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闘病履歴88
黒が悲痛な叫び声を上げた。
両親の愛情に抱かれて、彼女が幸福感絶頂の形になっている夢の中に、悪霊が忍び込んで来た。
夢の片隅に黒い点が現れ、それが少しづつ広がる染みのように大きさを増して行く。
怖じけづき、生き霊が逃げ腰になっているのを横目で見遣り、黒が喚いた。
「行きます!」
反動を付けた黒が黒い染み目掛けて渾身の体当たりをかましたが、いともたやすく弾き返され、黒はもんどり打って転倒した。
その時点で彼女の幸福なる夢は血みどろの悪夢に豹変した。
転倒した黒に染みから黒い二本の腕が伸びて行き、一本の腕が黒の首をわしづかみにして締め付け、もう一方の手が容赦なく黒に突きを繰り出し、袋叩きにして行く。
黒は絶叫を上げ、もがくが、悪霊の両腕は万力のように強く、攻撃の手を緩めようとはしない。
黒がもう一度悲痛な叫び声を上げた。




