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老後転生~異世界でわしが最強なのじゃ!~  作者: 空地 大乃
第四章 アルカトライズ編
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第九十ニ話 責任

 王室内は思いがけないラオンの発言によって静まり返っていた。

 その様子から、ラオンの件のようなしゃべり方は、臣下の者達からしても承知の事実であった事が窺える。


「……久方ぶりにまともに口を聞いたかと思えばそれか。しかし、開口一番その言い草はいくら私の息子とはいえ少々言い過ぎではないかな?」


 沈黙を破ったのはアマクダリ王の言葉であった。

 そして、その言葉に反応するようにラオンが正面へと向き直り言う。


「父上の立場を笠に着るつもりなど、自分は毛頭考えてもおりませぬが、とは言え確かに言い過ぎたやも知れません。少なくともここに雁首揃えている大臣や官僚達は保身の為ならば努力を惜しみませんからな」


「な!? ど、どこも変わってはおらぬではないか! いくら王子とはいえそのような言われ! あまりに無礼な!」


 頭の左右にだけ毛が伸びた男が怒鳴り散らす。が、ラオンは、フッ、と鼻で笑うようにしながら臣下に顔を向け口を開く。


「お気に触ったのなら申し訳ありませんな。何せ自分は嘘がつけぬたちで」


 ラオンの言葉に、うぐぅ、と悔しそうに歯噛みする臣下たち。

 更に何かを言おうとする者もいたが、王子はそれに構うこと無く言葉を続けた。


「さて、話を本題に戻すとしますか。先ずケネデル公爵の責任に付いてではあるが……そもそも責任をとる必要などない。それが自分の考えである」


 馬鹿な! と臣下の一人が叫ぶ。


「話によれば、そもそもケネデル公爵が独断で冒険者風情にエルミール王女とラオン王子殿下の護衛を任せたというではないか! それこそが事の発端であることも紛うことなき事実! それで責任が無いなどと、いくらラオン王子殿下の言葉とはいえ捨ててはおけませんな」


 臣下の男はまくし立てるように述べると、満足そうに腕を組み鼻を鳴らす。が、ラオンはそのまま視線をケネデルへと向ける。


「さてはケネデル。全てを話してはおらぬな?」

 ラオンの言葉にケネデルは何も応えない。だが逆にソレが答えでもあった。


「……どうやらケネデルには余計な気を使わせてしまったようではあるが、此度の護衛の件を冒険者ギルドに手配するよう願い出たのは自分である。そしてこの旅の目的として山賊の壊滅を組み込んだのもな」


 この発言に周囲がざわつき始める。


「……国王陛下の前でこのような事を申し上げるのは失礼かもしれませぬが――」


 臣下の一人が畏まった様子で述べると、王は、構わぬ私の事は気にするな、と言いのけた。


 その言葉に男は一つ頭を下げ、言葉を続ける。


「正直ラオン王子殿下にも困ったものですな。そのような事を私どもへの相談も無く、勝手にされては面目が立ちません」


「相談? では相談をしたとして、お前達はソレを潔く承諾したのかな?」


 ラオン王子に発言した男は、眉を引き上げ応える。


「それはまぁ、会議にもかけねばなりませぬし――」


 その言葉にラオンは、くだらん!、と言下に言い捨てる。

 が、さらにそこへ臣下の一人が割って入った。


「そもそも山賊の事など、本来そこに雁首揃えて立っている冒険者共に任せておけばいいのだ。我々が一々口出すことなどではありません。全く何のためのギルドか」


 口を挟んだのは頭をハゲ散らかしたナマズのような顔の男だ。


「……随分と彼らを軽んじた物言いだな。そのような認識しか持ってないものが官僚だ大臣だなどと片腹痛い思いですな。その上ギルドの大原則すらお忘れとは情けない」


 ナマズ男にラオンが返す。多くの臣下に対し憤懣が溜まっているのは、彼のその言動から明らかであった。


「馬鹿な私どもだってギルドの事は」


「そうですかな? ならばなぜ、ギルドから山賊の被害が拡大していた知らせをうけておいてこれまで放っておいたのか? 冒険者ギルドは依頼があって初めて動くことの出来る組織であろう。ならば山賊共の対策を本気で興じるなら、個人の依頼では無理な事ぐらい考えてみれば分かる話」


 ラオンの発言に臣下の顔が歪む。


「そもそも山賊の件を言うならば、ジンも含めた彼らの働きは見事なものであった。もうこれでコウレイ山脈で山賊の被害に会うものもいなくなる事であろう。ジンに関してはオークによる突然の襲撃があったにもかかわらずその手腕で他の冒険者とも協力し、見事苦難を乗り切ってみせた」


 臣下の者達は表情を固くさせ黙ったままだ。


「お前たちはジンとケネデル卿に罪をなすりつけたくて仕方がないようだが、そもそも今回のメインの依頼は山賊の壊滅と我が妹をオダムドまで送り届けることにあった。その点をみれば、この二人にも後ろの勇敢な冒険者達にも否はない。寧ろよくやってくれたと自分は評価しておりますが」


 悔しそうに歯噛みする臣下達は何も言えずにいる。

 だが、そこで口を開くはアマクダリ王その人であった。


「成る程な。お前のその勇み足は少々度が過ぎてると言えなくもないが、確かに山賊共を駆逐し街道の安全を確保した点は評価もできる。オダムドまでならば無事護衛の任を全うできていたのも事実であろう」


 アマクダリ王は厳しい表情は崩さずそこまで言うと、だが、と付け加え。


「それであったとしても、我が国の英雄である勇者ヒロシと娘のエルミールが何者かに攫われたのは事実。それに対しては何の責任もないと言うのか?」


 王の発言に再び臣下の多くが息を吹き返したように言を吐き出す。


「正しくその通り!」

「これで責任が無いというのは少々虫が良すぎますな」

「よりにもよって王女が攫われたなどと前代未聞! 冒険者ギルドはこの責任どう取られるおつもりか……」


「……責任か」


 ラオンが一言発し周りの言が止む。


「しかし父上。こと責任という点におけるなら、ジンやここの冒険者を追求するのは些か見当違いではないか? 報告はうけておられる筈でありましょう。あの墓地へ勇者ヒロシに同行を願ったのは他でもないエルミールだ。つまり此度の要因は我が妹が自ら招いた結果といえる」


「馬鹿な! ラオン王子殿下は実の妹君に責任があると申されるというのか? 後の王たる貴方が」


「言う! 王族や血筋等は関係がない! そして! ……当然妹の勝手を許してしまった自分にも当然否はあるであろう。責められるのは、ここにいるジンやケネデル、そして尽力を尽くしてくれた冒険者の皆などではない。この我にこそあり! 我が言葉に弁解の文字なし!」


 場が水を打ったかのように静まり返った。次期国王たる男が自らに責任があるとまで言いのけたことに、誰もが驚きを隠せないようである。


「――成る程な。つまり此度の件は全てお前の責任であり、他の者が責められるいわれはないと申すのだな? ……だが、だからといってお前はどう責任をとるというのだ?」


「出来る事など決まっております父上。妹と勇者の捜索、そして奪還に尽力を尽くすまで。だが、それでも父上が納得出来ぬと申されるなら、我が王位継承権は剥奪されても仕方なしと思っております」


 場内にどよめきが起こる。そしてケネデル公爵も口を開き。


「ラオン王子殿下! いくらなんでもそれは!」


 そう言いかけるが、少し黙っておれ、というアマクダリ王の言葉によって口を閉ざした。


「……全くお前も随分と悪知恵を身につけたものよ。我が一人息子であるお前の王位継承権を剥奪し、一体誰が我が後を継ぐというのか?」


「そんなもの。この場にいる優秀な臣下の誰かにでもくれてやれば良いでしょう。きっとこの国をよりよいものとするために、心血を注いでくれますぞ」


 皮肉めいた口調でラオンが返すと、アマクダリ王はクククッ、と含み笑いを見せる。


「全くまともに話をするのも久方ぶりと思ったが、随分と生意気な口を聞くようになったものだ」


 しかしその発言にもラオンの真剣な表情は変わらない。


「……スガモン・ジィ」


 アマクダリ王がそう呼ぶと、はい、と白髭を揺らしながら彼が前に出る。


「息子はこう言っておるが、ギルドマスターであるお前は、今回の件どう考えておるのだ?」


 その発言に今度は後ろで控えていた一行が目を丸くさせた。


「し、師匠がギルドマスター?」


 ヒカルの顔にも戸惑いの色が伺える。どうやら弟子である彼にも知らされていなかったらしい。


「――先ずはラオン公爵殿下のお気遣い痛み入ります。じゃが、かと言っても我々冒険者の面々がついておりながら、エルミール王女も勇者ヒロシも守りきる事ができなかったのは事実。責任の追求は逃れられないでしょうな」

 

 顎鬚を擦りながらスガモンは更に続ける。


「かくなる上はわしも責任をとってギルドマスターの任を辞する――」

「マスター! 何を申されるか!」


 ラオンが目を剥き、スガモンをみやる。が、皺に埋もれた瞳でちらりと目配せするようにし。


「と、いいたいところじゃが、それで責任をとるというのも少々虫がよすぎる話かと思いましてな。今はまだやめておきますじゃ」


 しれっと言い放つスガモンに、ほぉ、とアマクダリ王が返す。


「そもそも、ラオン王子殿下にしても、護衛騎士であるジン殿、そしてケネデル公爵にしても辞する事が責任をとることに繋がるとはわしにはとても思えませんのでな。寧ろ先に王子殿下の述べたように、今はここにいるもの一丸となって少しでも早く救出できるよう動くのが得策では? 正直このようなことに取られる時間も、本来は惜しいぐらいだとわしは思いますぞ」


「貴様! たかだかギルドのマスター程度の分際で! 無礼だとは――」

「いや」


 臣下の言葉を遮るようにアマクダリ王が言う。


「確かにそのとおりであるな。尤もな意見であろう。そしてその結果、我が娘が戻ってくれば問題はない。勿論勇者もな。だが、今この状況においても無事であるかどうか、というのも勿論あるのだがな」


「ソレに関してはわしの占いでも、二人の身は無事であると出ておりますのでな。安心召されてもよいかと思いますぞ」


 その言葉にアマクダリ王が顔を眇め、そして継いだ言葉は。


「それならば今やるべき事はただひとつ! ギルド、騎士団、一丸となって王女と勇者の捜索にあたれ。どんな些細な情報も見逃すでないぞ。判ったなら早々に対策に興じよ。今すぐにな」


 この王の鶴の一声によって、責任の是非は一旦保留となり、臣下の者達も慌ただしく動き始めた。


 そしてギルドマスターであるスガモンは改めて、アマクダリ王に頭を下げるが。


「そのような真似はもう良い。それよりもギルドも我が娘と勇者の捜索に尽力を尽くしてくれ。頼んだぞ」

 

 その発言にスガモンは畏まりました、と返し、そしてその場を後にするラオンとスガモンに付き従い、一行も部屋を出た――。

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