第九十九話 送られた物
次の日の朝は、とても慌ただしく始まった。
ゼンカイはミャウやミルク、タンショウと途中で合流しギルドに向かったのだが、そこには既にブルームとヨイの姿もあり、ギルドに入るなり、テンラクが上から駆け下りて来た。
そして、アマクダリ城に即刻向かうよう告げられたのである。
勿論これはテンラクも一緒であり、すでにマスターとヒカルも城に向かっているという。
いったい何があったのかは、城に向かう馬車の中で教えてもらった。
テンラクはブルームの情報をもとに今度の対策を考えようとしていたようだが、そんな折、なんと向こうの方からアマクダリ王宛に荷物が届いたのだという。
「全く。よりによってこのような……」
王室に入ると、国の宰相にあたる人物が一人、部屋を右往左往しながら、頭を悩ませていた。そんな彼の姿を眺めながら、王は深く玉座に腰掛け、悠揚とした様子を見せている。
この二人にして国を治めるものとそうでない者の格の違いが有り体にあらわれている感じもあるが、とりあえず一行はテンラクと共に挨拶を行う。
すると宰相はようやくこちらに気づいたような顔を見せ。
「なんだ。お前らか」
そう明らかな不満を露わにしてため息を吐く。
「ちょっとずいぶんな言い草だねぇ。こっちがワザワザ出向いてきてやったというのに」
ミルクが不機嫌を眉間の皺であらわし、宰相に向かって文句を言う。
その後ろにいたタンショウも両腕を振り上げ、気に入らないと訴えていた。
「ふん。別に私が頼んだわけではないわい。大体もはやたかが冒険者風情が何とか出来るってものではないというのに」
あからさまに腹の立つ男であった。
「呼んだのはわしじゃよ。彼らも今回の件に関係しとる。立ち会わせるのは筋じゃろ」
ゼンカイ達より先に来ていたスガモンが、フォローするように述べる。
「全く。別にこなくていいんだったら僕は無理しなくても……」
ブツブツと零すヒカルを、スガモンが睨みつけると、彼の肩がびくっと震えた。
「ところでアルカトライズから届いた物というのは?」
ミャウが尋ねると、宰相にスガモンが口を開く。
「そうじゃったのう。よろしければその届いた物をみせてやってはくれんか?」
スガモンがそう言うと、眉を寄せ、え? わざわざこいつらに? といかにも邪魔みたいに接してくるが。
「いいから早く聞かせてやるとよい」
王の一声で瞬時に態度を変え、宰相が、はい! ただいま! とソレらを持ってやってくる。
「届いたというのはこれだ」
宰相がそう言って、掌に収まる小箱程度の物体を出してみせる。色は銀色で、下半分は小さな穴が無数開けられていた。
「魔道具のサウンドバックやな。これに声を記憶しておけば、いつでも再生できるっちゅう代物や」
ブルームが、指で顎を擦りながら説明した。
「そうだ。更にはもう一つ届いたものもあるんだが、まぁまずはこれを聞いてもらおう」
そう言って宰相はサウンドバックを小さな丸テーブルの上に置き、手を翳した。その直後、魔道具のおそらくは穴のあいた箇所から、何やら声が発せられはじめる。
『やぁ! やぁ! やぁ! ネンキン王国の皆様こんにちわ! あぁ時間でいったらもしかしたらおはようかな? まぁどっちでもいいけどねぇ。
さて、おそらくはこれを聞いているのはアマクダリ王とその臣下達ってとこなんだろうけどね。
先ずは自己紹介。私は現在無法都市アルカトライズをまとめ上げている、エビス ヨシアスというんだね。
以後お見知り置きを~てね。だって皆さんとはきっとこれから良いお付き合いをしていかないといけないからね。
さて、用件だけど、これはもう大体予想付くかな? アマクダリ王の大事な大事な一人娘。エルミール王女。
今必至に捜索中だよね~? で~も~、ざんね~ん! 一歩遅かったねぇ。
でも大丈夫、姫様は今私の元で丁重に扱っているからね。
まだそれほど酷い目にはあってないから、娘思いのパパさんにも安心だよね。
でもね、この娘がこれからさきどうなるかは、王様しっだ~い~。
さてそれじゃあ本題だ。何、難しい事じゃないんだよね。
私が君たちに求める要求は唯一つ。ここアルカトライズを王国の正式な都市として認めて欲しいってことさ。
何せ今まではあくまで無許可の裏都市。何をするにも自由がないし不便だからね。
だからここアルカトライズを都市と認めると国中に公布して欲しいってわけ。
あぁ、勿論、だからってこの都市が真っ当になるって事じゃないよ。
あくまで都市の体制はこのままでって事でね。
期間は7日。それまでに結論出してよね。それじゃあ、アマクダリ王の懸命な判断に期待してるぞ。
あ、そうだこれは最後に、
「な、や、やめるのじゃ~。わらわを、わらわを誰だと思っておるのじゃ! へ、へんなとこさ――」
と、はいこれまで~。どう? 気になる? 気になるよね? まぁそのへんはもうひとつのプレゼントを見て判断してよね。それじゃあ今度こそ、アディオ~ッス』
どこか人をおちょくったような声はそこで途切れ、ソレ以上魔道具から何かが聞こえてくることは無かった。
「なんや。随分となめくさったメッセージやなぁ」
そういうプルームの口調も軽い感じはあるが、眇めた顔には、どこか腹ただしさのようなものも滲み出ている。
「全くじゃ! エブスじゃか、ダイコクさんじゃか知らんが、ふざけたやつじゃよ全く!」
爺さん、プリプリと怒こっているが名前は既に忘れている。
「ところでもうひとつのプレゼントと言うのは?」
すると、これだよ! と宰相が苦虫を噛み潰したような顔で、一つの絵を見せてくる。
「こ、これは?」
「おお! エルミール王女の絵じゃないかい! うむ、上手いもんじゃのう。じゃが、どうして鎖に繋がれておるのじゃ?」
不思議そうに述べるゼンカイの後ろから、ブルームが覗きこんできて。
「なんやこれは、『リアルスケッチ』やないか」
ブルームの言葉に、リアルスケッチ? とゼンカイが反問する。
「あぁそうや。これはビジュアラーというちょっと珍しいジョブのもんが使うスキルでなぁ。このスキルを使うと、今見ているものを正確に一点の狂いなく描写することが可能なんや」
「え? て、ことは?」
「あぁ。この絵は今の王女の状態をあらわしてるって事で間違いないやろな。このスキルは絵から独特の魔力の痕跡があるからようわかるわ」
ブルームの言葉に皆が感心してみせるが。
「ふん。なんだいそんなこと。我が王国魔術師達もそれぐらいすぐわかったわ。別に大したことじゃない」
「だったらお前がやってみろよ」
思わずミルクの口が出た。
「ちょ! ミルク!」
ミャウが苦笑いで止めに入るが、ふん! とミルクがそっぽを向く。
「き、貴様! 宰相のこの私になんという口の聞き方!」
「落ち着けコシギン」
王が言うと、は、はぁ、と宰相が黙った。しかしこの男、どうやらコシギンというらしい。
「もしかして名前はチャクというのかのう?」
ゼンカイの考えることは、少しありきたりすぎるだろう。
「うん? なんで判ったのだ?」
あってたのだ。
「しかし7日とは……あまりに余裕がなさすぎですな」
そう口を出してきたのは、ケネデル公爵である。
「ふん。そんな事お前に心配される程ではないわ。というかなんでお前がここにいるんだ? 全くよくもまあオメオメと」
「あいつ殴っていいか?」
ミルクが誰にともなく聞くと、気持ちはわかるけどやめておきなさい、とミャウが留めた。
すると王室の豪奢な扉からノックの音が響きわたる。
そして――。
「――お待たせいたしました。兵の準備が整いましたので、このレイド、ただいま参上仕りました」
扉が開かれると同時にそう言って現れたのは、件のレイド将軍閣下であった。
その姿におもわずミャウの表情が凍りつく。
が――。
「なんじゃい、あのセクハラ将軍かい」
と言うゼンカイの言葉にミャウもクスリと笑う。そのおかげか強張った表情も柔らかさを取り戻す。
だが、そんなミャウをレイド将軍は鋭い目つきで睨み続けていたのであった――。




