそうか。それにしてもびっくりだ、マジで何してるのこいつら?


「あん? なんだ女、お前も仲間に加わりたいのか?」

「お? 教会から紹介された依頼人か? へへっ、中々いい女じゃねぇか」


 う~ん、何か妙に気になることを言っていた気もしないでもないけど、とりあえず大きな勘違いだね。


「いや、違うぞ! この女見たことあるぜ。魔導ギルド所属の魔導士だ!」

「は? なんで魔導士がこんなとこにいるんだよ――」

「うるさいわね。私の事はいいからさっさとその子を放しなさいよ!」

「は? なんで俺らがお前なんかの命令を――」


 はいはい、じゃあ回復回復っと。


「命令も何もないでしょ! その子だって嫌がってるんだからさっさと解放しなさい! でないと――」

「……ああ、なんかもういいや」

「白けちまったな」

「ほら、お前ももう帰っていいぞ」


 片目を吊り上げて剣に手さえ添えてたエクスだったけど、男たちが俺の回復魔法の効果でやる気を無くして拘束していた女性から身体を離していった。


 暫く呆けているエクスと女の子だけど、とりあえずこれで何もされずに済んだね。


「こ、こんな、こんなギルドもう二度と来ないわ! サイッテー!」


 そして涙を拭いながら女の子がギルドを出て行った。まあ、普通はそうだよね。


「可哀想に……でもなんでこいつら急に、なんていうか落ち着いた感じになってるの?」

「ああ、それなら俺の魔法の効果だよ。例のあれで賢者モードになってもらったから」

「賢者モード?」

「つまり――」

 

 俺はエクスの耳元で囁き教えてあげる。すると顔を真っ赤にさせたな。結構うぶだね。


 ちなみにやったのは勿論回復魔法。これで連中のびんびんに熱り立ったアレを回復してしまったわけ。それでまあなんというか処理したあとと同じになったから、連中もすっかり賢者になって大人しくなってしまったというわけだ。


「一体何をしたか知らないが、魔導士が一体ハンターのギルドに何のようだよ?」

 

 とりあえず女の子の件も片がつくと、今度はカウンターからムキムキのおっさんが俺たちに話しかけてきた。


 多分魔導ギルドの受付と一緒の立ち位置なんだろうけど、このギルドには華が全く無いな。この人も含め全員なんともガチムチのおっさんばかりだ。


「ちょっと! そもそも貴方も受付なら連中に注意しなさいよ! 今だってしっかり見てたでしょ!」

「悪いがギルドはハンター同士のいざこざには不干渉というのが暗黙のルールでな」


 なんだそりゃ? つまりギルド内で起きた問題でも職員はノータッチって事かよ。責任逃れもいいところだな。


「……本当相変わらず最低ねこのギルドは」

「ふん、街の人間に媚を売るしか能がない魔導ギルドの連中には言われたくないな」

「馬鹿じゃないの? 私達がやっていけるのも街の人達が依頼を持ってきてくれるからじゃない。それなのに依頼人を煙たがるあんたらの方がおかしいのよ」

「お前らはそうやってせせこましくやってないとギルドが成り立たないから大変だな。俺たちのギルドは別に無理して依頼を受けなくたって魔物を狩るのに忙しいからな。お前らみたいに暇じゃないんだよ」


 エクスと受付の男が口撃戦を展開していた。何か仲が悪そうだな、このふたりというよりギルド同士が。


「忙しいって、私達だって魔物も狩るわよ。本当自己主張が強いわね。それといくらなんでも依頼を持ってきた女の子を襲うなんて最低もいいところよ!」

「それは俺の知ったこっちゃねぇな。さっきも言ったがハンター同士のいざこざにはギルドは関わらねぇんだよ。ただ敢えて言うなら町が魔物の脅威から守られてるのはハンターのおかげなんだから、それぐらいでガタガタ言うなって話だ。大体女一人で来てる時点で誘ってるようなもんだろ」


 うわぁ……本当最低だなこいつら――


「はぁ、本当あんたらと放してても埒が明かないわね。とにかく要件だけは済まさせてもらうわよ。ね、ヒール、あれを出して」

「オッケー、はいこれ」

 

 エクスに促されて俺はポケットからあの二人組の男のギルドカードを取り出しカウンターに並べた。


「これは、セイサンとカリのギルドカードじゃねぇか! なんでテメェがこれをもってやがる!」


 ふたりあわせると劇毒じゃん。まあそれはいいとして、なんか凄い尖った目で睨みつけてきたな。親の仇を見つけたみたいな顔してるぞ。


「このふたり、彼の肩にのってる幻獣を密猟しようとしてたのよ」

「幻獣だと?」


 そこで受付のおっさんが肩に乗るクーを凝視する。するとクーがビクッとなって俺の首の後に回った。顔怖いんだよおっさん。クーがビビっちまっただろ。


「……額の宝石――そうかカーバンクルか、確かに幻獣は基本保護対象だが密猟だってなんで判る?」

「いや、罠が仕掛けてあったし、それにクーが引っかかってたんだよ。しかも俺と遭遇した時も痛い目みたくなきゃ大人しく渡せとか恫喝してきたしな」

「それがどうした? 罠にはたまたま幻獣が引っかかったかもしれないし、お前に渡せといったのもあいつらが逆にお前を怪しいと思ったからかもしれないだろ?」


 そうくるのか。何この仲間意識怖い。


「悪いけどそれは通じないわよ。ふたりは彼の前で武器を抜いて襲いかかってきたんだから」

「襲っただと? ふん、それでふたりはどうしたんだ?」

「そりゃ返り討ちにしたよ。殺されそうになってるのにこっちも容赦できないし」

「なんだと! テメェらセイサンとカリを殺したってのか!」


 すると、今度はテーブルに座ってた連中が声を荒げて来た。賢者モードに入ってた筈なのに立ち直ったのかよ。凄い形相で睨んでたし仲間だったのかね。


「連中も貴方も何がそんなに気に入らないかしらないけど、襲われて反撃したなら完全にヒールの正当防衛よ」

「それが本当だとは限らないだろ」

「だったらカードを確認しなさいよ。私達の程じゃないにしてもそれだって教会の加護を受けてるんだから【罪と罰】の効果がついてるでしょ?」


 エクスに言われ、おっさんが舌打ちする。それにしても罪と罰ってまた知らない言葉が出てきたな。


「ふぅ、その顔、貴方は当然知らないようね。罪と罰というのは何か犯罪を犯した場合カードに記録される効果ね。だから隠そうとしても基本無駄、前科としても残るから町の検問なんかでも役立っているのよ。ちなみにこれと同じ効果は魔導ギルドのカードにも付いてるわよ。うちのはより詳細にわかるけどね」


 エクスが俺に説明してくれたけど、それを聞いていたおっさんが気に食わないって顔でまた舌打ちしたな。


「……判った、調べとくから明日またこい」

「嫌よ、何言ってるのよ。そんなのいますぐにでも判るじゃない! 今すぐ教えなさいよ!」


 おっとエクスも凄い食って掛かるな。でもそのせいか後ろで聞いてる連中の顔がどんどん怖くなってるよ。


「……生意気な連中だな。まあ、いいさ」


 そういった後、おっさんが後ろに引っ込み、壁際に設置されている小さな祭壇にカードを置いた。

 

 どうやらあれで内容を確認するみたいだな。魔導ギルドにはなかったものだ。


「魔導ギルドにはあんな祭壇はないのよ。もっとコンパクトな魔導具で調べられるから」

 

 俺がおっさんの様子を見ていたから、エクスが腕を組んで自信に満ちた顔で説明してきたな。なんか凄い誇らしげだ。


「……確かにふたりには密猟と強盗の罪がついていたな――」

「それだけ? 余罪いくらでもありそうだけど?」


 確かにな。あんなことで武器持って襲ってくる連中だし。


「ちっ、もうお前らには関係ないだろ。カードはこっちで処理しとくからとっとと帰れ」

「はぁ? 何寝ぼけた事言ってるのよ! そんなわざわざカードを返すためだけにこんなところに来るわけ無いでしょう? 罪人は本当なら賞金首になって手配書が回るんだから、片付けた彼にそれ相応の報奨金を出して貰わないと」


 おっさんの目が吊り上がる。だけどエクスは退かない。俺に関して言えばこの世界の仕組みにはわからないことがまだまだ多いしね。


 だからここは様子見。でもエクスの言っていることは正論のようで、おっさんも観念して報奨金を用意してくれた。


「セイサンが二十五万、カリが十五万で合計四十万オペだ。これでいいだろう! これ持ってとっととけぇれ!」


 四十万って……結構な金額になったな。でも凄い切れられてるけど。

 とは言えこんなところ貰えるものさせ貰えば後はようもない。

 

 エクスも同じ気持だったようで、

「良かったね。じゃあ気分悪いしいこっか」

と言って踵を返した。


 正直他のハンターからも終始睨まれていたけど――ま、金も手に入ったし気にしない気にしな~いっと。

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