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闘病履歴85
とりあえず逃げようと生き霊が言った。
眠っているMの夢に生き霊と黒は入った。
遊具が並ぶ児童公園。砂場で幼い彼女がスコップなどを器用に使い砂遊びをしている。それを母親が慈しむ表情をして見守っている。
生き霊や黒は背景に溶け込んでいて、母親と彼女の目には入らない。
行動の自由を得た生き霊が言う。
「彼女…の楽しかった過去の情景を紡いで…それに着色を施し…夢全体を明るく希望溢れるもの…にして行くのだ」
黒が言う。
「言わばメモリー回路に焼き付いた彼女の楽しい思い出を、写真のように現像するのですね?」
生き霊が答える。
「情けを以って安心感を…植え付けて…行くのだ」
黒が言った。
「成る程」
生き霊が夢の一点を指差し告げる。
「あそこに…黒い染みのようなものが見えて来た…あれは…悪霊だから…逃げよう」
黒が目を剥く。
「えっ、戦うのではなく逃げるのですか?」
生き霊が頷いた。
「あの黒さでは…力が違い過ぎる…逃げよう」




