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第二章 ボーンヘッズとアンチェインド ①

二章パート1です

第二章 ボーンヘッズとアンチェインド ①

 超兵器IMAGNAS。ある一人の天才の出現により完成したその兵器は世界から戦争を取り除いてしまった。

 核を越える威力を持ちながら、効果範囲を自在に設定することができ、狙いは町ひとつから大陸ひとつまでと幅広く適用可能。

シェルターや防壁はまるで意味をなさず、年齢、性別、IDの有無で攻撃対象を選別することも可能。極め付けなのはその入手難易度で、町工場程度の技術力さえあれば、だれでも簡単に作り上げることができる。

 そんな兵器が完成されてしまったため、世界中のあらゆる国家、武装勢力はそろってこれを作り上げ、備え付けてしまった。

 ある団体がIMAGNASを用いれば、別の団体から報復および粛清がなされる。

その完成された性能と手軽さ故に、IMAGNASは最強の抑止力として機能。

世界から戦争と言う概念を吹き飛ばしてしまった。

 それゆえに、軍需産業は軒並みあおりを受け、さらに軍隊への入隊によって支えられてきた下層階級の経済は崩壊。

失業者および暴動を誘発し、治安は大幅に悪化した。

 そこで生まれたのが、僕達アカデミーズだ。

 ヒーローの一人で資産家のヘリング・エースが、自身の財産で設営したヒーロー養成機関。超能力を持って生まれた僕たちを各家庭から勧誘し、ヒーローとして活躍できるよう、日夜訓練を施す施設だ。

 その中で、僕はようやくコードネームをもらい、一線で活躍することができるようになった。

 フレイムスロアー。炎を投げかける者。

 いつかエースのようにこの名を世間に知らしめて、大きな犯罪と闘っていく。それを夢見て、僕は今日も与えられたミッションをこなし、犯罪者たちと闘う。


「今日のミッションは、他の能力者との交戦が予想される」

 正式にアカデミーズとしての活動を始めて数週間。

その日の指令はいつもと少し変わっていた。

「能力者の犯罪と言うことですか?」

 緊張した面持ちでレインメーカーが問いかける。

「うむ。いつも以上にリスクが大きい戦いになるな」

 この場に集められたのは三人。

 レインメーカー、ブリンク、そして僕、フレイムスロアー。

残り二人は別のミッションで不在。仕事は適材適所に割り振られる。

常にチームで動くというわけじゃない。

「敵の詳細は?」

「人数は不明だ。数は少ないだろうと予想しているが……

対峙するのは、ボーンヘッズ。ナスティー・シャーロット率いる犯罪者集団だ」

 ナスティー・シャーロット。その名を聞いただけで心がしびれた。

不謹慎だけど、浮足立つ自分を自覚してさえいる。

メディアで大々的に取り上げられる、超大物の犯罪者。

黒魔術を使って人々を恐慌に陥れる魔女が、ミッションターゲットに名を連ねている。

「ナスティー・シャーロット本人と闘うわけではないんですね?」

「当然だ。彼女のような能力者が表に出てくるのであれば、それはエースに任せる他ない。あくまで、ターゲットは彼女の下部組織だ」

 下部組織。そんなものが存在するとは今の今まで知らなかった。

これまで彼女の行ってきた犯罪の規模を考えれば、あって当然なものではあるけれども。

「下部組織の人間も、能力を使うのですか?」

「中にはそういう者もいる。彼らは……」

「黒魔術を使うんですか⁉」

 つい口を挟んでしまった。

発現を遮られた教官が、渋い顔をしてこちらを睨む。

「浮つくな、フレイムスロアー……。質問の答えはイエスだ。

と言っても、実際の黒魔術じゃない」

 興奮しているのを見抜いたのか、教官は釘を刺してきた。

「黒魔術に見えるような超能力、ということだ。

そのイカサマの魔術で、やつらは信者を増やしてきた」

 ブリーフィングルームのスクリーンに、ビニールのパックに封入された琥珀色の液体が映る。

「その結果が、これだ。トキシックリーパ。

奴らが信者を労働力として作り上げた、非合法薬物。

効果の詳細は不明だが、報告によると、幻覚、感覚麻痺、精力増強、一時的な筋力増加などなど。広まれば甚大な被害を生むことは確実だ」 

画面が切り替わり、巨大な建造物の写真が写った。ドーム状の建物で、ところどころ剥げている反射板が、日光を受けて輝いている。

「生成するには技術と施設が必要。奴らが工場としているのが、ここだ。

トール製薬七十七番プラント。倒産した製薬プラントをひそかに占拠し、秘密裏に製造を行っていた。我々の調査チームも発見するまでにずいぶん苦労させられたものだ」

 画面上に、建造物の見取り図が次々に表示された。

脳内に収められたメモリーカードの起動して、写った情報をインプット。

終わり際を見計らって、教官が指示を告げた。

「諸君らのミッションは、この施設の壊滅。および、犯罪者集団の確保だ。

なお、我々だけではリスクが高いと判断し、このミッションは別組織の能力者と共同で行う」

 別組織の能力者? 初耳だ。

しかしレインメーカーもブリンクも、特に意外そうな顔はしていない。

「協力する組織はアンチェインド。手荒な連中だが、戦闘力は確かだ。

彼らのうち二名が、作戦に参加することとなった」

 アンチェインド? アカデミーズと同じように、ヒーロー養成所が他にも存在するのだろうか。

「ブリーフィングは以上だ」

 疑問を押し込めたまま、僕は二人とともに、目的地へと向かった。


「アンチェインドっていうのは、一体何なんですか?」

 郊外の廃プラントへ向かう道を歩いていく中、目的地まであと少しというところで、とうとうこらえきれずに口を開いてしまった。

「スーパーヒーロー、ジャンゴの下部組織だよ。

うちみたいな、まだヒーローになってないやつで構成されている」

 答えたのはブリンクだ。それにしても、ジャンゴ? 

「あの、ジャンゴっていうと、やっぱり……」

「ああ。手段を選ばない過激派ヒーロー。

犯罪者の天敵にして、人気最下位の歩く天災。あのジャンゴだ」

 ジャンゴ。恐ろしいヒーローだ。

ヒーローでありながら法を破ることをいとわず、悪は絶対に許しはしない。

車上荒らしを追いかけまわして、屋台三軒とショーウィンドウを破壊し、犯人含め、計十三人を病院送りにしたこともある。

とにかく気性が荒く、恐ろしいヒーロー。それがジャンゴだ。

「見えて来たぞ」

 プラントを見渡せる丘の上に、人影が二人立っているのが見える。内心不安でいっぱいだ。あの荒くれ者ジャンゴの下部組織。一体どんな人が出てくるか。

「おおぉ……待たせてくれんじゃねえかよぉ……」

 予想以上だ。振り向いたその二人は、見るからに異様ななりをしていた。

 片方はレジャージャケットを羽織り、インナーにはところどころ鎖を編みこんだようなとげとげしいデザイン。

右腕には、どんな意図があるのか、麻布をぐるぐるに巻き付けている。

 もう片方は上半身が裸で、華奢な体に似合わない地面へ引きずるほどの巨大な斧を握っている。首から下げたヘッドセットには、当然のように髑髏のマーク。長髪で、前髪の隙間から覗くひとみは、毒々しい緑色をしていた。

二人とも、体のあちこちから、鎖がじゃらじゃら垂れていた。

「あの、時間まではまだ、後少しありますけど……」

 おずおずと声を上げてみるも、その眼力で言葉は力を失ってしまった。

「アカデミーズのレインメーカーだ。こっちはブリンク。

そんで、こいつがフレイムスロアー」

 レインメーカーがさりげなく肩に手を置いてくれた。

ふっと息がこぼれ力が抜ける。

「そうか……俺はマグネスマッシュ。そんでこいつが」

「フルスイング」

 上半身裸の男が、かすれた声でそう告げた。

「狂信者とか……やりづらいぜ」

 今日の作戦についてだろう。

レザージャケットのマグネスマッシュが、ボソッとこぼすのが耳に入った。


 戻ってきた。赤茶色をした古いアパート。ストレイドッグのアジトに。

「おかえり、エリック」

 声は空気の振動ではなく、頭の中にこだまするイメージとして挙がった。

精神感応。所謂テレパス能力だ。

「ただいま、ヘッドセット。どこにいるのかわからないけど」

 返答は声に出して行う。相手はテレパス。シンプルなやり取りなら、頭の中だけで完結させることが可能だ。だが、俺は彼女に言葉を投げかける時はいつも、実際に口に出して言うようにしている。

「ここ」

 言葉によるメッセージの後に、さながら網膜に映っているかのような鮮明なイメージが浮かび上がる。思い思いに品物を持ち寄って、生活スペースを作ったアジト。その中央に位置する暖炉のイミテ-ション。

 これがヘッドセットの視界だとするのであれば、彼女はソファーに腰掛けていることになる。

「あれ?」

 ところが、実際に暖炉のそばに近づいても、彼女の姿は見えなかった。ヘッドセットは小柄だ。どこかに隠れているのだろうか……

「ばあ♪」

 背後からの不意打ち。クローゼットに隠れていたのだろう。

飛び出してきたヘッドセットが背中から抱き着いてきた。

「やるじゃないか」

 思わず、笑みが零れ落ちる。三か月前の彼女であれば、考えられない反応だ。

「すごく驚いたみたいだね。エリック。心拍数が上がってる」

「テレパスってのは、不随意筋の動きまで把握できるのか? 自律神経まで?」

「ううん。直接聞いてるの」

 これだけ密着していれば、それが一番自然だろう。

それにしても、本当に驚かされた。

「ずいぶん上達したんだな。言葉」

「たくさん勉強したよ」

 証拠と言わんばかりに、ボロボロになった教科書を見せつけてくる。

四六時中、肌身離さず持っていたのだろう。

「すごいな。勉強ってのは辛いものだとばかり思ってたけど」

「そうでもないよ。考えたり想像したり、前よりもずっとできることが増えた」

「へえ」

 三か月前。ストレイドッグに来た当初の彼女には、言語という概念はなかった。音や景色を頭に送り込むタイプのテレパス。それがヘッドセットの能力だ。どういった経緯でそんな能力が生み出されたのかはわからないが、彼女は意思疎通の手段として、言語を使うという選択肢がなかった。

 音や光による、直情的で要領を得ないコミュニケーションを問題視したレジスターによって、俺は彼女への教育を任されることになった。

 と言っても、数回教科書を読んで聞かせた程度だけれど。

「言葉って、とっても不思議」

「そう言えば、テレパスで言葉を送るときは、どういうイメージをしてるんだ? 文字を画像として思い浮かべるのか?」

「ううん。言葉に明確なイメージはないの。声や文字なんてのは、言葉が表に出る時にたまたま人間の感覚器官に適応するように形を歪められたものに過ぎない。言葉っていうのは、情報を含有するシリアルな記号の集合で、パラレルに把握できる音や光とは持っている性質がだいぶ異なる」

「そ、そうか」

 たった三か月でずいぶん饒舌になったものだ。何を言っているのかまるで理解できない。

「それで、エリック。今までどこにいたの?」

 だしぬけに、そう尋ねてきた。

「レジスターの所だ。新しい仕事を任されたよ」

「そう」

 伝わってくるのはただ純粋な言葉だけなのに、裏に隠された息遣いまでも感じ取れる。彼女がテレパスであるからだろうか。そのアンニュイな相槌は、己のした『問いかけるという行為』の無意味さを思ってのものかもしれない。

「エリックはあの人のことをどう思ってるの?」

 聞くまでもない。テレパスである彼女には、すでに答えが分かっている。

「このチームのリーダー。俺たちのボス」

 しかし、そんな彼女に対して、口から出る言葉で返す自分もいる。

「ただ、それだけだよ」

全て手の内をさらけ出した上での、無意味な嘘。

「あの女。私達のことを便利な道具としか思ってないよ。前は、自分もこっち側の人間だったはずなのに」

「そう思わないとやってられないのさ。彼女だって人間だ」

「ふーん」

 顔を覗きこんでくるヘッドセットの瞳を無意識に避けてしまったのは、決して彼女がテレパスだからと言うわけではないと思う。

「それでも、彼女のことが好きなんだね。一人でギャングの事務所に行って潰して来いって。しかも他の能力者が出てくる可能性もあるって、そんな仕事を渡されたのに」

「ああ。もう行かなきゃ」

 立ち上がろうとすると、手を掴んで引き留められた。

「ボーンヘッズ……強いの?」

「さあな。彼女の読みが正しければ。さほど苦戦はしないはずだ」

「信頼しているんだね」

 手が離れる。

「エリック。ちゃんと帰って来てね」

「心配するな。大した相手じゃない」

 心が読める彼女に、俺はただ残酷な言葉で答える他なかった。


「作戦は?」

 正面の入り口。プラントは日差しを受けて、長い影を伸ばしていた。

「正面突破だ……死ぬまで追いかけ、叩き潰す」

 レインメーカーの問いに、マグネスマッシュがドスの聞いた声で答える。

 彼が顎で指すと、隣に立つフルスイングが、巨大なヘッドホンを耳に当てた。わずかに空いた隙間からデスメタルのシャウトが漏れる。

 小刻みにリズムを取りながら、彼は自身の獲物である巨大な斧を引きずり、扉へと歩いて行った。

「離れてろ」

 マグネスマッシュの指示に従い、僕ら三人は距離を取った。

離れ際に、フルスイングから聞こえる怪音。肩の辺りから、ねじを巻くようなちりちりと言う音が聞こえてくる。そして、

「わっ……!」

 一瞬で、鋼鉄の扉はズタズタに引き裂かれた。破壊に対して、音が遅れてやってくる。鉄と鋼がぶつかり合う重苦しい重低音。そして原因不明の甲高い破裂音。インパクトの瞬間は、まるで視認できなかった。

「なるほど。だからフルスイング」

 隣でブリンクがしたり顔で頷く。その言葉を受けて初めて、僕は扉が斧の一撃を受けて破られたのだということを理解した。

「進むぞ」

 マグネスマッシュはこともなげに、僕らに前進を促した。

「暗いな」

 インフラが通っていないのか、待ち受けていた通路は思っていたより薄暗い。時折隙間から差し込む日光が舞い上がる埃を照らしだす。本当にここで違法薬物の生成が行われているのだろうか。あまりにも閑散としすぎている。

「どこへ行く」

 マグネスマッシュがブリンクを呼び止める。彼は通路の右側、冷たい鉄の壁の前に立っていた。

「あの位置は」

 レインメーカーの言葉で思い出した。即座にインプットされたマップを開く。

「おい……どういことだ」

 後を追おうとした途端胸倉をつかまれた。マグネスマッシュが凄む。

「か、隠し通路です。製薬会社がかつて使っていたころに、違法薬物の研究を行っていたラボに通じています」

「ほう」

 斧を引きずりながら、フルスイングもやってくる。壁を調べていたブリンクが、振り向いた。

「ロックがかかっているみたい……だ⁉」

 間一髪のテレポート。ブリンクがいた辺りの空間を通過し、フルスイングの斧が壁面に叩きつけられる。

 引き抜かれた斧に壁はそのままくっついてはがれ、オレンジのライトで照らされた秘密の通路が現れた。

「おい! せめて一言合図か何かあってもいいだろう!」

 ブリンクの抗議を受けても、フルスイングは素知らぬ顔だ。そもそもあのヘッドフォン越しに声が届いているかどうかすら怪しい。

「とにかく。先に行こう」

 アンチェインドの振る舞いに絶句しながらも、レインメーカーが先を促した。


「やけにだだっ広い所に出たな」

 細い通路の先に通じていたのは何も置いていない部屋だった。倉庫か何かだろうか、リノリウムの床に、青い照明が反射する。奥方向に扉が二つ。

 空気を供給するためのダクトが、部屋の四方に備え付けてある。

「ドアが二つあるな……どっちに行けばいいんだ? 優等生さんよ」

 ドスの効いた声でマグネスマッシュが問いかける。

 通路の発見でミッションの主導権を握れなくなったことへのあてつけだろうか。いずれにせよ、アンチェインドは評判以上におっかない連中だ。

「えっと。シャッターの方は運搬口に通じているから……敵の傾向からすると……」

 どっちだろう? おそらくまだ薬の製造を行っているはずだから、運搬口の方ではないと思うけど……。

「いや、もういい。わかった」

 思考はレインメーカーに遮られた。声にただならぬものを感じて、はっと正面に顔を上げる。

「向こうから出迎えてくれるとはな」

 正面の扉。シャッターではない赤いドア。それがいつの間にか開かれている。向こうに立つのは複数の人影。ベージュ色の表面。裸なのか? 

 詳細は分からないけど、一つはっきりしていることがある。

「銃を持っている……武装してるぞ!」

 ブリンクの声が引き金になったかのように、室内に銃声が響き渡る。レインメーカーは水の防壁を展開。ブリンクは跳躍で狙いを逸らす。射線に入ることを恐れて真横に跳んだ僕の背後では、マグネスマッシュがフルスイングの真ん前で、右手を前に掲げていた。

「一体何を?」

 あれだけの銃撃を受けてなお、彼の体は微動だにしていない。

どういうことだろう。ガンメタルのような、硬質化能力だとでも言うのだろうか。

 異常性に気づいたのか、敵も銃撃を止めた。硝煙立ち上る銃口の前で、彼は伸ばした右腕を真横へと振り払った。

「ふん……こんなものか」

 かんかんかん……。立て続けに何かが床に零れ落ちる。薬莢? いや違う。

振り払った彼の腕から払い落とされるのは、先ほど発射された銃弾だ。

 そのまま、マグネスマッシュは腕を振りかぶった。麻袋で覆われた右手は、今や張り付いた銃弾で、訛り色の歪なグローブと化している。予備動作を悟った敵は再び銃を構えるが、彼の拳の方が早かった。

「おらぁ!」

 明らかに加減した威力ではない。一歩の踏込で敵の眼前まで近づくと、鉛のグローブは手前三体を巻き込み、後ろに待機していた敵ごと、水平に吹き飛ばした。

「ちょっと! そんなことをしたら死んじゃいますよ!」

 制圧よりも、確保優先。繰り返し教えられてきたこの事柄が、彼らにはまるで頭に無いらしい。

「犯罪者にかける慈悲はない……それに見ろ。こいつらは人間じゃない」

 砕け散った手足の破片が、マグネスマッシュの足元に転がっていた。木だ。その腕は、木彫りの腕に金属の関節を設けて作られていた。

「マネキン……」

 仲間が破壊されたことを気に止める様子もなく、再び敵は攻撃を開始した。

 マグネスマッシュから離れるように距離を取り、散開し、各々部屋に散らばった僕らターゲットに向かって引き金を引く。

「動力もなにもないただの木の人形が、何で銃を?」

 敵がこちらに狙いをつけてきた。引き金が引かれるが、弾は軌道を捻じ曲げられ、中央で突き上げられたマグネスマッシュの右腕に引き寄せられる。

「操作している奴がいるんだ。そういう能力」

 銃撃は無意味と悟ったか、敵は接近戦に持ち込むことにしたようだ。飛び掛かってきたマネキンに対して、対空の肘鉄で迎撃。右肘は胸を貫通したが、痛みを感じないのか、敵は両手を振り回してそのまま攻撃してきた。

「クソッ、離れろ!」

 マネキンの一撃は想像以上に重たい。このままでは意識を持って行かれる。

 何か無いのか? 何か策は……。

「そうだ」

 ふと、右肘を支えている左の手の平が見えた。爆破する? この近距離で? それだと自分も爆風に……

「いや、出来る!」

 左の手の平に火球を作りだし、能力を部分的に解除。

「コントロールだ」

火球を覆うエネルギーの膜が破れ、そこからまっすぐ炎が飛び出す。シンプルな燃焼反応で、僕に掴みかかっていた腕は焼け落ちた。

「やった……」

 飛び火した部分を手で覆い、熱を閉じ込め消火する。

「裏で隠れてこそこそするのが強いんだ。ボーンヘッズの連中はな」

 傍らにテレポートしてきたブリンクが告げた。テレポートを繰り返し、マネキンに蹴りを入れていたが、敵は止まらずこっちに向かってきている。

「ダメだ。俺はこいつらと相性が悪い。

痛みを感じねえしひるまねえから、蹴りいれるだけじゃ倒せないんだ」

「大丈夫です。僕が何とかします」

 水平に手をまっすぐ伸ばし、さっきと同じ要領で炎を放つ。

 爆風を一点に集中させるやり方は、おおよそコツがつかめてきた。

 反動で狙いがそれそうになる手首を抑える。視界を塞いでいた炎がはれた時、そこに残っていたのは燃えカスの炭だけだった。

「大体片付いたか?」

 部屋全体に散らばる木片。フルスイングとマグネスマッシュの残した暴力の爪痕が、その威力を訴えかけている。あらかた倒してしまったか――

「まだだ」

 新手のマネキンが赤い扉の奥に現れる。今度は銃を所持していない。握っているのは、木製の棒。千切れた椅子や机の脚を得物にしている。

「キリがねえな……」

 マグネスマッシュが動いた。赤い扉を潜り、待ち受ける敵へと殴りこんでいく。

「このままじゃらちが明かない。俺たちも行こう」

 横たわるマネキンを蹴倒しながら、暴力の渦中へと飛び込んでいく。

「下がってください!」

 マグネスマッシュは素直に引いてくれた。道が開く。手の平の中の火球が、薄暗い通路にまばゆく光る。投擲。

 敵中心部に到達したころを見計らって、能力を解除する。

「ふん。流石はヘリングエースの子飼いだな。」

 爆風で吹き飛んだマネキン達を見て、マグネスマッシュはつぶやいた。

「今……何をやった? どういう能力を持っている?」

 値踏みするような目を向けて来るが、さほどまでの威圧感はない。

 認められた、ということだろうか。

「えっと。僕の能力は体表面からキネシスの膜を作ることです。基本的に全身に対して行えますが、精密な動作ができるのは手の平だけです。キネシスの膜は熱運動を閉じ込めて、エネルギーを逃がさず増幅させることができます。このガントレットには水が入っていて、水に熱を付加して水素と酸素に分解させます。その後能力を解除することで閉じ込めた熱エネルギーを放出させ、プラズマ状態から水素と酸素を反応させて……」

「長い……簡潔にまとめろ」

「水を爆弾に変えることができます」

「よし」

 視界内に動いているマネキンは無し。爆発の後を見計らって、レインメーカーが近づいてきた。

「補給だ。腕を出せ」

 彼の肩に浮かぶ水の塊に、手首ごとガントレットを潜らせる。弁が設けられたガントレットのタンクは、これだけで簡単に水を補給することができる。

「……これからどうする?」

「奴ら、この奥からやってきた。能力の詳細は分からないが、マネキンに命を吹き込んでいる奴は、たぶんこの奥にいるはずだ。もしいつでも能力を発動できるなら、あらかじめマネキンを施設のあちこちに隠しておけばいい。恐らくマネキンを動かすためには、何か下準備が必要なはずだ。マネキンの近くに立って行わなければならない下準備が」

 レインメーカーの説明は、筋が通っているような気がした。

「敵がどんな野郎だろうと……とっ捕まえてぶちのめすだけだ」


次で二章は片が付きます

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