闘病履歴145
遠吠えは呪いの遊戯になるから止めないで欲しいんだと、子供の霊魂は言った。
複数集まった子供達が姿を隠したまま四人に話しかけて来る。
その声は全く同質のもので、四方八方から聞こえるから、同一人物が移動して話しているように思えるのだが、時折声が二重に重なるので、複数いるというのが、何とか識別出来ている。
そんな有様だ。
複数いる子供達が同じ内容の事柄を回転しながら、まくし立てる。
「君達の遠吠えが猫の霊を退けたのではないのだよ。猫の霊は僕が遠吠えに近寄るのを邪魔したから封じ込めたんだよ。だからもう猫は君達を襲って来ないのだけれども、その遠吠えは面白いから止めないで欲しいんだ」
黒が尋ねる。
「遠吠えはうるさいじゃないか。面白いものじゃないと思うけれども」
子供の霊が答える。
「君達の遠吠えは僕の大人達への呪いを加速するんだよ。助けてくれと泣き叫んでも、助けてくれなかった大人達を呪う為の言わば餌になるんだよ。だから止めないで欲しいんだ。分かるかな?」
生き霊が言う。
「私の…遠吠えが…大人というか…人間…を殺す道具…になっているのか?」
子供の霊魂が答える。
「そうだね。さっきみたいに僕が遠吠えの真似をすると、少なくとも十人からの醜い大人達が死んでいる計算になるんだよ」
第三の声が言った。
「ちょっと待ってくれ。それならば君が遠吠えをすればいいだけの話しじゃないか。何も遠吠えの真似をする必要は無いじゃないか?」
子供の霊魂が答える。
「いや、猫の霊を封じ込め、君達の遠吠えを真似するからこその呪いなんだよ。だから遠吠えは止めないで欲しいんだよ」




