第十二話 俺、回復魔導士になりました
「教会というとあの教会? 何か町にも大きな鐘が飾られた建物があったけど」
「うむ、それこそがこの町に建てられた教会堂であるな。お主も当然名前ぐらい知っておるじゃろが、あれがこの町の聖アスピア教会の教堂じゃよ」
「いや、全然知らないんだけど。何そのアスピア教会って、有名なの?」
俺の答えにふたりが目を丸くさせて言葉を失った。え? 何、そんなに当たり前の知識なの?
「ちょ、ちょっと待ってよヒール! 本当にアスピア教を知らないの?」
「うん、あ、え~と、俺の両親そういうことに無頓着だから」
「いやいや、いくらなんでも普通はそれでも名前ぐらい知っておるぞ? 聖アスピア教会といえば世界中に数多くの信者を抱えこの大陸でも最も布教されているぐらいじゃからな」
聖アスピアねぇ、なんか名前だけ聞くと光の勇者とかがいそうな感じだね。でも俺この世界の住人じゃないからね。正直わかるわけないんだけど。
「う~ん、もしかしたら小さい頃に聞いていたかもしれないけど、俺自身がそういうのに興味なかったからね」
「貴方、回復魔法なんて常識はずれの物使用してるのに聖なる女神のアスピア様に興味なかったって本気?」
女神なのか。う~ん、そう言われてもね。
「それで、どうしてそのアスピア教会がそんな権限を持っているの?」
仕方ないからとりあえず知ってる知らないは置いておいて、なんで教会が関係してるのかだけ尋ねてみる。呆れ眼のふたりだったけど、とりあえずそのことに関してはギルド長が答えてくれた。
「一番の理由は薬なのじゃ。何せ薬に対する知識は全て教会が徹底管理していて、外部には絶対に漏らさないのじゃ。何せ怪我や病の治療には薬が必須。その権利は全て教会が握っておるのじゃ。それ故薬の販売に関しても商業ギルドではなく、教会が許可証を手配しておるぐらいじゃからのう。故に薬を使った治療院なども全て教会の関係者が経営しとるのが現状なのじゃ」
ふ~ん、なるほどね。つまり医療関係に関しては全て教会が管理しているって話みたいだね。
だから教会の許可無く勝手に回復するような真似は本来まずいのだぞ、とそう言いたいわけか。
「ギルド長が言いたいのは、俺があまり派手に回復魔法を使用したりすると、教会に睨まれるから気をつけろと、そういうことなわけだね?」
「うむ、理解が早くて助かるのじゃ」
うんうん、と可愛らしく頷くエルメット。正直威厳はないけど幼女としてみたら愛らしすぎるな。クーも可愛いけどね。
「判ったよ、それじゃあそれを肝に銘じて登録させて貰うね」
「ふむ、頼んだぞ。それとわし個人としてはお主には期待しておる。何せ誰も成し遂げられなかったこの世界でも類を見ない回復魔法の使い手なのじゃ。ギルドでの活躍楽しみにしておるぞ」
「ま、どこまで出来るかわからないけど頑張ってみるよ」
「う~ん、それにしてもまだ登録もしてない内からギルド長に直接ここまで言わせるなんて前代未聞ね」
エクスが肝心したような、それでいてどこか呆れたような目をしながら言ってくる。
ギルド長と直接面談するのは珍しいことなのだろうか? まぁまだ登録すら済ませてないのは確かだけど。
とは言え、とりあえず話も終わったので、失礼します、と辞去し一階へと戻る。
「お、戻ってきたぞ」
「全くまだ来たばっかだってのに直であのギルド長に呼ばれるなんてな」
「でも仕方ないんじゃね? 回復魔法なんて俺も初めてみたし」
「そのことだけど他言無用にと御達しが出てたぜ。そのギルド長の厳命だから気をつけろよ」
なんかさっきと打って変わって俺への注目度が高くなってるな。魔導士同士が色々話してるけど結構声がでかいせいか丸聞こえなんですけど~。
「お疲れ様だね~話は終わったのかな~?」
顔を可愛らしく傾けてチャーミーが聞いてくる。本当普段とのギャップが激しいなこの子。
「話はしてきたよ。とりあえず納得したし、ギルドでの活躍も期待しているって言われちゃったし、だから登録は済ませてしまおうかな」
「は~い、じゃあ魔導ギルドについて簡単にお姉さんが説明しちゃうんだぞ」
音符でも舞いだしそうな声音でチャーミーが語りだした。声も変わるんだから凄いよな本当。
「え~とね、魔導ギルドは魔導、つまり魔法の研究や魔導具の開発、それと魔導の力を人々の為に役立てようという理念に基いて活動しているギルドなので~す。ギルドの登録魔導士になる条件は至って単純、魔導スキルを所持している事、これだけなんだよ~簡単だよね?」
人差し指を立てウィンクしながらの説明。う~ん、確かに今のところ難しいことはないけど、でも一つだけ――
「魔導スキルと物理スキルってそもそも何?」
『…………』
て、おい! チャーミーとエクスが固まっちゃったよ! いやいやそこはちゃんと教えてほしいんだけど。
「おい、テメェふざけてんのか?」
怖いよチャーミーさん! なんでそんな急に変わるのさ!
「いや、だから俺、結構な田舎育ちでさ、スキルのことなんて誰も教えてくれなかったんだよ。だからぼんやりとはわかるけど少し詳しく知りたいなって」
「……はぁ、マジかよ。そういうの面倒だからエクス頼むわ」
「全くしょうがないわね」
本当に心底面倒そうに言われたな。で、エクスが説明してくれたんだけど、なんてことはない、わりと予想通りの答えだった。
ようは魔導スキルは魔法に関係したスキル、物理スキルはそれ以外のスキルって事。ついでに称号に関しても教えてもらったけど、これは手持ちのスキルやそれを利用する頻度や行動によって与えられるものらしい。
称号は俺も何個か取得したからわかるけど、あるとステータスとかスキルに色々と恩恵が与えられる。だから称号があればあるだけ有利だし、これのおかげで単純なレベルの差だけでは強弱がつけられない要因にもなっているらしい。勿論スキルもそうだけどね。
ちなみにスキルも鍛錬や学習によって覚えていく仕組みだが、称号よりは判りやすいとか。
ただやはり覚えるのが簡単なスキルもあれば難しいスキルもあるんだとか。
後魔導スキルに関してはかなり個人差が出るらしい。殆どの魔導士は火、水、土、風という基礎四属性を利用した魔法を扱うらしいけど、Bランク以上の魔導士にはオリジナルの属性を見つけ扱う者も多いようだ。
それと回復魔法はないまでも支援魔法とされる相手を援護するのを主とする魔法を得意としている支援魔導士なんかもいるらしい。
物理スキルに関しては魔導士でも近接魔導士なんかは結構覚えている事も多いみたいだけど、魔導の素質がなくてハンターギルドに登録するハンターなんかは特に物理スキルに特化しているようだ。
物理スキルにも色々な種類があって、覚えさえすれば常時恩恵が与えられるものもあれば、技として任意で使用されるものもある。魔法の場合MPが消費するけど物理スキルにはそれが無いのが利点らしい。ただ多くの技は体力や場合によってはHPを消費して使用するタイプもあり、また中にはチャクラという特殊なエネルギーを増幅させて放つのもあるとか。
まあ、チャクラに関しては俺にも馴染み深いけどね。ようは気みたいなものだし。
「こんな感じかな、どう理解した?」
「うん、ありがとうエクス。まあ、大体知ってたというか予想どおりというかそんな感じだったけどね」
「はい? え、じゃあなんでわざわざ説明させたのよ……」
「念の為」
何か凄く疲れたような目を向けられた。でも確認は大事だよね。