第十一話 回復魔法とギルド長
チャーミーに言われたとおり二階のギルド長室に向かった。ちなみにエクスもついてきてくれている。俺にギルドを紹介したのは彼女だし、最初に出会ったのも彼女だからその辺の経緯も再度ギルド長に話してあげて欲しいということらしい。
ギルド長室は二階の最奥にあった。艶のある焦げ茶色の扉の上にギルド長室と書いてあったからすぐにわかったわけだけどね。
「はいはい、鍵は空いているからどうぞなのじゃ~」
扉をノックするとなんとも可愛らしい声が内側から届いた。聞き間違いかな? とも思ったけど中に入ったら間違いじゃないことはすぐにわかった。
部屋の中は……なんかやたらとファンシーだった。左右に並ぶ棚にはなんとも言えぬほどぬいぐるみが一杯置いてあって、これ本当にギルド長の部屋なのか? と目が丸くなりそうなぐらいだ。
窓も可愛らしいカーテンつきだし、部屋がピンクだし、で、窓際の花柄がたっぷり描かれた机に、これまたちょこんと座っている見た目幼女。
うん、なんでこんなところに子供がって感じだけどね。でも部屋の雰囲気でいけばぴったりだ。その幼女がニコニコと可愛らしい笑顔で、よく来たのじゃ、と俺たちを向かえてくれる。
エクスは、失礼致します、と特に疑問も持たず接している様子だ。
幼女は見た目は金髪の金瞳に同じく金色の髪、背は百三十センチぐらいかな? 何故か袖余りのブカブカのローブを羽織っていて、そして注目すべきは耳。
なんか先が尖ってる感じの長い耳だ。これはあれだな、ほぼ間違いなくエルフだな。
俺の勘がそう告げている、間違いないとな!
「驚いた? ギルド長はね、なんとエルフなのよ!」
「うん、知ってた」
「え!? ど、どうしてそれを? あ、さてはまた鑑定を使ったわね。駄目よギルド長に鑑定なんて不敬よ!」
いや、そんなことしなくてもわかるし。あれ、意外とエクスって残念な子なのかな?
「鑑定はされていないのじゃ。でもエクスよ、そんなことせぬでもこのキュートな耳を見れば普通はわかると思うのじゃ」
「え? そうなんですか?」
「……お主たまに残念なところがあるのじゃ――」
自分の事をキュートと言っちゃうギルド長も結構残念な気もするけどね……
「さて、堅苦しい話はおいておいてもっとこっちへ来るのじゃ」
この流れでどこかに堅苦しい話あったか? まあいいや。折角なので机を挟んだ向かい側にふたりで立つ。
「初めまして、私はヒールと申します。以後お見知り置きを」
「うむ、わしはエルメットじゃ。宜しくなのじゃ」
エルメットか、よく見ると前髪パッツンだし、エルフでメットみたいな頭と考えると覚えやすいな。
「それとなのじゃ、堅苦しいのは抜きと言ったのじゃ。もっと楽に接してくれて構わぬぞ」
「じゃあ、ぶっちゃけいくつなんですか?」
「それ楽にしすぎでしょ!」
ぱこんっ! とエクスに小突かれてしまった。だって気になって仕方ないだろこんなの!
「ふむ、女性に年を聞くものではないぞ。じゃが、知ってると思うがエルフは長寿の種族。故にお主らよりはずっと上だとは言っておこう」
あ~やっぱりそうなんだな。見た目幼女だけど、実際は大人ってやつか。
「尤も心はいつもキャピキャピの乙女じゃがな!」
でも頭は残念だな。クーもなんか目を細めて可哀想な物を見るよう目を向けている。
「それとエルフが皆このような姿をしとるわけではないぞ。寧ろ大体のエルフは成長過程に置いて二十歳程度までは人間とほぼ変わらぬ速度で成長するのじゃ。しかし男性なら二十、女性で十八ぐらいから見た目の衰えが緩やかになるのじゃ。つまり女性ならちょっと頑張れば永遠の十八歳も通じる可能性があるのじゃ! わしはその究極系で永遠の九歳じゃがな!」
「つまり生涯つるぺったんなんですね」
ズーーーーン! という効果音が上から降ってきそうなぐらいにギルド長が落ち込んだ。
意外と気にしているのか。
「い、言うておくがエルフは大体がひんぬーじゃからな! わ、わしだけじゃないのじゃ!」
だいたいひんぬーなのか、でも大体ってことは例外もありそうだよね。あと密かにエクスさん、何故ドヤ顔。胸を腕で寄せてあげて何故ドヤ顔。
「とにかくつるぺったんの話はどうでもいいのじゃ。なぜお主をわしがこの部屋まで呼んだか判るかのう?」
「優秀だから?」
「……お主ものすごいポジティブじゃのう」
「そう褒められると照れるね」
「褒めてないと思うわよ」
そうなの? でもこういうのって普通と違う人が選ばれるんだよね大体。
「とは言え、遠からずといったところじゃがな。お主が回復魔法を使用していると知ってのう。これは一度ぐらい話をしておかぬといかんと思ったのじゃ」
「やはり回復魔法のことだったのですね」
エクスがちょっと真剣な雰囲気に変わってギルド長に尋ねる。
「うむ、この魔導ギルドに登録する魔導士の中にも、日々の鍛錬と研究によって独自の魔法を生み出すものは少なくないのじゃ。しかしのう、回復魔法に関していえばこれまでも数多の魔導士がやっきになって研究したものの結局夢かなわず、誰もが成し遂げられなかったある意味究極の浪漫魔法なのじゃ。しかし、それをお主のような若造がしかもギルドに未登録の者が突然やってきて、あっさりと使ってみせたのじゃから、これは本当に魔導界の革命と言ってもよいぐらいの衝撃なのじゃ」
そこまでなの? 何か随分と大げさだな。
「そこでなのじゃ、お主に問いたい。どうやらギルドには登録してくれるようじゃが、ヒールよ、お主はその回復魔法でこれから何を成すつもりなのじゃ?」
「え? さあ?」
「…………」
「…………」
あっさり答えるとエルメットとエクスのふたりが固まったみたいになって沈黙が訪れた。
そしてエクスがジト目で俺を見だした。いや、そんな目をされても仕方ないだろ! 本当に異世界にきて初めての町でかってもよくわかってないんだから!
「あ~、でも折角の回復魔法だし、困ってる人の役に立てればいいなと思ってるかな。怪我人の治療とかね。とりあえずこのクーを助けたみたいにね」
とは言え何も考えてない馬鹿と思われるのも心外なので、大雑把な考えは述べておく。クーの頭を撫でながらね。気持ちよさそうな顔してるな可愛い可愛い。
それに俺これでも一応医者志望だったわけだしね。
「ふむ、なるほど。その幻獣もお主の魔法で治したのか。普通幻獣が人にそこまで懐くこと無いのじゃが、それなら得心もいくというものじゃ。じゃけどな、お主のそれは随分と立派な考えではあるが……しかし中々難しい問題でもあるのじゃ」
「そうなの? 一応MPもそれなりにあるしそれなりの回数こなす自信はあるんだけどね」
「わしが言っているのはそういう意味ではないのじゃ。そうじゃな、恐らく下で登録して依頼を請ける話になればわかると思うのじゃが、とりあえず簡単に言ってしまえば怪我の治療などといった行為に関しては教会の権限が強いのじゃよ」
うん? 教会?