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闘病履歴38
死んじゃ駄目だよと、真華は言った。
黒が断言する。
「君が死んだら、君の両親が悲しむ事は間違いない事実なんだよ」
黒の言葉に動揺するような感じで伽藍が上下に揺らぎ、オレンジ色の照明が明るくなったり、暗くなったりを繰り返した。
それは落下の前兆にも思え、白が固唾を飲んだ後言った。
「両親が悲しむから、死んじゃ駄目なんだよ」
啜り泣くように照明の明滅が激しさを増す。
それを注視しながら、黒が言う。
「君が僕達に投身自殺のイメージを見せ、僕らはそれを死ぬ程怖がっているんだよ。でも怖いのはこんな悪夢と言うか投身自殺のイメージを見せている君も同じだと思うんだ。だったら怖い事は素直に止めて、両親の為にも死ぬ事を断念すべきだと思うんだ」
白が息をつき、続く。
「何度も言うけれど、育ててくれた両親を悲しませちゃいけないと思うわ」
第三の目が言う。
「両親が悲しむから死んじゃ駄目なんだよ」
啜り泣きの明滅が止み、間を置いた後、容赦ない落下が始まった。
白が恐怖に金切り声を上げ、三人が落下激突し、悶絶したのを見計らうように、生き霊はいち早く真華の肉体から離脱して行った。




