4.遊園地デート?(3)
「うわああぁ・・・高いー・・・」
「そりゃあ、文字通り風景を『観覧』するためにあるアトラクションだからね。色んなものが見渡せないと」
説明すると、絶叫マシンを連続で回った挙句遂にレノが音を上げ、急遽一旦観覧車の中で一休みしている・・・という状況であった。
体力というか適応力には自信があったレノであったが、いやはや、やはり若さには勝てない。
「すごーい。此処って、こんなに広かったんだ」
ワンダーランド全体を俯瞰しながらはしゃぐ彼女を見て、レノは少し申し訳ない気分になった。
「・・・ねえリン」
「ん?」
「やっぱり、ミヤビが居ないと寂しい?」
「へ?」
凛は最初、思い切り不思議そうな面持ちをしたが、すぐレノの意図を読み取ってくしゃっとなった。やっぱり、利発な子だ。
「・・・レノは解るんだ」
「それはね。ここ数日、オレはずっとリンを見てたから」
「そっか・・・。それだけ、迷惑かけてたものね」
レノは確かに気付いていた。絶叫マシンを巡っている間も、カフェで超巨大パフェを頼んでそれをわずか五分で平らげた時も、凛は何処かで彼を探していたことを。
凛はえへへと頬を掻いて白状した。
「・・きょうは、出来るなら『三人』で回りたかったの。雅も、一緒に遊んでくれるって、昨日約束してくれたの。でも、やっぱり・・・・・」
たのしくないものね、と。
あらあら。どうしよっか、と困惑気味に考えながら、レノは少女の頭を撫でた。
「ミヤビは、君のことが心配なんだよ」
「え?」
「多分、オレよりもね」
・・・レノもまた、昨日彼とある約束をしたのだ。
明日――詰まり今日は必ず凛を笑わせてやる、と。レノはいつも彼女の傍に居て彼女を守り、そして雅は伸びてくる魔手を消し去る、と。凛が純粋に遊園地で楽しめるように。もうあんなふうに泣かなくていいように。
「(本当に、不器用と言うか、なんと言うか・・)」
無論、それは凛には言わない。言えば――彼女はもう二度とレノ達と外に出ようとはしなくなるだろうから。
「・・・ん?」
不意に、空気が淀んだことに気付き、レノは顔を上げた。
「・・・れの?」
「ちょっと、静かに」
凛の口を指で塞ぎ、目を閉じて感覚を研ぎ澄ます。耳の奥が張り、震える。
「(・・・・・“異形”の気配・・・八つ・・九つ・・・・・これは、)」
レノが事態を悟ったところで、ドオン!という大きな音がして観覧車が揺れた。
「きゃっ」
「リン、こっち!」
ぎィ・・、ぎィ・・。まるで鯨の鳴き声のような軋みと共に、それはゆっくりと停まった。レノたちの乗る小部屋を頂上付近に残して。
「何・・・?」
凛が恐る恐る周りを見回す。レノは舌打ちをした。
「まさかここまで派手に来るとはねえ・・」
「へ?」
「とにかく、まず降りるよ!」
「なに・・―――きゃああぁぁぁっ!!!」
思うに、それは彼女の今日一番の絶叫であったことだろう。だが無理も無い。隣に居る白い男ときたらいきなり観覧車のドアを蹴破るや否や、(凛を担いで)もの凄いスピードで鉄筋を足場に駆け下りて行ったのだから。(周りの人たちも「スタントの撮影?」とか言いながらぽっかーんとソレを見ていた)。
無事地上に生還すると、凛は胸を押さえてゼェゼェ喘いだ。
「ししし、死ぬかと・・」
「大丈夫死なせないから」
「な、な、アナタは一体ナニを・・・――――っ!?」
間も無くまた大地を食い破るような凄い音がした。さっきまで二人が乗っていたボックスが上から落ちてきたのだ。
「・・・ここで騒動を起こすのは、ちょっとマズイかな」
レノは瞬時に判断すると、また凛を荷物運びの要領で抱え上げた。
「レノ・・・!さっきから、ほんと、なんなの!」
「悠長にしてらんないから、説明は後で!」
ランニングからのダッシュ。空気抵抗を魔力で抑えて猛ダッシュ。
陸上選手もびっくりな人外のスピードに翻弄され、少女の切なる悲鳴が遊園地中に響き渡っていった。