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第十話 回復魔法を実践!

 ギルドに飛び込んで来たのは、年齢的には三人とも十五から十八歳ぐらいの男女ってとこかな。緑髪の弓使いに、いかにも魔法使いといった服装の青髪の少女、そのふたりが肩を貸しているのが、だらんっと頭を下げたままの茶髪の少年。こっちは剣を腰に差しているから、エクスみたいな剣士タイプなのかな? どちらにせよ魔導ギルドである以上、全員魔法が使えるんだろうけど。


「うほっ! 酷い怪我だなこれは……」

「ちょっとまずいわねこれ――」


 すぐさまゴリさんとエクスが駆けより、とりあえず床に怪我人を寝そべらせ様子を見る。

 受付嬢のチャーミーも、ちょっとごめんね、と口にして近づいていった。他にもギルド内にいた魔導士達が集まっていく。


「どうしてこんな怪我を?」

「大森林でちょっと奥に入りすぎて、そしたら高レベルの魔物と遭遇してしまったんだ……」

「またか、お前らたしかこの間Eランクになったばかりだろ? だったらあの森の奥は危険だって言われてただろ?」

「ご、ごめんなさい……」


 青髪の女の子がしゅんっとした様子で答えた。狩人の少年も無言だけど悔しそうだな。


「今はそんな事を言っていても仕方ないだろうが、それより誰かいい薬もってないのかよ?」

「流石にここまでの怪我となるとな……チャーミーちゃん。ギルドの保管してあるので何とかならないかい?」

「……残念だけど、これはもう無理だね。怪我が深すぎる、残酷なようだけどうちで一番いい薬を使っても治療は出来ないよ」

 

 う~ん、流石の受付嬢もこの場では真剣だね。で、とりあえず俺も覗き込んでみるけど、確かにこれは酷い。土手っ腹を何かで突かれたのか穴があいてるし、肩口から脇腹に向けて斜めに巨大な爪で切り裂かれた痕が痛々しく残っている。鉄製の鎧もこれじゃあ意味が無いな。


 出血も酷くて口からもゴボゴボと大量に出血してる。目も虚ろで本当死に体って感じだ。


「ご、ごめん、よ、俺が、無茶したから……」

「ば、馬鹿、何言ってんだよ! そんな今にも死ぬみたいなこと言うなよ!」

「そ、そうよ! こんなことで、嫌だよそんな……」

「ごほっ、泣かないでく、れ、自分の身体ぐらい、判る。今までありが、とう、俺知ってたんだ、お前、マリエルのこと好きだったろ? 俺が死んでもふたりで、なかよ、く」

「お、お前馬鹿! こんな時に何言って!」

「そうだよ! それに私が好きだったのは、ソード、貴方だったのに、そんなこと言わないでよばかぁあぁあぁあ!」


 周囲の魔導士から涙混じりの声が聞こえてくる。なんか思わぬところで自分の気持ちを仲間に打ち明けられて、にも関わらずあっさり振られた弓使い君から哀愁が漂ってる気もしないでもないけど。

 

「うほっ、死ぬ間際にまで仲間を想っての発言、俺こういうの弱いんだよ」

「畜生! 本当に、本当にどうしようもないのかよ!」

「はいはい、ちょっとどいてね」


 う~ん、なんか最後の別れって場面で空気読めてないかなとも思ったけど、流石にこれで何もしないのも後味悪いしね。


「おい、こいつ今日ギルドに来たばかりの新人じゃねぇか」

「おいおい、こんな状況で何をする気だ? 薬でも持っているのか?」

「うんにゃ、薬は持ってないけど――回復魔法を使います」

「あ! そうかそれがあった!」


 俺の発言に、エクスが思い出したように声を上げて、だけど、周囲の魔導士はざわめきだした。

 こんな時に何言ってんだこいつ? みたいな目を向けてくるのもいる。


「ちょっとあんたいい加減にしな! こんなときにくだらない冗談言ってるなら私が容赦しないよ!」


 怖いよチャーミーさん。本当普段のぶりっ子が意味わからないぐらいだよ。 

 とは言え――


「まあいいから、見ていてよ。さぁ、その傷全部回復!」


 俺はそのソードって少年に向けて回復魔法を施してやった。すると彼の身体が淡い光に包まれ、そしてその傷も出血も見る見るうちに塞がり止まり、そしてあっという間にまるで怪我なんてものが全くなかったかのように、綺麗な体に戻っていった。


「マリエル、その気持は嬉しいし、俺だってお前の、でも駄目なんだ、俺、もう、判ってるから。もう長くないって、もうさ、身体の痛みもすっかり感じなくなってるんだ。まるで怪我なんてしてないかのように――」

『…………』


 しーーーーーーん、と微妙な沈黙が訪れた。うん、ソード君、涙までこぼしてるところ悪いんだけどさ。


「いや、その怪我もう治ってるぜ?」

「……はい? いや何を言って――」


 と、言いつつガバリと上半身を起こしたソードである。うん、大丈夫そうだね。後遺症もなさそうだし、見た目普通に元気元気って感じだよ。


「……へ? あれ? 俺、怪我、え? どうして?」

「うん、だからね。俺の回復魔法。良かったね、傷痕も残ってないみたいだし。これで今までどおりだよ」


 俺の説明に目をパチクリさせるソード少年。だけどその直後、一拍置いて――


『う、うぉおおぉおぉぉおおぉおぉおおぉーーーー!』


 歓声が起きた。うん、凄い近かったからかめちゃめちゃうるさく感じる。耳痛いよ。


「……まさか、本当に回復魔法が使えるなんてチャーミーおっどろきです~」

 

 そして受付嬢のしゃべり方が戻った。うん、さっきまでめちゃめちゃ切れてたよね?


 とは言え、その後はよくやった、だの、若いくせにすげーぜ! だの、ウホッ! いい男だな! などと讃えられ肩や背中を叩かれやんややんやの大騒ぎ。


 とにかく回復魔法が使えるということも相当な衝撃だったらしく、どうやって覚えただの、師匠がいるのか? だの聞かれたけど答えようがないからな~とりあえず秘密ってことにしておいた。


 そしたらわりとあっさり引き下がってくれたけどね。エクスの話だと、特殊な魔法を使う魔導士が自分の魔法について明かさないのは別に珍しいことじゃないらしい。


 なるほどね。まあ俺の場合どう説明していいか自分でもわからないだけだけど。


「そ、ソード、助かって、良かったな」

「う、うん、そうだね。本当に良かったわ」

「あ、ああ、ありがとうな。あ、貴方も本当に助かりました」


 そう言って頭を下げてくれた三人だけど、なんか凄いギクシャクしてるな。もう死ぬと思ってぶっちゃけてたせいか、いざ助かるとどう接していいかってところかね。


 まあでも、これでお互い腹を割って話せればより一層絆が深まるかもしれないし。うん、ごめん凄い他人事です。後は三人でなんとかしてよ。


「でも、やっぱり貴方の回復魔法というのは凄いわね。あれ瀕死の重傷だったのに、完璧に治しちゃうんだから」

「うほっ、確かに凄いな、回復魔法というものがあったころにも驚きだけど」

「クー! クー!」


 何か皆から褒められると少し照れるな。クーもなんかぴょんぴょん跳ねて自分の事のように嬉しそうだし。


「ヒール君、ちょっといいかな~?」


 うん? 何かわざとらしい舌っ足らずな口調でチャーミーさんが話しかけてきたな。ニコニコとしたその笑顔が逆に怖いのですが。


「実はね、ヒール君の話をしたら、ギルド長が是非話をしたいって。だから二階のギルド長室まで行ってきてもらってもいいかな? きゃはっ」


 ウィンクしてきて俺にそんなことを申し付けてくる。どうやら登録の続きはその後でということなような。


 う~ん、それにしてもギルド長か……流石に行かないわけにもいけないし、でもどんな人だろうな?

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