闘病履歴213
表裏一体としてある悲しみと喜びの、悲しみの部分を取り除かないと喜びには辿り着かない矛盾が悲しいのかと、黒は言った。
第三の目に真華の領域を任せる形を取り、黒と白は真華の領域を逸脱し霊道に出た。
生き霊の遠吠えが耳につき、続いて子供の霊魂の遠吠えが呼応しているのを耳にしてから、二人は歩き出した。
とりあえず鈍い足取りで、生き霊の遠吠えを足掛かりにして二人は進み始めたのだが、白が奇妙な事を言い出した。
「ねえ、今遠吠えの拡がる先に子供達の遺体が累々と横たわるイメージが浮かんだよ。この遠吠えが遺体の葬送曲になっているんだ。でも…」
縦一列の前を歩く黒が尋ねる。
「でも何だよ?」
白が答える。
「でもその葬送曲はとっても寂しい感じで、子供達の遺体の数をいくら増やしたって、その寂しさは拭えないんだよ。でも寂しいから、遠吠えは葬送曲となって子供達を殺し続けているんだ。その矛盾が堪らなく悲しく聞こえたんだよ」
黒が言う。
「今は、あの子供の死に神の悲しみに同情を寄せている時ではないぞ。あの死に神は明らかに敵なのだし、この闘いを勝ち抜くしかないのだから」
白が言う。
「分かっているよ。そんな事は。でも凄く悲しい闘いだよね。と言うか、子供の死に神のもどかしい矛盾の悲しみと闘っているようだしね。第一子供の死に神との闘いは鈴の音に辿り着く必須項目であり、それって発想を変えれば、子供の死に神も鈴の音の一部であり、鈴の音の一部であるやり切れない悲しみと私達は闘い、そしてやはり鈴の音の喜びに辿り着こうとしているのだから、それって悲しいよね。堪らなく悲しいよね…」
黒が頷き言った。
「表裏一体としてある悲しみと喜びの、悲しみの部分を取り除かないと喜びには辿り着かない矛盾が悲しいのか?」
白が答える。
「そうだね。それが人間存在のどうしようもない矛盾寂しさと言うか、悲しいよね、本当に」
感慨深げな間を置き、黒が念を押す。
「今は生き霊の援護射撃のお陰で攻撃もされていない事にひたすら感謝しつつ、とにかく彼女を護り通す事だけに専念しよう」
白が答えた。
「分かった」




