表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/258

第八十話 四大勇者

「お前のいう魔王の事などは知らぬ。俺たちは主の望むように行動するだけ――主は俺に再び生を与えてくれた。だからこそ主の下僕としてその命に従うのだ」


 白衣の男に顔を向けながら発したのは、背中に大剣を括りつけた男だった。そしてその男の身にミャウが瞳を向ける。


「この人……絵画でしか見たことなかったけど、あの金髪に金色の瞳――そして背中の大剣、間違いなく雷帝ラムゥールね」


 ミャウがぼそりと呟く。その言の通り、彼は天を突くような黄金の髪を生やし、そして見るもの全てを射抜くようなその瞳には金色の光を宿していた。


 彼の背は決して大きくはないが、髪や目と同じように綺羅びやかな黄金の鎧の隙間から覗かせる筋肉は、数多の修羅場をくぐり抜けた達人のソレである。


「主は我に再び戦いの機会をくれた。我が力を存分に発揮してみせる事こそ、恩返しに繋がるというもの」


「……あの異様に巨大なガントレット――それに人間離れした身体……あれが武王ガッツか――」


 ミルクの眼はその勇者の赤茶色の肉体と、両手に装備されたガントレットに向けられていた。


 ミルクのパートナーであるタンショウは、かなりの筋肉を誇る戦士であるが、目の前の武王は筋肉の砦と言わんばかりの体躯を誇り、彼と比べればタンショウの肉体など霞んで見えてしまう。


 そしてその顔もまた巨大で、とても角ばった形をしている。髪は肌と同色で短く刈り取られていた。


 武王ガッツはその体一つとっても常人離れしたものを持っているが、更に特徴的なのは、その真っ黒い双眸と、腕の長さの倍ぐらいはありそうな、同じく黒色のガントレットだ。


 そして武王ガッツは、鎧すらも黒であり、赤茶色の肌と相まって、その姿は最早、天然の要塞と言っても過言ではないだろう。


「雷帝ラムゥール、そして武王ガッツとくるなら、貴方が魔神ロキ様……」


 勇者ヒロシが、首から下全てを被うようなローブに身を包んだ男に確認を行う、


「……どうやら私達はこの時代において随分と有名なようなのだよ。しかし、今の勇者殿に出会えた事は光栄に思いますよ。そして主にも感謝いたします。数多の勇者が集結する機会などそうはありませんからね」


 空のように蒼く、まるで女性のように長い髪を掻き上げながら、魔神ロキは応えた。

 その所為によって、軽くめくり上がったローブの中から、腰に吊るした一本の長剣が覗きみえる。


「そうなると、この中で唯一の女性である貴方が、聖姫ジャンヌ様……」


 プリキアが、そしてヨイが、その見姿をどこか、ぽ~っと見とれた風にして眺めていた。


「聖姫……ですか」


 ジャンヌはソレ以上は語らず、両手に持ちし白銀の槍を胸元に手繰り寄せた。

 神秘的な意匠が施されたその槍は、十字架を模したような形を有していた。


 四大勇者唯一の乙女である彼女は、肩まで伸ばした銀色の髪を靡かせ、どこか憂いの感じられる大きな瞳を、外側へ逸らしてみせる。


「四大勇者様は魔王の事などは知らないと言うのか……しかし! 私は納得がいきません! 皆様には僕と同じように熱い勇者の血が流れているのでしょう! ならば復活せしその生命はこの国の平和の為に使うべきではないのですか! そうだからこそ共に魔王を……」


「平和だと? ……くだらんな」


 ガッツが吐き捨てるようにいう。


「そもそも俺は勇者等と言われることにも吐き気がする」


 雷帝ラムゥ-ルは、忌々しいと言わんばかりに奥歯を噛み締めた。


「折角こうして我々は別の時代に復活出来たのだよ。そしてこの力を存分に振るう事を主は望んでいる――私にとっては願ったり叶ったりなのだよ」


 ロキの歪んだその表情は、とてもかつて勇者と崇められた男がみせるものではなかった。


「…………主の命に、私は従う、だけ」


 言葉こそ少ないが、ジャンヌは決意を決めた鋭い瞳を、一行に向ける。


「そんな……一体どうして――そうか! さてはお前が彼らに何かしたんだな! くそ! 一体何をした!」


 勇者ヒロシが白衣の男に指を突きつけた。すると眼鏡を軽く押しながら、男はレンズの奥から勇者の顔を覗き見る。


「その考えは決して間違いではないが、だからといってそれを安々教えるほど、私は甘くはないんでね」


「だ、そうだ。まぁこいつは俺ほど融通はきかないぜ? それになぁお前ら、今はそんな事を考えている場合じゃないだろう?」


「くくっ。そこの黒いのの言うとおりだな。主よ、互いが互いを知りたければ、言葉などより、この力で証明しあうのが一番の早道と思えますが如何か?」


「……ガッツ。お前はかなりの脳筋とみるが、その単純さは評価も出来るな。私は特にあの勇者とどれぐらいやり合えるかが知りたい。そして――倒せるようなら……判ってるな?」


 ガッツはその巨大な唇をぐにゃりと歪め、仰せのままに、と言葉を返した。


「そんな……まさか勇者様達と戦うことになるなんて――」


「いい意味でマジニ様――きます!」


 ヒロシが戸惑いの表情を浮かべるなか、セーラが何かを察知し忠告する。ホウキを握るその手には汗が滲んでいた。


「な、なんじゃ! 地面が、ゆ、揺れておるぞ!」


「これは、気を抜くと絶対にヤバイわね」


「チッ、全く次々へと化け物ばっかやな! だからヤバイいうんたんや!」


「プ、プルームさん。も、もう今更、い、いっても……」


 ヨイが片目を瞑りながら発したその直後、武王ガッツがその巨大なガントレットで、大地を叩き壊さんばかりに殴りつけた。


 刹那――舞い上がる灰煙、広がる衝撃、砕け散る墓石達に、亡者の呻きのような轟音が木霊する。


「た、堪えれんのじゃあぁあ、飛んで行くのじゃああぁあ」


「お、おじいちゃぁぁあああん!」


「ゼンカイ様ぁああぁあ!」


 ミルクは何とか脚に根っこを貼るように踏ん張り、その衝撃から堪えた。

 その後ろにはタンショウとジンが立っていた。ミルクと同じように何とか堪えられたようだ。


 だが、他の面々はその衝撃によりどこかへ吹き飛ばされてしまったようであった。そして同時に別の影が、吹き飛ばされた者たちを追うように散っていったのもミルクは知っていた。


 ジンも、姫様が、と表情に悔しさを滲み出している。


 だが、かといってすぐにでも追うというわけにはいかなかった。


 なぜなら――目の前に巨大な要塞が立ちふさがっていたからである。

 そう、仁王立ちを決め、決して崩れることなどないと、自信に満ちし様相の要塞が。


「……あんたがあたし達の相手って事かい」


 ミルクが瞳を尖らせた相手は、ふむ、と一つ顎を引き。


「勇者がいないとはな。少し残念か。あれならば堪えられると思ったが、自ら仲間を追うようにあえて飛ばされおった。全くつまらぬことだ」


 ガッツが腕を組むと、巨大なガントレットが身体の三分の一程を覆った。身の丈3メートルはあるであろう、その身を考えると、手にはめられたソレの巨大さが良く分かる。


「俺達も随分となめられたものだな――」


 ジンがバスタードソードを握り、正面に構えた。するとタンショウも両手の盾を突き出し、これまでとは比べ物にならない程の真剣な表情をガッツに向けた。


「あたし達の事を甘く見てると痛い目を見るよ」


 ミルクも両手を広げるように得物を構えながら、武王の動向を探るようにみやる。


「ふむ。我がなめてる? 甘く見ている? 安心しろ。そんな事は絶対にない。獅子は兎を撃つに全力を用う、というからな。だが、だからこそ――」


 その瞬間、悲鳴すら上げる間もなく、ジンの身が数10メートルを吹き飛び、そして大地にめり込むように落下した。


 ガッツの巨大な右腕は、ミルク達が認識する間もなく前に突き出ていた。その拳速故か、ガントレットの表面からシュゥウ――シュゥウと煙が立ち上っていく。


「悪いが一切手加減など出来ぬのだよ」


 ガッツはその黒い瞳を、残った二人に向けながら、分厚い唇をニヤリと歪めた――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ