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第八十九話 駆けつけし者

「ブ、ブルームさん」


 ヨイが不安な表情を覗かせる。だが、ホウキ頭の彼は、イシイを見据えたまま、沈黙を保っていた。


 何かを考えている様子はある。だがこの状況をどう打破するかは考えあぐねているようであった。


「え~いお前達! 勇者はともかく、王女までとは何事じゃ! 大体女性を檻にいれるなんてマニアックなプレイ、天が許してもわしが許さん! 寧ろわしがやりたいわい!」


 ゼンカイは、色々と思考が斜めに傾いているが、王女を助けたいという気持ちは強いようである。勇者はどうでもいいらしいが。


「何だ? あのわけの判んないのは?」

 イシイが怪訝な表情で呟く。


「あぁ。アレも一応俺達と同じチート持ちのトリッパーみたいだぞ。まぁレベル的にも大した事はなさそうだけどな」


 アスガの返しに、イシイが、アレが? と言いたげな双眸を向ける。


「ふん! 大体、仁丹手裏剣じゃかなんじゃか知らんが、わしをさておいて、勝手に話を進めるのが気に入らんのじゃ! そもそも勇者狙いならまずこのわしじゃろ!」


 どうやら爺さんは妙な形で勇者に対抗意識を燃やしてるようだ。だが、こんな爺さんを攫おうとするものなどそうはいないであろう。


「ヨイちゃんや! こうなったらアレじゃ! わしとヨイちゃんで、愛のランデブーじゃ!」


 突然向けられたゼンカイの熱い視線に、戸惑いが隠し切れないヨイ。え? え? と目を丸くさせている。

 この爺さんの無茶ぶりは、幼女が対処するには少々キツイものがあるのだ。


「喰らえ! (熱血)(善海)(歯ーめらん)


 だが構うこと無く、気合一閃! 口に手を突っ込みイシイ目掛けてゼンカイが入れ歯を投げつける。

 そしてヨイに向かってウィンクも見せる。


 それを受け、ヨイの小さな肩がブルルと震えるが、その意図は汲みとったようで、入れ歯に向かって指を指し、【ビッグ】! と唱えた。


「ひゃひゅぎゃしょいずぁん。ぬぁしのみゃいぎゃ、ちゅうぢえたにょぬぁら!」


 何を言ってるかさっぱりであるが、巨大化した炎の入れ歯が、相当な勢いでイシイに迫る。


「主よ。ここは我が」


 言ってガッツがイシイと入れ歯の間に割って入った。

 そして、迫る入れ歯に巨大な腕を突き出しその手を広げた。炎を辺りにまき散らしながら、勢い良く回転するソレを、受け止めようというのだろう。


 ガッツのその手に巨大入れ歯が収まった瞬間、足下から噴火が始まったかのような轟音が鳴り響く。


「ぐむぅ――」


 ガッツの大きな顔に僅かな歪みが生じた。だが、眇めた瞳でゼンカイをみやり、ふんぬぅおぉ! と丹田から爆発させたような声を発し、入れ歯を一気に押し返す。


 その所為によって跳ね返された入れ歯は、ギュルギュルと大気をかき混ぜながら、ゼンカイの元へと戻っていった。

 勿論、ヨイの力で元の大きさにもどすことも忘れていない。


「どうかしたのか?」


 ゼンカイの攻撃を見事跳ね除けてみせたガッツにラムゥールが問う。

 どこか疑問を含んだ声であった。

 

 ラムゥールの視線の先では、ガッツが己が右手を眺め続けていた。

 だが彼の問いに、うむ、と返し、

「いや、何でもない」

と続けながら、右手で開け閉めを繰り返す。


「むぅう、わしの攻撃がさっぱり効かんとはのう」


 入れ歯を口に戻したゼンカイが悔しそうに言う。と、同時に今のままでは全く歯がたたないことを感じ始めているのか、その表情には焦りの色も滲んでいた。


「さぁもういいでしょう。何をしたってもう無駄な事です。そこの妙な頭をした彼も策はないようですしね」


 イシイの言葉にブルームが舌打ちする。


「ブルームさん……」

 

 プリキアが囁くように言い、ヨイも心配そうに彼の顔を見上げる。が――。


「……悪いのう。確かにこれは分が悪いわ。全く油断を見せる様子もないしのう」


 悔しそうに歯噛みし、ブルームが応えた。只でさえ戦えない者が溢れてる状況である。この短い間では打開策を興じることは、騙しが得意の彼でも難しかったのかもしれない。


「では。そろそろ終わらせますか。何、痛みは無いのだよ」


 言ってロキが右手を広げた。掌が青白く発光し、と同時に地面に魔法陣が浮かび上がり――。


「何だと!?」


 ロキの表情が歪む。その瞬間魔法陣の描かれた地面が割れ、爆音と共に巨大な火柱が立ち上がる。


「むぅ! これは!」


「チッ! どうなってやがる!」


 ガッツとラムゥールがそれぞれ声を上げ、目を見張る中、天まで届きそうな程の勢いで吹き上がる炎の柱から、真っ赤に煮えたぎった巨大な灼岩が撒き散らされた。

 そしてそれは、まるで隕石の如く敵の頭上に降り注ぐ。


「おいおい。ちょっとやばい雰囲気じゃないかい?」


 アスガが右手を翳し、迫り来る灼岩を眺めながら言う。


「……まぁ大丈夫でしょう」

 すると隣のイシイが眼鏡を押し上げながら返す。その顔に特に慌てている様子は見えない。

 そして、正しく今、二人を直撃しかけた灼岩が、何かが通り過ぎると共に、粉々に粉砕された。


 その姿にアスガが、ひゅ~、と口笛を鳴らす。


「流石はロンギヌヌの槍といったところか」

 背中まで達した銀色の髪を眺めながらイシイが言う。


「主を守るの、は。私のつと、め」


 イシイを振り返り、ジャンヌが恭しく頭を下げた。


「しっかし、本当眩い女だな。今度俺と付き合ってくれないかい?」

 

 この状況にも関わらずアスガが軽い口調で口説いてみせる。が、ジャンヌはソレには何も応えなかった。


「そのツンケンした感じもそそられるねぇ」


「下らない事を言ってる場合か」


「全く固いね。大体あんただって、全然心配してないんだろ?」


 そう言いながらアスガが他の勇者の姿をみやる。


「フンッ! フンッ!」


 そこでは降り注ぐ灼岩を自慢の拳で打ち砕くガッツの姿。そして――。


「てめぇガッツ! 少しは考えて砕け! 破片が一々こっちに飛んでくんだよ!」


 ラムゥールは悪態をつきながらも、その破片を軽々と躱している。


「しかし、【ヴォルケノ】ですか。このレベルの魔法を使えるとなると中々の手練かもしれないのだよ」


 いつの間にかイシイとアスガの背後に現出していたロキが言う。彼は火柱に飲み込まれる直前、件の魔法で難を逃れていたのだ。


「……全く。嫌な予感はしとったが、とんでも無いのが復活したものじゃのう」


「えぇ。しかも敵としてですからね。神聖都市の名が泣きますよ」


 その声はゼンカイ達の後ろ側から聞こえてきた。一行が唖然とした表情を浮かべながら振り返ると、そこには二人の人物。

 一人は60代ぐらいの頭を剃り上げた男。神官衣を身にまとっており、右手には厳かな雰囲気を感じさせる杖を握りしめていた。


 そしてもう一人は紫色のローブを身にまとい、豊かな顎鬚を蓄える――そう、それはゼンカイも良く知る顔であり……。


「――により、傷つきし全ての者に祝福を与えん【フル・リザレクション】!」


 神官衣の男は詠唱を終えると、両手で杖を握りしめ、天にむかって差し上げた。その瞬間、暖かな光が周囲を包み込み、そして――。


「う、う~ん」


「こ、ここは?」


「ウンジュ?」「ウンシル?」


「お、俺は一体? そうだ姫様は!」


 倒れていた皆が次々と回復し、起き上がりはじめて行く。同じく復活したタンショウも、不可思議といった具合にキョロキョロと当たりを見回していた。


「やっぱりその力は……大司教様!」


 プリキアが驚いたように述べる。

 するとヨイも、こ、この方が、と戸惑いの表情を覗かせた。


「お、お師匠! どうしてここに!?」


 目を覚ましたヒカルも驚いたように叫ぶ。その問いかけは大司教と共に駆けつけた老人。スガモンに向けられたものであった。


「ふむ。ちょっとばかり嫌な空気を感じたのでな。駆けつけてみれば案の定といったところかのう」


 顎鬚を擦りスガモンが返した。そしてその瞳を四大勇者と二人のトリッパーに向ける――。


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