4.遊園地デート?(1)
所はアトルリア帝国有数のテーマパーク『ワンダーランド』。
天気は快晴。温度も風の量もほどよく、不快指数はそう高くない。
だがカップルや親子連れなどが客層の主体となる中、その白黒の男二人と少女という組み合わせはいささか異様だった。前者の二人は基本的にこういうのほほんとした空間に身を置く人間ではないのだから、なおのこと。
「うわ、うわ、うわ!」
人の多さに感動したのか、それとも初めて見るアトラクションの数々に興奮したのか、凛はいつもの如く猪突猛進を始めた。しかし、
「待てい」
それは色々と教訓を積んだ黒い青年によって見事阻まれた。
「『勝手に走り出さない』約束だろ」
「むー・・・」
首根っこをつかまれたまま、凛はふくれっつらをする。
レノはパンフレットを開いて辺りを見回した。
「さて、タイムリミットは夕方五時。まず何しよっか」
「あれがいい!」
「あれ・・・って、まさかあれ?」
凛のひとさし指の先、なんだかよくわからないが、ゴンドラに乗った人間がぶらぶら上下に揺られながら高速回転する感じのマシンが煌々と存在していた。
「・・“タイダル・ウエーブ”絶叫度☆☆☆・・・・またイキナリ来たね」
「おーし、れっつらごーっ!!」
腹立たしいタイミングで「俺パス」と告げてレノの肩を叩く雅。凛に引っ張られて一生懸命走りながら、あとで絶対に仕返ししてやる、と心の中で誓った。
***
「・・・人、いっぱいだね・・」
お目当ての絶叫マシンの前に出来た長蛇の列に圧倒され、彼女は唖然としたように言った。うん、それは極めて正しい感想であろう。
「そりゃまあ、これは此処の目玉の一つだからね。でもこうやって並ぶのも遊園地には定番というか、醍醐味というか・・」
「だいごみ、かあ・・・」
それで凛はきゅっとレノの腕にしがみついた。
「レノはちっちゃい頃、遊園地にはよく来たの?」
「うーん、行かなかったかな」
「ご両親は連れて行ってくれなかったの?」
「オレ、親居ないから」
「あ・・」
凛はうろたえて、「ごめんなさい」とうつむいた。
でも全然「ごめんなさい」なことじゃなかったんだけどな。まあいいや。しゅんとした態度も可愛いから(変態か)。
「はい笑顔笑顔。ほら、もうすぐだよ」
係りのお姉さんがマニュアル通りに「何人ですか?」と訊いてきたので、レノはニッコリしながら凛を抱き寄せ、「二人です」と答えた。さて、一体どのような関係に思われたことか。
「(援助交際、とかだったらちょっとシャレになんねーな)」
レノが何を考えているかなど露知らず、凛はわくわくどきどきと焦らすように近付く順番を待っていた。やっぱりこうして見ると、ただの十二歳の女の子にしか見えないんだな。
「かわいいよなあ・・」
「ん?なんか言った?」
「べつに、何も」
この子が楽しんでくれるなら、まあ、それでいいか。
爽快な悲鳴が聞こえてくる絶叫マシンの上方を見上げ、レノは独りごちた。
「さぁて、今頃みーちゃんは何してるかな・・・」