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第九十話 敵う? 敵わない?

 スガモンが向けた視線の先。イシイのすぐ後方に、透明な魔法の檻に閉じ込められた勇者ヒロシとネンキン王国王女エルミールの姿。


 その様子を見るに意識は消失してるようであった。

 スガモンの表情が僅かに歪む。

 するとイシイがそれを察したようにレンズの中の瞳を光らせた。


「気になりますか? なに大丈夫ですよ。殺したりはしてません。ロキの魔法でおとなしくなってるだけです」


 イシイの言葉を聞き、スガモンの横に立った大司教が言った。


「お前たちが大聖堂から遺体を盗み出した犯人だな? 何が目的かと思えばこのような事を……この罰当たり者共が!」


 大司教の吐き捨てるような言葉に、イシイがふふっ、と含み笑いをみせ、レンズの奥の瞳を大司教に向ける。


「私達は立場的に神の存在を認識はしてますが、だからといってそこまで崇拝してるわけでもないのでね。ましてやこの世界で崇められてる神などには何の興味もない。罰当たり? 結構なことだ」


 地面を打つ力強い音が響き渡った。大司教が大地に杖を叩きつけた音だ。握る拳に浮かんだ血管が、彼の憤慨を象徴していた。


「全く、過去の英霊を復活させ、オマケに現代の英雄と王女までそのような事を……一体何が目的じゃ?」


 スガモンの問いに、イシイが両手を広げて首を僅かに傾けた。口元には僅かな笑みも溢れている。


「ある御方は強い戦士を求めてましてね。私はその期待に応えたい」


「いい意味で、ヒロキ様はお前らの思い通りになどならない……」


 立ち上がったセーラが目の前の敵達に向け言いのける。両腕を無くした姿は見るに痛々しく、苦しそうですらあるが、力を振り絞ってなんとか立ち続けているといった感じだ。


「セーラ……あなた――」


 ミャウがその姿に哀しげな瞳を向ける。


「セーラちゃんや……え~い! 大司教だがなんだか知らんが、この腕はなんとかしてやれんのか! 皆を回復できるぐらいならなんとかなるじゃろう!」


 ゼンカイの言葉に大司教が振り返る。


「悪いがそれは今すぐどうにか出来るものではない……だが、腕が残ってるならしっかり持っておけ」


「……それならワイがしまっといたで。ヨイちゃんに頼まれたからのう」


 ブルームの言葉にそうか、と大司教が返し、再びイシイへと目を向ける。


「……全くこんな可愛らしいメイドにも酷いことをするのう。少なくともお前らがろくな奴らではないことは、この状況でもよく判るわい」


 睨めつけるスガモンに対して、イシイは薄笑いを浮かべるのみであった。


「……だったら姫様は! 姫様はどうしてそこに捕まっている! 強い戦士とは無縁な存在だ!」


 ジンが前に出て声を荒らげた。どこか悔しそうな感情が面に出てる。王女を守ることが出来なかった不甲斐なさを悔やんでるのかもしれない。


「それは私ではなく、こっちのアスガの願いなのでね」


 イシイがチラリとアスガをみやり応えた。


「ま、俺にしても、ある奴がこういうのを欲しがっているんでね。まぁそいつにくれてやれば面白そうかと思ったのさ」


 両手をおどけたように広げるアスガだが、その仕草にジンの怒りが爆発する。


「貴様如きが! 姫様を物みたいに扱うとは!」


「その如きから守れもしないでよく言うぜ。そんな事じゃ護衛騎士の名が泣くぜ?」


 アスガの返しに、ぐぅ、と顔を歪めるジン。的を射られて言葉も出ないといったところか。


「さて、それでどうなさるおつもりで? どうやら随分とご立腹のようですが……まさか勝てるとでも?」


 イシイは眼鏡を押し上げながら不敵な笑みを零す。


「主よ命じて頂ければ我はいつでも」


「まぁこんな奴ら俺一人でも十分だけどな」


「それは少々図に乗りすぎなのだよ。年を召してるとはいえ、アレだけの魔法が使える相手なのだよ。まぁ私なら余裕ですが」


「……命令な、ら」


 四人の勇者が思い思いの言葉を吐き、戦う意志を示す。

 先ほどの恐らくはスガモンが放ったであろう魔法の事など意に介しずといったところだ。


「お、お前たちちょっと舐めすぎだぞ! 僕の師匠はネンキン王国でも一目置かれる大魔導師だ! 師匠が本気出せばお前らなんてけちょんけちょんに捻り潰しちゃんだからな!」


「……どうでもいいがお前、もっと前に出て言ったらどうじゃ?」


 スガモンのローブの後ろ側からちょっとだけ顔を出して言うヒカルに、師匠も呆れ顔だ。


「ヒカルさんカッコ悪いです……」

 

 プリキアも、瞼を半分ほど閉じたジトーっとした瞳で言う。

 そ、そんな! とショックを受けるヒカルだが、確かに情けない。


「ふん。まぁとはいえこの戦い、わしと大司教で――」

と杖の先端をイシイに向け、その姿を見据えたまま。


「あっても、到底勝てそうにないわい。こんなのやるだけ無駄じゃ」

 

 そう言を紡げる。すると後ろのヒカルが、えぇえええええぇええ! と激しく驚き。


「な、何を弱気な事を! お師匠様ともあろうかたが!」


 そう文句のようなものを言う。


「お主に言われとうないわい。全く不甲斐ない弟子をもってわしは情けないぞ」


 うぐ! とヒカルは喉を詰まらせたじろいた。プリキアの冷たい視線も同時に突き刺さり、心のダメージは中々に深そうである。


「しかしスガモン……」


 大司教は何かを言いたげにスガモンをみやる。

 だが彼が続きを発する前にスガモンが杖を地面で打ち鳴らし、言を継いだ。


「お主だって判るであろう? わしのあの魔法ですら全く通じてない奴らじゃ。実力が桁違いじゃよ。このままやっても無駄死にじゃ。じゃから四大勇者の事は一旦あきらめるしかないのう。古代の勇者の事は……な!」


 最後の一言に気迫を込め、そして杖を捕えられた勇者と王女にむけ突き出した。

 その瞬間、パリーン、という快音と共に、二人を囲っていた透明な檻が粉々に砕けた。


 更に続けて、ほいほ~い、とスガモンが杖をひっぱる仕草をみせる。

 すると捕らえられていた二人の身体が、まるで釣り上げられた魚の如く勢いで、一行の下に引き寄せられた。


「むぅこれは!」

 ガッツが両目を見開き、若干の驚きを見せる。


「油断しましたね……まさか貴方も無詠唱で魔法が使えるとは」

 眼鏡の端を軽く押し上げながら、イシイ怜悧な視線をスガモンに向ける。


「ふん。年長者をあまりあまくみん事じゃな。さて、それでは一旦ここは引かせてもらうぞい」


「させはしないのだよ!」

 ロキが叫び右手を前に突き出す。が――。


「皆、目を瞑るのじゃ! ほいさ!」

 スガモンが一言発し杖を差し上げる。その瞬間杖の先端から強烈な光が発し、全員の目を眩ませた。


「クッ! 【フラッシュライト】か!」


「そうじゃ。強烈じゃろ? ほんじゃこれでおさらばじゃい! ホイのホイのホ~イ!」


 その声を最後にそれ以上スガモンから何かが発せられることはなかった。


 そして光が収まり、イシイ達の目が慣れてきた頃には、その一行の姿は完全に消え去ってしまっていた。


「転移魔法ですか――やられましたね」


「……申し訳ありません主。私としたことが――」



 イシイに向かって深々と頭を下げるロキ。だがイシイは顔を彼に向け言う。


「まぁいいでしょう。私の目的は達成できてますしね」


「しかし主よ。あの勇者と王女は奪い返されてしまいましたな」

 

 ガッツのその言葉にイシイは目を丸くさせた。


「奪われた何がですか?」

 

 ガッツの思わず出た、は? という疑問の言葉を他所に、ふふっ、と含み笑いをみせ、イシイが勇者たちの捕らえられていた地面をみやる。


 そこにはまるで大地に埋め込まれているような形の一枚の扉があった。


「……成る程な」

 ラムゥールが一人納得を示す。


「しかし貴方の【シャドウドール】でしたか? 便利なものですね。さて彼らはいつ頃気付くか」


「あれだけの魔法の使い手なら戻ってすぐにでも気付くと思いますが……どちらにしても時間が経てば消え去ります」


「そうですか。ふふっ、悔しがる顔が目に浮かびますね」


 イシイの顔が醜悪な笑みで歪んだ。


「いい性格をしてるぜお前も」


「……貴方に言われたくはないですがね。……さて、それではもうこんなところはさっさと退散しますか。辛気臭くて仕方ないですからねぇ――」


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