私が彼女と、あのヘンテコなサークルに出会うまでのイントロダクション
第二外国語選択でスペイン語を選択したが、まさかここまで理解に苦しむものだとは思っていなかった。「アディオス!」と高笑いしていればどうにかなるだろうと高を括っていた私は阿保である。間違いない。
桜の花が散って若葉が芽吹き、皆が徐々にキャンパスライフにおける目標を明確にしはじめる頃…ある者はサークル活動に身を捧げ、ある者は異性と仲睦まじく構内を並んで歩き、またある者は日夜アルバイトに精を出していた。
しかし私は居眠りしたくなるような暖かい日光を受けながら公園のベンチで眠りこけ、居眠りしたくなるような講義を聞き流し、居眠りしたくなるようなのんべんだらりとした生活を送っていた。
西語もわからん。コンパにも誘われん。労働に勤しむつもりもない。
まわりが気の合う仲間を見つけ有意義な学生生活に身を投じていく最中、我が隣にいるのは中学時代から腐れ縁というなんのありがたみもない鎖でがんじがらめにされた舛花という友人ただ一人である。
因みに友人というのは舛花が言っているだけで私自身は彼のことをいざという時には生贄として機能するであろう蝋人形くらいにしか捉えていない。
そんな事を言うと「なんて人だ、中学の時はあんなに僕をつけ回していたくせに」と指を指してくるだろうが、私はしょっちゅう鼻血を噴き出して卒倒していた彼をつけていたのではなく、舛花が下校時にストーカー行為を働いていた女子を守るために仕方ないし彼のみすぼらしい後ろ姿をつけていたに過ぎない。その女子に取り入りたい気持ちが全くなかったのかと聞かれればそれはどうだろうか。
話が逸れてしまった。
身も蓋もないことを言ってしまえば、私はこの入学間もない朽葉色をした若葉の季節に、運命的な出会いをする。
この話は異世界に飛ばされるでもなく、また異世界から侵略者がやってくるでもなく、魔王もいなければ勇者も出ない。
私が出会った奇怪、霊妙の数々と、私を取り巻く人々の話である。
サスペンスかと思えばハードボイルドに変化するやも知れぬし、ホラーかと息を飲めば恋愛小説に様変わりすることもある。
誰のどういった話なのかはあなたが決めればいい、安っぽい寓話だと鼻で笑うもよし、異世界ものに少し飽きたので息抜き程度に読むもよし、ハードボイルドサスペンスホラーラブコメと位置づけるのもいいかも知れない。
どこにラブやコメディが含まれているのだと憤慨するのも大いに結構。
さて、ではまずは我が六畳一間に、中学から切っても切っても驚異の再生能力ですぐに繋がり、最早絶縁は不可能と思われた非常用供物、舛花が訪ねてくるところから話そう。
これから描く。
まだなにもない。
私と、彼女と、あのヘンテコなサークル。