闘病履歴204
だから僕は寂しくなんかないんだよと、子供の死に神は笑った。
子供の霊魂が続ける。
「レミング人類の自殺行は、その速度が上がるにつれ、死の恐怖は薄れて行くんだよ。死が死を増殖する無限ループの中で、死に対する恐怖は時間よ止まれの掛け声と共に永遠なる空間に張り付き、歓喜となり、永遠遡航して行くんだよ。それが自殺行の速さを作り出す原動力となっているんだ。天地を逆さまにひっくり返し、天から歓喜の雪が降って来るのを、レミング自殺行の群れはひたすら楽しんでいるのさ。それが死の歓喜なのだよ」
白が言う。
「死の歓喜に塗れない者だっているじゃない。それは愛ある正常なる感覚だと私は思うわ。違う?」
子供の霊魂が答える。
「違うね。それは行進を止めようとする狂気の傷口なのさ。そこに救急絆創膏のごとく核弾頭が着弾、起爆があり、その傷口を死となして癒し、死の歓喜の行進は再開するのさ。死の無限ループの遠吠えがその行進にエールを送り、行進は止む事の無い死の無限ループの中で、表が裏をなし、裏が表をなし、永劫性に裏打ちされた静寂なる生を形作り、それが死の歓喜を呼ぶ遠吠えとなって、再び死の行軍を作り出し、僕の寂しさを癒してくれるのさ。それは無上の喜びじゃないか?」
黒が言う。
「お前は狂っている」
子供の霊魂が答えた。
「有難う。僕は弄ばれ惨殺された時に、ライターの火で焼かれながら、このレミング自殺行の行進が見えたのだよ。僕の悲痛なる叫び声は僕をいたぶる犯人のエクスタシーを行進の足音に変えて、それが火の熱さをクールダウンさせたのさ。死の行進のライターの火の歓喜は僕に限りない安堵感を与えたんだ。それがこの遠吠えたる冥界の足音なのさ。だから僕は寂しくなんかないんだよ」




