闘病履歴41
心貧しい構図だねと、拓郎君は言った。
拓郎君が言う。
「今は心が貧しい世の中だから、親自体が自分の愛情表現を金任せにして子供に伝え、子供の方は金に依って簡単に欲求が満たされ、それが当たり前となり、そこに感謝の気持ちは生じないからね」
真華が応じる。
「親の方も金で物を買ってやる事が心尽くしと言うか、愛の表現だという自覚は無いし。それを子供が感謝の気持ちで受け止める事も無いし。はっきりと言えばそれが愛の交換だという自覚は無いわけだよね。生活の中で当たり前に成りすぎちゃって、愛を見失ってしまっているからね」
拓郎君が言う。
「と言うか、金でしか愛を表現出来ない親を心貧しい奴だと子供は馬鹿にする始末で。それは金のやり取りを、心尽くしだと思えない自分の心の貧しさの反映であり、双方共に心の貧しさをキャッチボールし合っている状態だから、それが愛だとは、全く気が付かない心貧しい状況に陥っているんだよね」
真華が頷く。
「ある意味貧乏を体験出来る好機を、親の過保護で放棄しているし。従って物質的な豊かさの有り難みなんか絶対に分からないし。金に依る心尽くしの飽和状態の中で、僕、或は私は愛されていないんだと思い込むジレンマが生じるわけか」
拓郎君が頷き言った。
「貧しい時代には物のやり取りが即心尽くしとなり、皆それに有り難みを感じたんだよ。でも金満状態の今は有り難みなんか全く失せてしまったからね。畢竟心尽くしは地に堕ちてしまい、愛の交換という美名も消えうせてしまったからね」
真華がしきりと頷く。
「そして僕、或は私は親からも愛されていない一人ぼっちの惨めな人間なんだと思い込むんだね」
拓郎君が肯定する。
「そうだね。子供の方は金を稼ぐ苦労と言うか経験値が無いからね。心尽くしの有り難みが分からない心貧しい構図だね」




