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第九話 あの耳を撫でるのはどなた

「どうじゃ! 凄いじゃろう!」

 バーン! という音が聞こえてきそうな勢いで得意気にギルドカードを見せるゼンカイ。


 そしてその姿を一瞥し、うん、おめでとう、とあまり感動のない返事。


「なんじゃい! もう少し、きゃーゼンたん凄~い! ちゅっちゅ、ぐらいの反応を示しても良いじゃろうが!」


 一人キス顔を見せるゼンカイに、二人は軽くひいている。

 

「冒険者になる事だけならそんなに大変なことじゃないしね」


「そっ。実績をつまないと」

 

 アネゴとミャウの二人から、手厳しい返しを受けるとゼンカイは腕を組み唸りだす。


「むぅ実績のう。確かに冒険者たるもの実際仕事をこなさないと仕方ないのう。のうミャウちゃんや実績を積むのにどうしたらいいかのう」


 ゼンカイの問いかけに答えようと、ミャウが爺さんへと身体を向け口を開く。


「そりゃ依頼をこなすのが一番てっとりばや――」

「おいおい。ミャウちゃんだなんてユー随分馴れ馴れしいじゃないかYo!」


「ゼンカイとミャウちゃんがまるで十年来の恋人のように仲睦まし気に話していると、突如横から何者かが口を挟んできた」

 

「いや、お爺ちゃん急に何いってるの? てか勝手に設定盛らないで!」


 全くである。とは言え横から口を挟まれたのは事実なので、ゼンカイがそちらに顔を向ける。


「マイハニ~何こんなへんちくりんなオールドユーと仲睦まし気に話してるんだYO!」


「なんだマンサか。てかあんたの方が普通に馴れ馴れしいし――て、大体仲睦ましいって一体どんな見られかたしてんのよ!」


 ミャウはテーブルを叩き激しく抗議して見せる。

 そんな二人を交互に見ながら、

「これがツンデレって奴かのう」

とゼンカイが勝手なことを口にした。


「違うわよ!」

 言下にミャウが否定する。


「おいユー。ミーのマイハニーに気安くアクセスするんじゃないYO!」


「だから誰があんたのもんなのよ!」

 ミャウの突っ込みは激しくなる一方だ。


 しかし自分の事をミーと呼び、言葉の中や端に妙な言語を絡めてみせるこの男は相当にうざそうである。


 ゼンカイも何となくその顔をみやるが、金色のキノコみたいな髪に丸メガネと出っ歯……とりあえず一度見れば忘れられないようなインパクトは有している。


「おい爺さん。新参者があんまり調子に乗ってんじゃねぇぞ」


 ただギルドカードを見せびらかしながらミャウやアネゴと話してただけで、何故そこまで目の仇にされているか判らないが、やたらとゴツイ男も話に加わってきた。


 男は肌が浅黒く、右目には熊に引っ掻かれたような傷跡が残っていた。

 いかにも手練の戦士といった風格である。


「いいか爺さん。アネゴのおっぱいは俺の、ぐほぅ!」

 

 暴風のような轟音と共に飛んできた拳によって、男の身体は一瞬にしてカウンターそばから反対の壁まで吹っ飛んでいった。

 勿論殴ったのはアネゴその人である。


「今度フザケたこと抜かしたら殴る!」

 

 もう殴ってます。


「しかしのう。さっきとは違って随分賑やかになってるのぉ」

 ゼンカイが何事も無かったかのように別の話を進め、改めてギルド内を見渡す。


 確かに先程まではゼンカイとミャウぐらいしかいなかったこの部屋にも、今は多くの冒険者が集まって来ていた。

 奥に見えるテーブルも既に一杯である。


「なぁ、マイハ、ひぃIi!」

 

 どさくさに紛れて肩に手を回そうとするマンサに、殺気の籠もった視線を向けるミャウ。

 それにびびったのか、腰を引かせ彼が数歩後ずさりした。口の割にヘタレな男だ。


「ふぅ。効いたぜ……」

 そんな中、目に傷のある男が口元を手で拭いながら戻ってきた。中々頑丈な男である。


「だが! この痛みが……イイ!」


 只のMだったのだ。


「だ、だからさぁ。ミーとパーティ組んでマイハニーも、おニューなミッションにレッツでゴーしようぜ。丁度稼げそうなのがあるんだYO!」


 一旦マンサから顔を背け、ミャウがやれやれと嘆息を付く。


「だったらそこのマゾンと一緒にいけばいいじゃない」

 アネゴに殴られた頬を擦りながら、はぁはぁと荒息を吐いている傷の男をミャウは指さした。


 どうやらこの二人は仲間同士らしい。

 類は友を呼ぶとはよく言ったものだ。

 

「勿論ヒーもミーと一緒SA!」

 両手を広げて得意気に述べるマンサ。リアクションの一つ一つが実に気持ち悪い。


「だけどミーにはキュートなプリンセスも必要なのだYO」

 そこまで言って、半円を描くようにしながら右手を胸の前に持って行き頭を下げる。

 正しく姫を持て成すような恭しさを感じるが、ミャウの表情は芳しくない。


「とにかく私、暫くこのお爺ちゃんと一緒に組むから。だから諦めて」


「そうじゃ! ミャウちゃんは最早身も心もわしの者なんじゃ!」

 

 この爺さん。とんでもない事を口走るものだから、周りの冒険者の視線が一斉に彼等へと注がれてしまう。


「馬鹿なこと言ってるんじゃ無いわよ!」

 顔を赤くさせてゼンカイを殴り付けるミャウ。当然だが赤いのは周りに見られた恥ずかしさからであり。


「照れおって。可愛らしいのぉ」

 そういうわけではない。


「身も……心も、だ、To――」

 マンサのレンズがキラリと光った。どこか茫然自失な雰囲気も感じさせる。


「ちょっと。信じないでよ」


「ま、まさか! こんな爺さんに、そ、そんな! だったらもしかして! そ、その猫耳もまさか! まさか! もうその爺さんに、モ、モ、モフモフされたというのかYO!」


 そこが重要なのか。


「ふっ、モフモフどころか、フゥフゥからペロペロまで、ひと通りの事はやったぞい」


 この爺さん、息を吐くように平気で嘘をつく。


「本気で殺るわよ――」

 ゼンカイの後ろから異様な殺気が発せられた。


「むむむ! この妖気! わしのあれもビンビンじゃ!」


「下ネタかよ」

 冷静なアネゴの突っ込み素敵です。



 そんな中、指をパキパキ鳴らしだすミャウに爺さんがちかづきそっと囁く。


「まぁまぁわしだって本気でいっとるわけじゃない。しかしのう、こう言っておけば奴も諦めるじゃろうが」


 そう言ってニヤリとする爺さん。

 だが当然ミャウは、

「だったらもっと言い方考えなさいよ!」

とあまり納得はしていないようである。


 とは言え、件のマンサはガクリと膝を落とし、わなわなと震えている。

 精神的ダメージを負わせたのは確かなのかもしれない。


「さてっと、とどめといこうかのう」

 誰にともなく呟き、ゼンカイがマンサの横に回る。


「ちょっとこれ以上何をする気よ」

 眉を落とし心配そうな表情を浮かべるミャウ。


 すると爺さん彼女に向かってウィンクを返した。

 ミャウは両肩に手を回しブルルと肩を震わせる。


「のう。これで判ったじゃろう」

 マンサの肩に手を置きどこか遠くを見るような表情を浮かべるゼンカイ。その姿に、刑事ドラマのワンシーンが重なって見える。


 そして彼は静かに口を開く――。


「みみは~い~ま~」


「歌い出した!」

 ミャウ速攻突っ込む。


「毛むくじゃらのなか~」

「誰が毛むくじゃらよ!」


「あのみ~み~を~さわるの~はどな~た~」

 

 この爺さん基本的に歌が好きなようだ。


「みみは~い~ま~」

「らららら~」


「ハモりだした! って何これ!」


 そう正に今ギルドメンバーの心が一つになっていた。

 ゼンカイという一人の爺さんの歌に合わせて皆が歌いそして踊る。

 ゼンカイはこの光景に感動し涙さえ流しそうになった。


 そしてゼンカイの歌がクライマックスに達した時、ギルド内に惜しみない拍手が響き渡る。


 ゼンカイはどこか遠くを見るような瞳でミャウを振り返り、サムズアップして見せこう言った。


「ワダさんに乾杯じゃ――」

「誰よ!」


 そう、例えワダさんと言えど異世界で知るものは少ないのだ。


「納得出来るかAaaaaa!」

 魂のシャウトが今度はマンサから発せられた。


「ミーは! ミーはユーなんて絶対に認めないからNA!」 


 蹶然し顳かみに青筋を浮かばせ、枯れ枝のような細い指をゼンカイに向かって突きつける。


「やれやれ。しつこい男は嫌われるぞい」


「うん。まぁもう嫌ってるけどね」

 ミャウがジトっとした瞳であっさり言い切った。


「ふん。もうそんな事は関係ない。もはやこれはミーとユーのトゥ! ラブ! ル! だ! だからアンサーさせよう! どっちがマイハニーのパートナーに相応しいかO!」

 

 マンサは色々と言っている事がおかしい。


「ちょっと!」

 アネゴがカウンターを殴り激しく打ち鳴らし、

「ここで喧嘩はご法度だよ! やるなら外でやりな!」

と睨みを効かせ話を紡いだ。


「さっきおんしが殴ってたのはいいのかのぅ?」

 ゼンカイは妙なところに細かい。


「あれは制裁」

 アネゴは瞼を一度閉じ、しれっと言い切った。


「俺、制裁、嬉しい」

 マゾンの頬が赤く染まる。どうにもここには変態しかいないようだった。






 


 


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