闘病履歴73
自分の分身と話をしたいと願うMの渇望?
不意に食欲が失せ、Mは自宅に引き篭った。
思い出したように水だけを飲みながら、Mは自分の心を凝視する。
ひとけの無い薄暗い世界で、不安と孤独に苛まれながら、叫び声すら上げられない自分の心象風景。
死は手を伸ばせば届く隣り合わせに在るのに、食欲が失せたのと同時に、死ぬ気力もなくなってしまった。
ただ一つの熱望が頭をもたげている。
自分自身の分身と話をしたいと心から願っている渇望。
だが語り掛けても分身は応じない。
自分の意向など無視して、勝手気ままに出入りを繰り返している。
何故いきなり食欲が失せ、死ぬ気力も失せ、己の分身と会いたがっているのか、その理由は分からない。
自分の心の動きが掴めないからこそ、その不可解な部分を分身に尋ねようとしているのか?
そう自分に問い掛けるが、それにも答えは出ない。
分身と話をしたいという熱望が、死への誘いを遮断している。
それは生きる事への執着なのかと己に問うが、それにも答えは出ない。
自分の分身に会いたいと願う心を作っているのは、両親の自分を心配する愛情なのかと、Mは妄想を膨らませるが、それにも答えは出ない。
もう一度水を飲み、Mは分身が己の体に帰還する気配に目を細め神経を尖らせた。




