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第八十二話 雷帝ラムゥール

「くっ!」「うわぁあぁ!」「ウンジュ!」「ウンシル!」


 ガッツの起こした衝撃波でふき飛ばされた後、暫く宙を漂った後に、ミャウは空中で一回転しながら着地し、ヒカルは頭から地面に突っ込んだ上ゴロゴロと転がり墓石にぶつかり、ウンジュ、ウンシルの兄弟は互いの手を掴みながら、軽やかに大地に降りたった。


 皆の姿は見えない。それぞれがバラバラに飛ばされたようである。


「お爺ちゃん大丈夫かな……」


 誰にともなくミャウが呟く。するとヒカルが頭を擦りながら起き上がり、

「僕の事も少しは心配してほしいよ」

と眉を潜めながら愚痴を言った。


「そんな風にいう元気があるなら」「大丈夫だよ問題ない」


 双子の兄弟は全く同じ動きで、鍵型に曲げた指を口に添え、軽く笑った。


「とにかく、皆と合流したいところなんだけどね……」


「そんなの、ここで待っていればその内、くるんじゃない?」


「呑気だね」「呑気すぎだね」


 なんだよぉ~、と言わんばかりにヒカルがウンジュとウンシルを睨めつける。


 すると上空から何者かが追いつき、彼らの前に降り立った。


「……確かに来たわね。仲間じゃないけど」


「あ、あわわ、こ、この人って――」


「雷帝……」「ラムゥールだね……」


 黄金の頭髪と金色の瞳、身体にキラキラと光り輝く鎧を身にまといし古代の勇者が、一向に尖った瞳を向ける。


「俺の相手はお前らか。ヒロシとかいうのははいないようだな。チッ、外れかよ」


 最後の言葉を吐き捨てるようにいい、ラムゥールが顔を眇めた。


「外れだなんて随分な言い方じゃない」


 腕を組み、ミャウが不機嫌そうに述べた。その後ろではヒカルが、あわあわと右手の指を加えて戦いている。


「ヒカルはちょっと」「ビビり過ぎじゃないかな」


「そ、そんな事を言われても仕方ないだろ! 相手はあの古代の勇者なんだぞ! か、勝てる気が……」


「大丈夫よ」

 

 ヒカルの不安を払拭するような、自信に満ちた声をミャウが返す。


「あんたは外れとか言ってるけど、確かにある意味そうかもね。私達の組み合わせは貴方にとってはアンラッキーと言ってもいいわ」


「ふん。生意気な口を聞く女だ」


「それは悪かったわね。で、ところで一応聞いておくけど、貴方かりにも昔は勇者と言われていた人よね?」


「勇者だと? 俺がさっき言っていたのを聞いていなかったのか? その忌々しい呼び方はやめろ。すぐにでも殺すぞ!」


 語気が強まり瞳に殺気が込められた。

 どうやら勇者と呼ばれるのが相当に嫌なようである。


「そう、だったら雷帝さん、貴方だって以前は人々の為に戦ってたんでしょう? だったら私達と戦うなんて無意味だと思うんだけど、大人しく一緒にオダムドの街に戻る気はないのかしら?」


 ミャウはかつての勇者としての気持ちが少しでも残っていれば、と訴えかけるが、フンッ、と鼻で返され。


「今の俺は主の命令を聞くだけだ。そんな話を聞くつもりはない」


 そうきっぱり言い切ってしまう。


「そう、だったら仕方ないわね」


 言ってミャウは少し後ろに飛び跳ね、ヒカルと双子の兄弟に何かを告げる。


「あ、なるほど!」

「確かに」「そうかもね」


「……四人揃って小細工の算段か? 無駄な事をしてやがる」


「無駄かどうかはやってみないと判らないじゃない」


 皆との話しを終え、ミャウが雷帝を振り返った。


「だったら無駄じゃないことを証明してみせるんだな」


 言ってラムゥ-ルが広げた手のひらを前に突き出す。


「来る!」


「【ライトニングウェーブ】!」

「【サンダーシールド】!」

「疾風の舞い!」「守護の舞い!」

「【ウィンドブレード】!」


 各々がほぼ同時にスキルを発する。

 雷帝ラムゥールの広げた右手からは何十本もの稲妻が迸り、ミャウ、ヒカル、ウンジュ、ウンシルの四人に襲いかかった。


 その数は膨大で、とても避けられそうにない。が、周囲を覆っていた稲妻のバチバチした光が収まると、その場には平気な顔をして立ち続ける一行の姿があった。


「…………」


 雷帝はその姿を沈黙のまま見据える。


「驚いて声も出ないって感じかしら? ふふ。確かに貴方の雷を操る力は過ごそうね。しかも詠唱なしでいけるなんて、そんな魔法の使い方初めてみたわよ。本当、こっちも後一歩遅かったらヤバかったかもね」


「本当。ミャウから話を聞いてすぐに詠唱をしておいてよかったよ」


「僕達も一足早く」「ルーンを刻んだしね」


 後ろの三人を一瞥しながら、満足気な表情でミャウは更に続けた。


「確かに雷帝の名に恥じない攻撃だと思う。でもね恐らく貴方の活躍した時代は雷系統を使いこなせるものが少なかったんじゃない? だからその力だけでも誰も太刀打ち出来るものがいなかった。でもね。今は雷系統は使いこなせるものも多いし、だから対応策も出来てきてる」


 ミャウの話を雷帝は黙って聴き続けていた。


「僕のサンダーシールドは雷の威力を激減する」


「それは守護の舞も一緒」「雷に対する守護を付けたからね」


「そういう事。これで貴方の力は殆ど通じないといってもいいわ。確かに雷帝と呼ばれるだけあってレベルは高そうだけど、一つの属性だけに頼った戦い方で勝てるほど今は甘くないのよ」


 雷帝ラムゥ-ルに指を突きつけ、ミャウは言い放った。そして、

「どう? まだ間に合うけど、降参するなら今のうちよ?」

とも付け加えた。


 すると雷帝は一旦瞼を閉じ、顎を下げた後、身体を小刻みに震わせ、そのまま大口を開けて笑い出す。


「な、何が可笑しいのよ!」


「ふん。これが笑わずにいられるか。まさかそんな事で勝った気でいるなんてな。本当におめでたい奴らだ」


「……そんな強がり言ったって無駄よ。でも続行する気なら仕方ないわね」


 ミャウのその言葉を聞くなり、ヒカルが詠唱を始め、双子の兄弟が彼を守るように前に立ちステップを踏む。


「戦の舞い!」「活力の舞い!」


 双子の兄弟のルーンの効果で皆の攻撃力と体力が向上した。そして今度はミャウが先手を撃つように雷帝目掛け駆け出す。


「さぁ、一気に加速するわよ!」


 声を上げ、宣言通りミャウが速度を上げ、ラムゥールの周囲を跳ねまわる。


 双子の兄弟が前もって掛けておいた疾風の舞い、これは敏捷性を上げるスキルである。更にミャウが剣に付与した風の力も相まって、残像さえも浮かび上がる程の動きを彼に見せつけていた。


「これで、どうかしら!」


 一猛し、ミャウが剣を振るうと、風の刃がラムゥ-ルを捉えた。だが、大したダメージは与えていないようである。


 しかし、それでもミャウは移動しながら剣を振るい、ある程度離れた間合いからの攻撃を繰り返す。


 これはあくまで相手を自分に惹きつけておくための所為であった。


 そしてその間にヒカルに詠唱を続けてもらい。彼の使える最強の魔法を発動しようというわけである。


 ウンジュとウンシルは、もし雷帝のターゲットがヒカルに移った時の為に、彼を守るように前に立ち意識を集中させている。


 ミャウは、雷を封じられた以上、ラムゥ-ルは通常攻撃に頼るしかないと踏んでいる。


 だからこそ、背中の大剣には特に意識を集中してもいた。


「……底の浅い戦法だ。全くがっかりだな」


「とか言って、全然対処できてないじゃない。私、こうみえて素早さには自信があるのよ。おまけに付与も色々付いてるしね。なんならその背中の飾りで攻撃してみる? まぁ余裕で躱してあげるけど」


「そうか、だったら躱してみろ」


 ラムゥ-ルの冷たい声がその耳を震わした瞬間。ミャウの身に電撃が迸り、直後その身がヒカルと双子の兄弟の脇を高速で通りすぎていった。


 そして、大地を打ち付ける音と共にミャウが地面に叩きつけられ土埃が舞い上がる――。


 その姿に、ヒカルもウンジュとウンシルも驚きを隠せない様子であった――。

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