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闘病履歴8
広がる心象風景は同じならば、生死に意味は無い?
真華は想いを巡らす。
人気の無い広大な森。天空には満月が浮かんでいる。
月光が届かない木の根本。幹にぽっかりと空いたほこらの中。
黒猫が一匹いて満月を見上げている。
寂しい筈なのに、黒猫は満月を慈しむように見つめ寂しさを感じない。
森全体が温かい心となり黒猫の寂しさを抱いていて、満月がそれを慈しみ照らし出している絵画としての心象風景。
月光の慈しみとの同一性に黒猫はいささか飽きていて、思わず欠伸をする。
丹念に構築した自分の心象風景。
この心象風景を壊されたくはないと真華は考える。
自己同一性障害は孤独を癒してくれる。
自然の風景との同一性。
日をめくるように天候が変わり、森は荒れ、月はその姿を隠すが。
そうなったら寂しさをしとねにして黒猫はまどろめば良いのだと真華は思う。
現実社会に飽きている。
そんな黒猫のアンニュイはあくびをするばかり。
でも死んだとて、この心象風景が広がっているならば死ぬ事に意味は無いと真華は思う。
そう真華は考えた。