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闘病履歴9
黒い存在が離脱して行くのをMは感じ取った。
同時刻、テラスからMが月を見上げている。
空に浮かぶ半月。
その遮光がMを狂わす。
もう一人の自分が身体から離れて行く感触。
取り残された肉体は思わず待ってと呟くのだが、その制止は届かない。
離れた人格は勝手きままに動き出す。
全くの別人格であるもう一人の自分を、Mは全くコントロール出来ない。
ただ、それが黒い存在であり、憎悪の塊である事をMは知っている。
この現象が単なる幽体離脱でない事もMは承知している。
自己同一性障害に依る真正の別人格離脱なのだ。
その人格は明らかに肉体を持ち、離脱して行くのをMは体感しているのだ。
その肉体離脱は、他者の目には映らない。
でもそれはれっきとした、己の中にある別人格の肉体の離脱である事をMは認識して、疑わない。